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雨と簾

長くなってグネグネと積み上げられた簾が邪魔者扱いされ始めたある日。

いよいよ暖簾の使い道を試す時が来た。

夕食を食べ終わって少ししたところで雨が降りはじめたのだ。

しかもすぐに土砂降りの雨になり、家の中には水が落ちてくる。

幸い室内に風はあまり吹き込んできていない。


「これはひどくなりそうだな」


小降りのうちは落ちてくる雨水を様々な容器で受け止めて、飲水を入れる瓶に貯めていたが、それでは追いつかないくらいの雨となり、自分たちが濡れないようにするのが精一杯となった。

僕は雨の落ちてくる場所を確認しながら、いくつかの家具をベッドサイドに動かし始めた。


「何してるんだ?そんなことしても、今日の雨じゃどこに動かしても全部水浸しだぞ?」


僕が家具を雨から守ろうとしているように見えたのか、父親はそう言った。

だがそれは違う。

家具より、自分が風邪引かないようにするのが目的だ。



僕は同じくらいの高さの家具を、隙間を開けてベッドの周囲に集めた。

布団を寄せてベッドの枕元と足元にも家具を乗せ、他の家具とのバランスを考えて高さを調整する。

その際、ベッドの頭側が少し低くなるよう傾斜がつくように足側に置く家具の方が少し高いものを選んである。

そして感覚を開けて配置した家具の上に簾を立てて柵のようにした。

それから簾がうまく立てられるよう、家具の位置を細かく調整する。

幸いベッドの三辺を囲めるくらいの長さになっていたのでベッドの足元に当たるところを少し開けてそれ以外のところを柵のように覆うことができた。

今度はその上に短い枝を繫いで作ってあった簾を乗せる。

この簾が天井部分になるのだが、この時点で上に隙間があっても問題ない。

さらにその簾の上に、僕は自分の使っているシーツを乗せるのだ、シーツが落ちてこないよう、簾が支えになってくれればいい。

シーツは布なのでどのくらい耐えるかわからないが、ベッドはできるだけ雨漏りの少ない場所に配置しているし、一晩、雨を逃してベッドが濡れなければ風邪を引かずに休むことができるのだろう。

ちなみに柵で覆ってしまったベッドとの出入りだが、足元部分に少し開けたところがあるのでその隙間をくぐることで可能にしている。

本当はベッドの天蓋のようなものにできればよかったのだが、生憎、丈夫な柱になるような木材は手に入らなかったし、もしそういうものが手に入るのなら家の柱の補強を優先すべきだろうと僕は思った。

イメージはベッドの天蓋だが、周りが覆われていることもあり完成品の見た目はテントに近いものとなった。

テントのように折り畳めるわけではないが、雨が上がってから取り除くことは容易にできる。



僕はそこまで作り終えると室内で雨漏りをしていないところに移動している両親に声をかけた。

両親は雨をよけながらも、僕の邪魔にならないよう離れた場所から見守ってくれていたのだ。


「ねぇ、とりあえず中に入ってみてよ。あ、ランプはあった方がいいかも」


小さいテントのようなものを無事に完成させた僕は、そこに両親を招き入れた。


「外側の立ててあるところには触らないようにしてね。倒れちゃうかもしれないから」


僕はそう注意を伝えた。

作っているのを黙って見ていた二人もそれはさすがに理解できたようで、静かに中に入ってベッドに上がった。


「あら、布団がまだ濡れていないわね。それにここの方が暖かいわ」


先に入った母親は雨には当たらないようにしていたものの、冷たい空気にさらされていたので少し冷えてしまっていたらしい。

そこに持ち込まれた布団が濡れていないことを喜んで、布団にくるまった。


「秘密基地にでもいるみたいだ。子供の頃を思い出すな」


その後からランプを持った父親が中に入ってきて、中に入るなり少し嬉しそうにしている。


「ランプは、一応そこに置けるようにしたけど、倒れないように気をつけないといけないよね」


ベッドという不安定な場所にランプの火を置くのは危険だ。

しかしこう全体を覆ってしまうと中は暗くなってしまうので、一応ランプを置けるように柵を乗せる家具より一回り小さい家具を内側に置いておいた。

父親はそれに気がついてそこにランプを置く。

ランプの火が中に入っただけでベッドの周辺がオレンジの温かい色に変わった。

シーツが白いおかげで、ベッド全体に光が広がる。

置かれたランプが倒れないことを確認した父親も、ベッドの上にある布団を引き寄せていた。

どうやら動き回っていた僕だけが少し暑いと感じているだけで、両親は寒いのを我慢していたらしい。

布団を抱えた状態で三人並んで落ち着いたところで、父親がぽつりと言った。


「何か、こうして狭い空間でランプの灯りを頼りに身を寄せていると、狩りの野営を思い出すな」

「狩りは日帰りじゃないの?」


僕が知っている限り、いつも大きな台車を持っていったとしても、必ずその日に帰ってきていた。

そんな遠くまで狩りに行かなければならないこともあるのだろかと思っていると父親が続ける。


「基本はそうだが、帰れなくなる時もあるからな。そういう時は狭い洞窟を探して、獣が来ないかどうか交代で入口に見張りを立てながら、その中で過ごすんだ」

「そうなんだ」

「今日は家の中だから、獣が来るような心配はないけどな」


僕は獣さえいなければ、洞窟に住むなり、雨の度にそこに避難した方がいいのではないかと考えた。

洞窟ならば、少なくとも上からの雨には耐えられるし、風除けにもなる。

外だから焚き火もできるし、今の環境と比較してもあまり変わりないように思えた。

しかしそれは、家を直すこともできない父を侮辱することになるため、もちろん口には出さない。

これが特殊な環境だからだろうか、今日の父親は饒舌で、森での狩りの話、洞窟の話、何となく男のロマンを感じさせる、冒険のような話を僕はずっと聞き続けることになった。

気がつけばそんな話を聞いているうちに雨が上がり、夜もあけようとしていた。

柵の隙間から光が差し込んできたので夜が明けたことに気がついたのだ。

僕たちが話している間、母親は布団にくるまったまましっかりと眠れたようだ。

顔に光があたったのを感じて目を覚まし、あたりを見回すと思いだしたように言った。


「雨の夜にこんなに暖かくゆっくり眠れたことはなかったわ」


そして母親は目をこすりながら、朝食の支度をしなければとベッドの上から降りて部屋に戻る。

それを見て父親と僕もこの囲まれた空間の外に出た。



部屋の状態は、いつもの雨上がりと同じ状態だった。

床は中に入り込んだ雨水で水浸し。

幸い天井は落ちたりしていないので、木くずなどは少なめだ。

きっと風があまりなかったのも幸いしたのだろう。

その中で母親はキッチン周りを掃除して、調理に取り掛かっている。

僕と父親はというと、無言で掃除用具を取り出して、雨水を外に出すため掃きだす作業を行った。

いつもと違うのは三人とも寒さにも雨にもさらされなかったため、体力が残っているということだ。

僕は父親の話を聞かされていたので寝不足ではあるが、いつも雨の時は安眠できないのだからこのくらいなら平気だ。

ちょうど僕たちが掃除を済ませ、立てた簾を下ろし、家具を元の位置に戻して、濡れた家具もできるだけ拭きとったところで朝食ができた。


「ちょうどいいタイミングだったわね」


母親もいつもより調子がいいのか、雨上がりにも関わらず機嫌がいい。

早朝から掃除を済ませて、天気の回復した外を見ながら、その日は早めの朝食を仲良く食べるのだった。

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