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異世界召喚されたけど、もらったチートが鑑定だった。  作者: 十乃字
第一章 神様、リセマラしてください
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10.異世界を生きる


 まだ見ぬ異世界への第一歩を踏み出した俺だけど、早速脇道へと逸れていた。


 勇者召喚のために改めて切り開かれた道を馬で二時間程の距離だという麓の町だけど、見ず知らずの道を歩いてすんなりと辿り着けるとは限らない。


 武器も部屋に残されていた訓練用の鉄剣一本限り。しかも刃は落としてある。この辺りにいた強い魔物はレキさんたちが討伐済みだそうだけど、今の俺ではゴブリン一匹でもギリギリだろう。


 ゴブリンやスライムは一匹なら子供でも倒せるが、群れれば大人でも危険なこともある、とセイラが言っていた。


 まずは比較的安全な山道沿いに歩きながら、食料確保を優先する。火が使えないので、キノコは怖いから山菜や果実を狙う。


 素人が山で食料探しなんて自殺行為以外の何物でもないが、俺には≪鑑定の魔眼≫がある!


 とりあえずあの辺から。頼むぜ、魔眼様。何か食い物!


≪草≫ 


 草、生えてます。


 そうだね。ちょっと漠然とし過ぎていたね。人の集団を見て全部情報ウインドウが出たら、きっと邪魔で仕方ないもんね。魔眼さんは気が利いてるなー。


 俺は目頭を押さえて瞬きすると、へこたれずに≪草≫を掻き分けて、適当に一つ手に摘み取ってみた。


 楕円形の葉っぱは少し硬いけど、形だけは大葉のようにも見える。もしかしたら食用かもしれない。今度こそ、頼むぜ魔眼!


≪スライム草 食用? 生食可 栄養素・皆無≫


 ≪食用?≫って何だよ。


 うーん。鑑定してもよくわからないぞ。≪栄養素・皆無≫って事は海藻みたいな物か? でも、海藻にもミネラルとか栄養と言えるモノはあるもんなあ。それすらないってこと?


 大体≪スライム草≫って何よ。スライムが食べるの? スライムの素になるの? 怖いよ。


 でも生食可って魔眼さんも言ってるし……いくか?


 恐る恐る口に含み、まずは先端を齧ってみる。


 む。妙な弾力が。


 悪臭も舌が痺れるという事もないので、意を決して口内に放り込む。


「むぐむぐ…………。これは……まずい」


 驚くほどに味がない。


 葉っぱ特有の青臭さすらない。


 妙に硬いので柔らかくなるまで結構長い時間噛まないといけないのに、味がない。辛い。


「……っぺ。次! 次だ!」


 耐え切れずに吐き捨てた。


 やはり火がないのに山菜はダメだな。果実! 野生の果物とか何かあるはずだ!




 無駄に唾液が促され、余計にひもじい思いをすること暫く。森に踏み込んでいきたい所をぐっと堪え、山道沿いに周りを凝視して遂に!


 あれは果物! ……果物、なのかな?


 背丈程の木に実っているのだから、何かしらの果実なのだろう。つるりとした綺麗な球体は見慣れないけれど、リンゴに似ていると思えなくもない。サイズを考えなければ巨大なサクランボのようでもあるけど。


 しかし、何といっても蒼い。


 未熟なリンゴなどの緑色を指して青いというレベルじゃない。澄んだ海の蒼さだ。まさにコバルトブルー。


 自然界の植物にこんな色あっていいの? 


 不安の虫が身をもたげるか、ここは鑑定の魔眼先生に働いてもらう。先生、お願いします!


≪パムの実 食用 生食可 栄養・ビタミン≫


 キターッ!


