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幕間・ゼザ 冬の魔王家の居間にて。

魔王ゼザ視点。

時系列は少し戻って、冬になったばかりの頃の番外編です。


 雪で外に出る用事がいくつかなくなってしまった私は、自宅の居間のコタツで娘のミゼと寛いでいた。


 愛娘。コタツ。愛娘の入れてくれたお茶。愛娘。


 ああ、幸せだ。


 愛しい娘はといえば、客人が村の幼い子たちに連れ出されたのを良いことに、コタツでだらけきっていた。


「はふ……」


 ゴロゴロと寝転び、油断した顔に浮かべる蕩けた表情はとても愛らしいのだけれど、年頃の娘が不用意に晒して良い顔でもないな。


「ふふ、ユウゴには見せられない姿だね」


「うるさい……あいつはいないし、こんなものを作った父さんが悪い」


 ちくりと刺すつもりだったのだけれど、とんだカウンターを食らってしまった。


 むしろ自作の魔道具を褒められたことに喜んでしまっている私がいた。


 他人の事を言える顔をしていないだろうな、私も。


 そこへ――


「ただいま~」


 能天気な声と共に、客人である国崎優吾が冷気を纏って帰って来た。


 おや。思ったよりお早いお帰りだね。


「おかえり」


「ん」


 いつの間にか、ピンと背筋を伸ばしたミゼが鷹揚にユウゴに頷いている。


 「くくっ」と思わず噴き出してしまった。まったく愛らしい子だ。


「どうかしたの?」


「いや、何でもないよ。体が冷えてるだろう? 早く入るといい」


 「遠慮なく」と外套を壁に掛けたユウゴがコタツに入ってくるのだけど、二ヶ所空いている内、手近なミゼの隣ではなく、私の隣の方にわざわざ回り込む。


 こちらはこちらで初心な男だ、とまた笑ってしまう。


 「なんだよー?」と、ユウゴが察して不貞腐れる。と――


「っ!」


 ビクリとミゼが飛び上がった。


 頬を紅くさせてユウゴを睨むミゼに、どうかしたのか、と訝しんでいると、


「ぐあ!?」


 くぐもった打撃音の直後、ミゼの反対側でユウゴがのたうち回っていた。


 どうやらユウゴが不用意に伸ばした冷えた足が、ミゼの足にでも触れてしまったのだろう。


 何とも色気のない二人だ。父親としては、嬉しいのか残念なのか微妙なところだね。


 ふむ。険悪になられても困るな。


「ユウゴ、随分早く戻ったけど、何かあったのかい?」


「ん? ああ。カーラが熱っぽかったから、雪遊びを止めて家まで寝かしつけに行って来た」


「……カーラは、大丈夫なのか?」


「うん。風邪かもしれないけど、今は微熱だけだから。しばらくは安静にして様子見かな?」


「そうか」


 解りにくいけど、安堵の表情を浮かべるミゼ。


 どうだ、ユウゴ。私の娘は心優しい、良い子なのだよ。


 ちらりと目配せをしてみたら、何ニヤついてるんだよと睨まれてしまった。


 おかしい。ミゼにはあんなに素直なのに。


 急がしさにかまけてコミュニケーションを怠りすぎていたのか。


 ここは家長として、客人と打ち解けねばなるまい。


「ユウゴ、久しぶりにゲームをやらせておくれ」


「んー。じゃあ交代でやろう」


 ユウゴが上機嫌にゲームを取り出す。


 一人で遊ぶことに罪悪感のようなものでもあるのか、魔力充電器を渡した後もユウゴは人前でゲームを遊んでいる様子はない。


 自由な時間であれば、遊びたいのならば遊べばいいと思うのだが、彼なりの矜持があるのだろう。


 ユウゴが「ゲームの種類を選んでいい」と言うので、今日はシューティングゲームというやつを選んだ。上からくる敵を撃ち落とす、という射的ゲームだ。


 これならルールも操作も簡単だ。


 私とユウゴが得点を競って白熱していると、隣からうずうずとした気配が漂い、ちらちらと視界の隅で、見慣れた青紫色の頭が小さなゲーム画面を覗き込むように動いている。


「ミゼもやるかい?」


「……いい」


 興味があるようなので、ミゼにゲーム機を渡そうとしたのだが、ちらちらと私とユウゴの顔を見比べて、断られてしまった。


 もしかしたら、ゲームに熱中して油断した顔を見られたくない、というところだろうか。


 ふむ。一計を案じてみるか。


「そういえば、ユウゴ。実は新型の魔力充電器を開発中でな。少し意見をもらえないか?」


「え? 今?」


「善は急げというだろう」


 ようやく体が温まってきたばかりで渋るユウゴをコタツから引きずり出して居間を出る。


 後には、ミゼとゲームが残された。


 ちらちらと、廊下を窺う気配がする。


 ふふふ。師である私がそう簡単に尻尾を掴ませたりしないよ?


 ユウゴは口を塞いでがっちり拘束済みだ。抗議の視線が突き刺さるが、なに気にするな。すぐに楽しくなるさ。


 さあミゼ、邪魔者はいないぞ! 思う存分に知的好奇心を満たすが良い!


 ミゼが恐る恐るゲーム機に手を伸ばす。


「っ!?」


 何かボタンを押してしまったのか、ドゥルン! という大きな音が奏でられ、ミゼがビクリと跳ね上がった。


 うちの娘最高に可愛い。おっと。


 ミゼが慌ててキョロキョロと周囲を警戒する。


 危ない危ない。見惚れてて見つかってしまうところだった。


 しかしどうかね、ユウゴ。我が娘の可愛さときたら。


 拘束されたユウゴは勿論返事は出来ないが、その目は驚きで大きく見開かれている。


 彼の前で身を律したミゼとのギャップに戸惑っているのだろう。


 気持ちは分かるが、あの子のその生真面目さも可愛いのだよ。


 ゲームの音が始まったので、またそっと居間を覗いた瞬間。ゲーム機から顔を上げるミゼと目が合った。


「あっ」


 このあと、滅茶苦茶叱られた。




 だが、ユウゴの中でミゼの好感度はかなり上がったはずだ。


 代償として、ミゼからの私とユウゴの好感度が下がってしまったかもしれないが……多分、大丈夫だ。あの子は世間知らずで人見知りできっとチョロイから。


 頑張れユウゴ。まだ、交際は認める気はないけどね。


 章の合間用にこれまでのあらすじを書こうとしたら、何故かいい歳した三人がいちゃついただけで終わりました。不思議です。


 あらすじは諦めたので、次回から新章です。

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