13.魔王ゼザ
「ここが私の家だ。入ってくれ」
案内されたのは、集落の他の家とさほど変わらない大きさの家だった。木造の家屋は、軒下があり縁側があり、と何となく和風建築のような気がする。
「すまないが、私たちの家は土足厳禁でね。靴は脱いで行ってくれ」
そう言いおいて靴を脱いで家屋へと上がる青紫髪の魔王に、果てしなく違和感を抱きながらも素直に従う。
家の中も質素な物で、とても魔王の住居とは思えなかった。
魔王は居城じゃないのか。
と内心ちょっとがっかりしてしまったのは秘密だ。
「さて、何から話したものかな」
通された部屋で膝を向かい合わせた魔王は、思案気に頭をかいている。
「……では、まず一つ。どうして俺が召喚勇者だと分かってんですか?」
捕まった時から気にかかっていた事を、訪ねてみた。
俺ならば鑑定で分かるけれど、≪召喚勇者≫と表示される≪属性≫はどうやら鑑定の魔眼専用の情報らしく、セイラ王女の用意した鑑定士たちにもあれは見えていないらしかった。
魔王はどうやって俺を見つけたのだろうか。
「ああ、それはね。召喚勇者っていうのは全員、何故かレベル1でこの世界に連れてこられてしまうんだよ」
事も無げに、魔王は答えた。
「それはつまり……?」
「この世界で生きていれば、どんな人でもレベル5くらいになっているものだからね。ラドセニア王女の周りに侍っていた低レベルの子たちも怪しいなーと思っていたんだけど、そこで君の噂を聞いてね。神殿まで行ってしばらく君を観察させてもらったのさ」
「まさかスライム草を食べるとは思わなかったよ」と爆笑しくさる魔王に憤懣やるかたないのだけれど、もしかして見張りも無しですんなり脱獄出来たのはこいつのおかげなのか? と考えると文句を言っていいものかどうか。
悩む俺を後目に、散々笑って満足したのか真顔に戻った魔王が「それでね」と話を戻そうとしていた。
「町まで降りてきても、まずは探りを入れる事から始める思慮深さを気に入ってね。次は私を観察してもらおうかと思って声をかけたのさ」
「観察?」
「噂通り心を読んでくれるのであれば、信用してもらえると思ってね」
すごい自信だ。
それでも、心を読めるという人の前に立つのは、覚悟のいることだろう。その覚悟を裏切ってしまうのは申し訳ないけれど……。
「あの、実は……心、読めないんです」
「なに?」
ここまで終始余裕綽々といった雰囲気を崩さなかった魔王ゼザが、眉をひそめて真顔になった。
「ラドセニア王国の宰相、ヘスオバルの勘違いなんです。俺の≪鑑定の魔眼≫はそんな便利なものではありません」
「そうなのか? それは悪いことをした。申し訳ない。いきなり魔族に連れ去られるのは怖かったろう」
演技ではなく、心の底からの謝意なのか、神妙な顔で頭を下げたゼザは、「それでは信じてもらうまで時間をもらうべきか……」と何事かを思案しているようだ。
うーん。噂を知っていて俺の前に出るの、かなりの覚悟が必要だよな。
「魔王ゼザ。実は――」
真剣に謝ってくれた事も好印象で、俺はこの魔王に、あの秘密を打ち明けてみる事にした。
「ほう。≪鑑定の魔眼≫は鑑定とは違うわけか。それで、君の目には私はどう見えたんだい?」
気を取り直したのか、楽し気な雰囲気に戻ったゼザが挑戦的な瞳で俺を見つめる。
「≪友好的≫、と」
「友好的。はは、そうか……。君にはそう見えているのか」
魔王は笑っているけれど、自嘲的というか。先ほどまでの陽気さとは違う剣呑な気配を感じる。
俺が訝しんでいる事を感じたのか、咳払いをして取り澄ました魔王は、
「君はその目を信じたのか?」
「はい。今は信じてみて良かったかもと思っています。でも、貴方が何故、人間に友好的なのかが分からないのですが」
「それはそうだろうね」
調子を取り戻したようにくっくっと笑うゼザに、俺も何故だかほっとしてしまう。
「そうだね……。まずはヒントを上げよう。ユウゴ、君はラドセニア王国の発祥については知っているかい?」
「それは王女から聞きました。召喚勇者のコウジって人が造ったんだって。 名前からすると同郷っぽいと思っているんですけど」
「ああ。そうだね。彼は黒髪黒眼の典型的な日本人だった。」
「まるで見てきたみたいに……」
「魔族は長命種なんだよ」
「えーと、つまり?」
ラドセニア王国の建国は600年前って話だけど、つまりこの目の前の角の生えたお兄さんは600歳以上ってこと? で、実際に会ってきたと?
「俺がそのコウジと同じ日本人だから友好的なんですか? 何で魔族が王様と知り合いに?」
「ふふっ。王女殿下から聞いた、召喚勇者コウジの話はそれだけか?」
んん?
「たしか、建国王は従者ゼザと共に……!?」
ニコニコと魔王ゼザが自分を指差す。うん。もうわかったって。
「魔王と勇者が同じパーティだなんて、とんだマッチポンプじゃないか!?」
「ああ。コウジの奴も同じ事を言っていたねえ……」
懐かしそうに、ゼザは肩を揺すって笑うのだった。




