第29話アイリーンの計画の全容
計画とは
人は皆、誰しも[役割]を持ってこの世に生まれてくる。
[生まれてきた理由]や[存在意義=アイデンティティー]と言っても良いだろう。
それはどうすれば判るのかと言うと、男の子であれば父親や祖父や先祖の職種だ。自分の血縁の先人達が何をしてきたのかを知る事が大切だ。
文明開化が果たされた現代の社会では得意な分野を其々それぞれの得意な人が担当するのが最も効率的になっている。親や祖先が何の仕事をして成功したのかを知れば、将来その仕事で成功するだろう。遺伝子的に適性があるのだから。
アイリーンは本名では無い。様々な偽名を用いていた為ため、捜査の都合上付けられた仇名あだなだ。本名は誰も知らない。
家系は不明だが、小さい頃から盗賊に成る宿命だった。
母親は売春婦で殺人犯、父親は自称歴史小説家だった。
物心ついた時には母親は監獄暮らし、父親はアイリーンに愛情を与えなかった。
アイリーンが冷酷な女盗賊に成るのも時間の問題だった。
父親は娘を私立探偵と結婚させようとした。
しかし、いくら優秀でも収入が安定しない、麻薬漬けの人格破綻者で自室で突発的に暴れる乱暴な男と結婚したいと思う女の人は少ないだろう。
アイリーンは家を飛び出し街を彷徨さまよっていた。その時に偶然、両替所の行員と知り合った。
アイリーンの頭脳はその瞬間に冴え渡り、閃ひらめき、一瞬で大まかな強盗の計画を立てていた。
アイリーンは世の中の人を3種類に分けて考えていた。
・バカで何も考えず突発的に行動を起こす大多数の住人
・自分が賢いと思っているプライドが高く思慮の浅い人
・それらの人々を観察する物心の深淵を覗く本物の天才
つまり、
・大多数のバカ
・勘違いバカ
・天才(自分)
だ。大多数のバカを数人犠牲ぎせいにして、勘違いバカの騎士隊長を騙し、天才(自分)が成功を収める計画だった。
行員はアイリーンにオーキカと名乗った。これから犯罪をするっていうのに本名を名乗るとは抜けてる奴だと思った。しかしオーキカだけは共犯者として残そうと思った。
他人に冷酷な女だが何故、残そうと考えたのかは本人にも解らなかった。
騙す人間が多い中、金をチラつかせて近寄って来た軽薄な男だが、本名を名乗った正直さに好感を持ったのかもしれない。
アイリーンはオーキカを通して両替所内のセキュリティーの全容を完璧に把握した。
・玄関の消える壁
・セキュリティーゲート
・警備員の数
そしてトップシークレットの両替所内でもお偉いさんの一部しか知らない、強盗犯を無力化するガス噴射装置を聞き出した。
・最終手段のガス
オーキカはベテラン行員だが、うだつの上がらない男で出世競争に敗れていた。
アイリーンはオーキカに真の計画の一部を明かした。
次に実行犯2人を貧しい原住民の風の民から選んだ。
見付けるのは容易たやすかった。
街には食い詰め者の風の民が溢れていた。
彼らはトルコ風の民族衣装を着ている。
天使達は風の民とは違い皆、裕福そうだ。
この島々は元は風の国の民が住んでいた。しかし、天使達が何処からかやって来て定住してしまった。
天使達は島々の資源と土地を奪った。しかし、この地に文明を根付かせた。
そして、貧しい風の民を強盗団の仲間に引き込むのも容易たやすかった。
アイリーンがニセ計画を話すと躊躇ちゅうちょして決断出来なかったが、風の民のプライドを燻くすぶったら、あっさりと承諾して仲間に加わった。
ー風の民に話したニセ計画ー
先ず、アイリーンが客として先行潜入する。
そこで身代わりになる一般人の客2人を見付け、その服装を外の茂みに武装して隠れている風の民の実行犯2人に伝える。同じ服装をさせ、マスクで顔を隠させる。
強盗の突入のタイミングは玄関の壁が消える瞬間。誰かが両替所内から出て来るタイミングだ。
玄関の壁はカメラのような物で見張られており、目視でチェックされていた。
マンションのオートロックみたいな物だ。
