カサンドラ症候群の日常
「私、、昨日、、、あの、、。」
「どうぞ、ゆっくり話してくださいね。」しおりがそう言うと、S子さんは
「私、、主人を、、殺そうと、、、しました。」そう言って大きなため息をつく。
「何があったのかをお聞きしても構いませんか?」
「はい、。」何回か深呼吸をしてから、少しづつ話始めた。それを纏めると次の様な内容であった。
昨夜の事である。S子さんの夫は帰宅時から不機嫌であった。「お帰りなさい」と声を掛けた彼女に対して、「こんなところに何だ、こんな物置いとくんじゃねぇ!」といきなり怒鳴ったという。買い物から帰って、ついうっかり小さなバッグを上り口に置いたままにしてしまった。普通に考えれば大した事ではないと思うが、、しかし、そんな風に気分次第で当たり散らす場面は割と良く有るという。S子さんは黙ってバッグを片付けた。それで済むと思ったのだ。ところが昨夜はそれが始まりになった。
「まったく、邪魔なんだよ!」と、また怒鳴る。大声を出しながら、自分の中の怒りを更にエスカレートさせていく。そしてそこから単純な貶し文句が流れ出てくる。「お前は本当に鈍臭い奴だ、鈍臭いったらない、嫌になる。」このフレーズが始まると、繰り返し何十回でも続けるのだ。S子さんはいつもの様に吐き気を我慢しながら、その文句が収まるのを待つしかなかった。待っているつもりであった、、だが、昨夜は何かが違った様だ。
S子さんの心に火が走ったのだ。身体の中が熱くなり、それが上へと登る。顔が熱い、そして目の前が炎に包まれたと思った。その瞬間、無意識に台所へ走り、包丁を手にした。そしてそのまま夫へ向かっていったのだ。夢中で包丁を振り回す。その先が夫の腕を掠った。そこから真っ赤な血が流れ出た。その赤色を見て、はっとそこで一瞬我に返ったそうだ。けれど、また直ぐに頭の中が真っ白になり、S子さんは怖くなり家を飛び出した。そして友人の家に身を寄せ、そのまま今日、此処に来たと言う訳である。