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74.きっと、ミゼさんに罪はない。


 是非使ってください、と受付嬢さんに押し切られて、今晩の宿は冒険者ギルドの一室を借りることになった。


 そして当然のようにギルド併設の酒場で宴会が始まってしまったのだけれど、カルロさんの謹言が身に染みたのもあって、お酒は飲めないけれど参加しようと思う。


 王女様を粗野な冒険者の中に連れ込んでいいものか、と様子を見ると、モティカと受付嬢さんにに捕まったセイラとレキさんが、懇々と如何にラグソルの村が危険な状態だったかを語って聞かせていた。


 俺とミゼさんについてもあることないこと吹き込みそうだけど、そこは受付嬢さんにしな垂れかかられて迷惑そうな顔をしているミゼさんが止めてくれる事を願おう。


 助けを求める視線に「ガンバって!」とエールを送り、カルロさんたち男の冒険者衆が群れるむさ苦しい中に引きずり込まれる。


 お酒だけは無理ですと断りを入れてヒンシュクを買いながらも、毒沼を浄化した事が伝わっているらしく揉みくちゃに歓迎されて、程よく出来上がっている冒険者さんの一人ひとりの話をじっくりと聞かせてもらった。


 どうやら、今このラグソルの村に残っている冒険者はほとんどが瘴気汚染以前からこの村に住んでいた人たちだそうだ。


 俺たち以外にも聖水を運ぶ依頼を受けた冒険者も村を訪れていたのだけれど、俺たちが毒沼を調査しに行ったのと前後して、聖水を置いて村を立ち去ったようだ。


 「奴らにも感謝してるが、一番の功労者はお前だ!」と乱暴に肩を組まれたり頭を撫でられたりで忙しい。


 しかし俺ばかりが持ち上げられている気がするので、「あちらのミゼさんも一緒に毒沼に行ったんですよ?」とこちらと比べれば遥かに大人しい女性陣の方を指してみる。


 途端、「あの人か……あの人はなあ……」と乱痴気騒ぎの冒険者たちがずんと沈んでしまった。


 え? あれ? 何でこんな空気に? もしかして、ミゼさんが魔族だとバレた?


 一人顔を青くしていると、冒険者の一人がポツリと、


「まさか、ネルちゃんがあんな……」


 その呟きに、何人もの男たちが「ちくしょおおお!」と泣き崩れた。


 何事? ネルちゃん?


 冒険者の皆さんの視線が集まる先は、ミゼさんとそれにしな垂れかかる受付嬢さん。


 あ、ミゼさんに「あーん」しようとした受付嬢さんの腕、が曲がっちゃいけない方向に曲げられてる。


 悲鳴を上げる受付嬢さんだけど、やっぱりどこか嬉しそうだ。


 それを見て、またしても男の人たちから溜息が漏れる。


 ああ、うん。なるほど……?


 なんとも脱力した気分で冒険者の皆さんの話を聞くと、どうやらネルちゃんこと受付嬢さんは、この冒険者ギルド・ラグソル支部のアイドルであったらしい。


 辺境の寒村に咲く一輪の花だったのだけど、ある日を境に特殊な性癖を開花させ、常に「ああ、お姉さまにお会いしたい!」と頭がお花畑。


 それでも果敢に特攻した猛者もいたのだけれど、色々と試された挙句、「物足りない」「勘違いしている」「ゴミ屑野郎」と散々な言葉で全て撃沈しているそうな。


 以前は愛想笑いで誤魔化していたらしいので、あの日、ミゼさんは受付嬢さんの新しい扉を幾つも開けてしまったらしい。罪な人だ。


 素なのか酔っ払っているのか分からないけれど、ミゼさんにベッタリと張り付く受付嬢さんを見て、今晩ミゼさんの部屋の入口にバリケードを作っておこうと固く決めた。




   ◇




 翌朝、モティカに何を吹き込まれたのか、セイラの尊敬の眼差しとレキさんの同情の眼差しに居心地の悪さを感じながら、出発の時間を迎えた。


 冒険者の皆さんはともかく、受付嬢さんはお別れに抵抗するかと思っていたのだけれど、すんなりと見送ってくれそうだ。


 「最後に抱擁を!」とミゼさんに抱き着こうとして、豪快に放り投げられていたけど。


 「何故!?」と泣き崩れる受付嬢さんを尻目に、モティカたちに別れを告げて車を発進させた。


「ふぅ。寄り道はどうだった?」


 車中で呆れ笑いを浮かべていたカルロさんが訪ねてくる。忠告をくれたり、色々と気苦労を掛けているのだろうか。もっと成長しないとな。


 しかし、何とも答え辛い質問だ。


「有意義……だったんではないでしょうか。概ねは」


 俺の言葉に、ミゼさんも苦笑して頷く。


 モティカたちが元気そうだったのは本当に良かった。受付嬢さんは……処置無し、という感じだったけれど。


 セイラは何もかもが新鮮で楽しそうだし、レキさんも「見直した」と頷いてくれているので、きっと良い寄り道だったのだろう。


 次に向かうのは、ツェペリの町だ。


※敬称など一部修正しました

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