誰かが帰り、壁が消えるタイミングをアイリーンが2人に通信魔道具で伝える。
警備員の片方はアイリーンが誘導し物陰で亡き者にし、突入した実行犯2人でもう片方の警備員を始末する。
使用する武器はボウガン型のロケットランチャーに似た武器だ。一発しか撃てないが2人で二発撃てる。
セキュリティーゲートを突破し、窓口の強化ガラスをボウガン型武器で破壊する。
行員を武器で脅し、一番偉い所長を縛りあげて目隠しをする。
実は内部犯のベテラン行員のオーキカが脅おびえたフリをして隠されている金庫の場所を教え、金庫を開ける。1人がオーキカと金銀財宝を運び出し、1人が全体を監視する。
金銀財宝を運び出せたら、所長のテーブルの裏の緊急ボタンでオーキカが最終手段のガスを噴射させる。
この最後のセキュリティーは敵味方関係無くガスで眠らせると言う荒っぽいシステムだった。
建物内をガスで充満させ、所長だけはテーブルの下の脱出穴が開き逃げられる寸法だ。
アイリーンが一般人客2人を助けるフリをしてガスマスクを被せて玄関に誘導して飛び出させる。
その隙に実行犯2人は一般人のアイリーンと善良な行員のオーキカを人質として連れ去る寸法すんぽうだ。
実行犯の2人は身代わりが飛び出した瞬間に警備隊に射殺されるので追っ手が掛からない。
アイリーンとオーキカは人質なので元より疑われない。
そう説明してバカな風の民2人を騙した。
そして……計画通りに行った。
しかし、ここからアイリーンの真の計画が始まった。
ーアイリーンの真の計画ー
アイリーンはこう思考を巡らせた。
偽装した身代わりはすぐにバレるだろう。
しかし、真犯人が仲間割れして相打ちをしていたら完全に騙せるだろう。
騎士団の隊長は自分が賢いと思っている勘違いバカだ。
自分の推理を疑う事はしないだろう。
勘違い自称天才は自分の頭の良さを疑わないものだ。
身代わりを射殺してくれていたら早く事件解決を願う騎士団は些細ささいな違和感にも目を瞑つぶるだろう。
ガスで充満した両替所から、所長専用ルートで脱出し、
島からの脱出に人気ひとけの無い小さい島の公園を船着場に指定した。
そこに4人で逃亡し、実行犯2人を誘導し、傍の茂み隠しておいたボウガン型の武器で2人を射殺する。
お互いを相打ちに見せ掛けて、向き合わせ配置し、金銀財宝の半分を敢あえて放置する。
相打ちを目撃したと後で保護される人質役のオーキカに証言させる為ためだ。
相打ちの理由がオーキカが運ばされていた半分の金銀財宝を公園に行く途中の橋の上から落としてしまったので取り分が減り、その結果モメたと証言させる。落とした理由は恐怖で足がもつれたとでも言わせる。
そして消えた半分の財宝をアイリーンとオーキカで別ける計画だった。
追っ手は掛からず悠々と、堂々と自分の家に帰るだけだ。
……計画は完璧だった。
そして完璧に遂行された。
実行犯2人を始末し、アイリーンとオーキカは別れ、金銀財宝を其々それぞれ自分しか知らない隠し場所に隠した。
証言する為ために財宝を隠したオーキカは残った。
アイリーンは財宝を隠した後に現場から逃走した。走る必要は無かったのだが犯行後の興奮で路地を走った。人間はロボットでは無い。喜びと犯行の刺激で心拍数が高くなるのは当然の事だ。
そこに偶然、ロベルトが現れてアイリーンはパニックになった。
水の国の皇帝の近衛隊長でもあるロベルトが犯行直後に現れたら誰でも計画がバレたと勘違いするだろう。
現代のSPと同じ近衛兵は要人警護が主で犯人逮捕は主ではなかったのだが、、。
この時、ロベルトは強盗がアイリーンの計画であるとは露つゆほども思っていなかった。
突然襲い掛かってきた暴漢を取り押さえただけだった。
ロベルトは偶々たまたま、通り掛かっただけだった、もえちゃんを追い掛けて。
緻密ちみつなパーフェクトプランが、偶然に偶然が重なった不運で破綻したのをアイリーンが知ったのは、アイリーンが牢屋に入れられた後だった。
〜アイリーンの真の計画〜完了
二重の計画だった。




