60.劇的な再会。
三章のあらすじ
魔王の遺産を授けられた優吾とミゼは、魔王の手紙の示すままにツォルス王国のツェペリという町へと向かう。
そこで冒険者になった二人に、冒険者ギルドツェペリ支部のマスターレムーアの計らいで、ベテラン冒険者のカルロがお目付け役として紹介された。
カルロの指導の下、幾つかの依頼を達成した二人は、瘴気に侵されたラグソルの村で勇者召喚を行ったラドセニア王国王女セイラの婚約者が、優吾を投獄した奸臣の息子である事を知る。
友人であるセイラを気に掛けた優吾に、ミゼは「気になるなら行けばいい」と背中を押した。
受付嬢さんやモティカたちに別れを惜しまれながらも、ラグソルの村を出発して十日。
魔力自動車でナスギアナ公国を斜めに走り抜けるようにして、俺たちはラドセニア王国の王都、セニアを目指していた。
移動ルートの選定はベテラン冒険者のカルロさんだ。「このルートが一番負担が少ないはず……いや、ここは崖沿いの難所があるのか。……嫌な予感がするな。遠回りだがこちらのルートにしよう」などと、日夜地図とにらめっこしていた。
何だか安全なルートばかりを選ぼうとしているけれど、年下の俺やミゼさんを気遣ってくれてるんだろうか。
そんな必要ないんだけどなあ、と伝えたら、何とも微妙な顔で苦笑いされた。何か間違えたみたいだ。
国境を越えるのはどうするのかな、と思っていたのだけど、カルロさんの案内で荒野を走っていたら、「この辺はもうナスギアナだな」とか「もうラドセニアだ」と至極あっさりと越境出来てしまっていた。
どうもこの大陸の国々は広すぎて、国境の管理がかなり適当みたいだ。
そういえば、魔王ゼザのいたトゥタの村があった場所も、『ナスギアナ公国内の管理されていない地域』みたいな感じだったっけ。
流石に地図に載っているような大きな街道には関所があるみたいだけど、カルロさんはしっかり避けてくれたみたいだ。
道中のキャンプで、夜中に「あいつら指名手配されてるわけじゃあないんだから、素直に街道を通れば良かった」と酒を片手に嘆いていたけれど、大人には色々あるんだろう。あと、魔力自動車の事とか聞かれると面倒なんで、このルートでありがたかったです。
そんな献身的なカルロさんのおかげで、ラドセニア王国の王都、セニアへと無事に辿り着いた。
流石に魔力自動車は悪目立ちするだろうということで、城壁に覆われた王都が近付いてきた所で車を降りて、歩いて王都へと向かう。
考えてみれば、召喚された場所は放置されていた遺跡の神殿で、その後は麓の町で魔王に拉致されて村に行ったりと、この世界の都会に行くのは初めてだった。
城壁で王都に入るための審査の順番待ちのために並ぶ、という行為が何だか懐かしさを感じると同時に、牧歌的なこの世界に似つかわしくないことが可笑しくて、笑いがこみ上げてくる。
ミゼさんに「ニヤニヤするな」と頬を抓られて、ようやく落ち着く。
「次。……ふむ。冒険者か。騒ぎを起こすなよ!」
門番の兵士は冒険者プレートと鑑定の魔法で俺たちの名前をチェックすると、あっさりと通してくれた。
俺やミゼさんのプレートはシルバープレートだし、偽造しようと思えばし放題な気がするけど
……。
不思議に思っていると、カルロさんが「人数が多いからな。城に上がるんでもなければ門番なんてあんなもんだ」と教えてくれた。
今も人は引っ切り無しに行き交い、立ち止まっている俺たちに迷惑そうな視線を送っている。
居心地が悪いけれど、それよりも。
「カルロさん、城に入ったことがあるんですか?」
「あ……ああ。ツォルスの方でな。長く冒険者やってれば、そういう事もあるさ」
少しだけ歯切れ悪くしたカルロさんは、王都の冒険者ギルドを見つけると、「じゃあな」と足早に去っていった。
俺たちの目的が目的なだけに、カルロさんと「セニアに着いたら別行動をしましょう」と話し合ったのは昨夜の事。
何かを察してくれたらしく、しばらく頭を抱えていたカルロさんは、「無事なら王都を出る前にギルドに顔を出してくれ」と俺の一方的な提案を飲んでくれた。
カルロさんとまた笑って会えるような展開になるといいのだけど。
底の見えないラドセニア王国重鎮の悪意に不安を覚えながら、冒険者ギルドの中に消えていくカルロさんの背中を見送った俺とミゼさんは、王都の探索を始めた。
まず大事なのは情報収集だ。セイラ王女や勇者として召喚された皆はどうなっているか、それとなく聞き出そう。
ミゼさんを連れて店員さんが雑談でもしてくれそうなお店を探していると、ガツンと胃を刺激する香りが漂ってくる。
「この匂いは……!?」
「匂い? おい!? ユーゴ!?」
ピンと来ていないミゼさんに説明するのももどかしくて、手を引いて走り出す。
どこだ!?
匂いは独特で強烈だ。兎に角より匂いの濃い方へと人混みを掻き分けて進んでいく。
そして見つけ出したのは――
「やっぱり! カレー屋だ!」
実物は滅多に見ないのに何故か日本人の誰もが知っている、あの金属の入れ物を模した看板が掲げられた店には、『カレー』と日本語でしっかりと書かれていた。




