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68.あの日あの時この場所で


 勇者召喚の儀式を行う王女様のために切り開かれた道を魔力自動車で上っていくと、あの日徒歩で半日掛かったのが嘘のように、小一時間で風化した遺跡の入り口に到着してしまった。


 中庭から見えていた場所ではあるのだけど、外側からこの門を見るのは初めてだ。懐かしさは特に感じない。


 車をアイテムボックスに仕舞って、崩れかけた遺跡の門を潜る。


 中はあの日と同じ……というわけでもないようだ。


 中庭を囲む建物の一部が崩れ、その石があちこちに転がっている。


 見た目は古いけどしっかりと管理された遺跡だったのが、これではすっかり風化した遺跡跡だ。


 そして崩れた場所。あそこは……。


「地下牢があった場所だな」


 俺の視線に気付いたのか、レキさんがこっそりと囁く。声を潜めたのは、後ろにいるセイラ王女を慮ったのだろうか。


 頷きつつ、ミゼさんをチラリと窺い見る。特に興味も無さそうに眺めているばかりだ。


 この崩落は魔王ゼザの仕業に間違いないと思っているのだけど、ミゼさんは何も聞いてないのかな?


 牢屋に入れられた召喚勇者に興味があった、と語るあの悪戯小僧のような笑みを浮かべた魔王を思い出して、苦笑が漏れる。


 意外なところで、カルロさんが興味深そうに建物の中まで覗き込みに行っていた。


 遺跡とか好きなんだろうか?


「あの……何か見えましたか?」


 色々な事に気を取られていると、おずおずとセイラが尋ねてきた。


「いえ、特に何も。俺たちが召喚された場所に案内してもらっていい?」


 この場所は特に居たたまれなくなるのか、心苦しそうなセイラに、努めて穏やかに声を掛ける事を意識した。


「こちらです」


 セイラとレキさんに先導してもらったのは、かつてはいつも兵士が見張りをしていて、俺たち召喚勇者の立ち入りが禁止されていた一画だ。


 開け放たれた扉の向こうには、あの時目にした召喚魔方陣が残っている。意図してか、セイラもあの日の立ち位置にいるが、浮かべる表情は沈んでいる。


 召喚された日も緊張からか強張った笑顔だったし、中々素の顔になってもらえないな。


 自嘲の笑いを飲み込んで、魔法陣へと視線を向ける。


 改めて見てみると、この魔法陣は大きいだけでとても簡素な物だった。


≪指定召喚魔方陣≫

≪構成は≪対象指定≫≪座標指定≫≪召喚≫から成っている≫


≪対象指定≫

≪対象『異世界召喚者』を指定≫


 ……これは。


「セイラ。召喚について、君が気にする必要は無さそうだよ?」


「え?」


 近くにいるカルロさんを気にして誤魔化しながら、セイラたちに俺が見た魔法陣の構成について伝える。


「つまり、お前たちは何者かにどこかに召喚されていて、改めてここに呼び出されただけだと?」


「はい。この魔方陣に異世界からの召喚の機能が無いので、恐らくは。だから皆さんが召喚の儀式をしなくても、勇者たちはこの世界のどこかに放り出されていたと思う」


「そう、ですか……」


 巫女であるセイラに下された神託というものを思うと、おそらく別のどこかで召喚の儀式が行われるだけだろうという憶測だけど、少しは肩の荷も降りてくれるだろうか。


 突然背負っていた責任を無かったことにされて戸惑うばかりのセイラだけど、後は時間が解決してくれることを祈ろう。




   ◇




 中庭に出て、セイラたちの今後についてを話し合うことになった。


 俺個人としては、ラドセニア王国にいる理由もないので、さっさと出国したいところだが、セイラは宰相の企みについて情報が欲しいのだという。


 しかし、


「私の知り合いは王国の方ばかりで……他国の方も気軽に会える人はいないんです」


「私もセイラ様のお付きで成り上がった身なのでな。権力者に縁故など期待しないでくれ」


 というのはラドセニア王城組。


 何とかしてあげたいが、当てが無いんじゃあどうしようもない。


 俺はもちろん、ミゼさんもお偉いさんの知り合いなんていないだろうし。


 悩んでいると、


「当ては……あるにはある」


 苦々しい表情で、カルロさんが挙手をする。


「本当ですか?」


「ああ……」


 自分で言い出したのに、何だかカルロさんは嫌そうだ。一体どうして?


「おい、この男は信用できるのか?」


 不思議に思っていると、ぐいっとレキさんに引っ張られて囁かれた。


「そう言われると……。良い人だとは思いますけど、まだ知り合って日が浅くて」


 何だかんだで出会ってから一ヶ月も経っていない。


 何故かラドセニア王国まで付いて来てくれたけど、元々はツォルス王国の冒険者ギルドでお目付け役を押し付けれた関係だ。


 当てというのは、冒険者をしていて知り合った人だろうか。


 そんな内緒話をしていると、疑われているのを感じたのか、カルロさんが重い口を開いた。


「……俺の実家だ」


※敬称など一部修正しました。

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