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15.鬼教官と修行


≪ミゼ・タフティーグ レベル35≫

≪魔王の娘 適性・魔法戦士≫


 魔王の娘ミゼさんの修行は――超スパルタだった。


 「この部屋を好きに使うといい」と魔王から住居の一室を与えられて一晩。早朝から早速鬼教官に近くの山中まで引き摺られていった俺に差し出されたのは、一本の質素な飾り気のない槍と、血走った眼のゴブリンだった。


 王国の兵士さんたちみたいに、素振りや模擬戦からなんていう生易しい事は許してくれないらしい。


 当の鬼教官は、少し離れた所でゴブリンたちをポンポンとお手玉しては、わんこそばのようにお代わり待機してくださっている。


「ほら、一匹くらいさっさと殺って。次が待ってるから」


「そ、そんなこと言われても……、うわわっ!?」


 何らかの骨をナイフのように尖らせたものをガムシャラに振り回して、子供くらいの身長のゴブリンが俺に突っ掛かってくる。


 鎧なんて上等な物は当然のように用意してくれていないので、俺はゴブリンの攻撃を必死に避ける。


 無防備に曝け出された不気味な青緑色の背中に槍の穂先を叩き付けようとして、肩越しに振り向いたソレと、視線が合った。


 子供のような背丈に尖がった耳。剥き出しの頭皮はでこぼことした青緑。ギョロリとしたに目に裂けたように広い口、ギザギザの牙という容姿は、人型の魔物ではあるけれど、人と見間違うわけもないのだけど。


 結局は、自分の覚悟の問題なのだ。


 一瞬の躊躇いの間が出来てしまい、俺の突き出した槍は逃れられ、お返しとばかりにゴブリンの粗悪なナイフが脇腹を掠めていく。


「いっつ……」


「チッ」


 俺が思わず呻くと、鬼教官がイライラと舌打ちをする。お手玉ゴブリンも高く飛ぶ。


≪ヒール≫


 高く跳ね上げられたゴブリンの代わりに、鬼教官から飛ばされるのは水系統初級の治療魔法だ。


 自然治癒で治る程度の傷を瞬時に癒してくれるが、失った血が戻るわけでもないし、俺自身のスタミナも回復しない。


 そして勿論、鬼教官ミゼの魔力も無限ではない。魔法を使い続けると、体の中の何かが抜けていく感じがするのだと聞いている。レベル35とかなり高い彼女であっても、それによる疲労感は少しずつでもあるだろう。


 嫌々付き合ってくれているミゼさんのためにも、いい加減前に進まないと。


 どうにも締まらない理由だけど、それでも俺は覚悟を決めた。


 「キィキィ」と耳障りな鳴き声を上げて、ゴブリンが飛びかかってくる。何度も避けられ続けたからか、動きは単調だ。避けられた後の事が頭にあるのかもしれない。


 だけど、今度は俺も避けない!


 飛び込んでくるゴブリンの体の中心に真っ直ぐ槍を合わせ、串刺しにするイメージで突き上げた。


 醜い悲鳴を上げて呻くゴブリンを、そのまま地面に縫い付けるように打ち下ろす。


 握り締めた槍の柄越しにビクビクと震える気配が伝わり、やがてそれが弱まり。


 物言わぬ骸となったゴブリンと目が合い、ゴブリンから流れ出た体液の生臭さに吐き気を催していた。


「うぇぇぇ……ゲホゲホ――ぶっ!?」


 そんな風に情けなくえずいた俺の顔を目掛けて、鬼教官は情け容赦なく初級水魔法のウォーターボールをぶつけてきた。


「な、なにするんですか!?」


「ふんっ。少しはスッキリしただろ」


 ぷいとそっぽを向いてしまった鬼教官。しかしその表情には、苦笑のようなものが浮かんでいるように見える。


 もしかしたら、俺がようやく一歩を踏み出したことを喜んでくれているのかもしれない。


 彼女の言葉通り、悪臭が流れ落ちた事でスッキリとした頭でそんなことを考えていると、視線を戻したミゼさんと目が合った。


 あれ、もしかしてデレ――


「何見てんだ!」


 整った顔をキリっと尖らせた鬼教官は、弄んでいたお手玉ゴブリンを投げつけてきた。≪ヒール≫付きで。


「ぎゃー!?」


 休む暇もなく、元気いっぱいのゴブリンと強制的に第二戦が始まる。


 デレたなんて思うじゃなかった!


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