 もぎ取った果実は、やはり蒼い。しかし魔眼先生は食えると言っている。


 慎重に皮を剥ぎ、中の果肉を確認する。


 外の皮だけを食べる物だったり、中の種だけを食べるものだったりする可能性もある。いくら鑑定の魔眼先生でも、過信してはいけない。


 幸いにもどちらも食用と表記されるのを見て、、溢れ出た果汁を一舐めする。


 酸味は無く、ほんのりと甘い。


 皮ごとがぶりと齧り付く。


 柔らかな実は桃のようだけど、味は淡いリンゴだ。


 滴る果汁をゴクゴクと飲み下す。味は物足りないけど、水分補給も出来る良い有り難い果実だ。


 神殿の調理場でもこういう変な食材を見た覚えはないけど、日本人に配慮してくれてたのかな。




 パムの実でお腹を満たした後は、山道を下ることを優先する。


 暗くなる前に町に着きたい。


 そんな俺の行く手を遮ったのは、ぷるるんとゼラチン状のあいつだった。


≪グリーンスライム レベル1≫


 ついに出会ってしまった。


 講習で話は聞いていたけれど、目も口もなく、一見すると巨大なゼリーが地面に落ちているようだ。


 ただのゼリーではない証として、このスライムが通ってきた跡は雑草が剥げ、綺麗に地面が露出している。こうしている今も、足元の草を分解している最中なのだろう。


 好戦的ではないそうなので、横を素通りできるだろうけど……。


 俺は刃の無い鉄剣を握り締める。


 この世界で生き延びるって決めたんだ。逃げてばかりもいられない。


 覚悟を決めると、グリーンスライムの震える体に落ちていた木の枝を差し込む。


 スライムは有機物を分解するだけの存在ではあるけれど、攻撃されると反撃として相手を包み込もうとするらしい。


 いくつも差し込まれた木の枝にゼリー状の体を伸ばすことによって、中心部の密度が薄くなっていく。


 その結果露出するのが、スライムの急所、丸い握り拳程の大きさの核だ。


 スライムはどれだけ切り刻もうと、痛みも感じない。しかし、核を破壊されれば、それだけで死んでしまう。故に子供でも倒せる魔物と呼ばれている。


 振りかぶった剣を、勢いよく核へと振り下ろす。


 カツン、というスライムらしからぬ感触を残して、ゼリー状だったグリーンスライムが水のように地面に染みていった。


 有機物は何でも消化してしまうスライムだけれど、その死体は養分として新たな生命の苗床になるという。


 もしかして、山道の近くで倒すのはまずかったかな?


 道を塞ぐようにして生い茂るスライム草を想像して、背中に冷たい汗が流れるのを感じる。


 き、きっと別のグリーンスライムが食べてくれる!


 逃避気味に気を取り直して、後に残されたひび割れた核をさらに砕き、魔石を取り出す。


 初めて自力で手に入れた魔石だ。スライムとはいえ、妙な感動があるなあ……。


≪スライムの魔石 魔力・低≫ 

≪価値の低い魔石。その入手難易度の低さから、町中では小銭のように扱われることもある≫


 魔石を見つめていたら、鑑定の魔眼が発動していた。


 価値が無いって言われると悲しいなあ……。ってそこじゃないぞ。


 なんか説明文みたいなのが追加されてる!?


 うーん、これは……もしかして?


≪国崎優吾 レベル3≫

≪召喚勇者 適性・鑑定士 特殊スキル・鑑定の魔眼 翻訳≫


 レベルが上がってる!


 やっぱり魔物を倒す事でもレベルは上がるんだな。


 ≪適性・鑑定士≫ではレベルが上がっても得られるのは微々たるものだけれど、それでも魔物を倒せば強くなれそうだ、という事実は俺にとって大きな目標で希望だ。


 しかし、鑑定の魔眼もレベルに連動してるのかな?


 たかが鑑定と俺自身も諦めていたけれど、ちょっとワクワクしてくる……そうだ!


 山道脇に目当ての物を発見。千切って鑑定してみる。


≪スライム草 食用? 生食可 栄養素・皆無≫

≪グリーンスライムの主食。食べられない事は無いが、これを食べるくらいなら……≫


 何で最後に言葉を濁してるんだよ!? 俺だって好きで食べたわけじゃないぞ!




 スキルに人間性を責められた気分になって、一人落ち込んでしまうのだった。


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