第七章 チュートリアル継続中
弱い。
最後に腰を抜かしたゴブリン目掛けて大剣を振り下ろしながら、ラオロアは思った。
弱すぎる。
「ギャー!!」という絶叫と共に、ゴブリンは空中で砕けて光る塵と化した。
ラオロアは武器を背中に収めながら、傍についてきて同じ行動を取っているシルバーに目を向ける。
樹木の後ろから飛び出て一分足らずところか数秒しかたっていないってところか。
シルバーはラオロアの行動をまるでシンクロしているかのように、そのまま同時に再現して三匹のゴブリンの内の一つを攻撃した。
これはある意味、このショボい戦いの中でラオロアに与えられた一番の驚きだろう。
初撃のモーションを突き刺す風にしたのがそれの手助けとなったか、シルバーのレイピアがうまい具合にゴブリンの首に差し込んで即死させた。武器のサイズが違いすぎるせいで、ラオロアの相手は首がそのまま飛んでしまったけれど。
最後の一匹相手に、一回の振り払いで武器を吹っ飛ばし、そのまま上から叩きつぶすかのようにしたらそのまま終わりとなった。
正直言って、拍子抜けである。
さすがのラオロアも、さっき樹木の後ろで初実戦に向けてテンション上げていたのにも関わらず、いざやってみたらこのざまである。
いや、たしかに奇襲だったけど。
二人もいるから、いきなりの奇襲で二匹も殺してしまったけど。それにしては最後の一匹は手応えがまったく感じないのは気に入らない。
それもそのはず。
ラオロアは職業こそ最初から多めに取っているせいでステータスは高くなっているけど、よくわからない【凝視】によってステータスがほぼ半減しているも同然の状態だ。
本来なら一般的なプレイヤーの現時点のステータスより少ないのにも関わらず、敵のこの脆さ納得できるものじゃない。
「単に敵のレベルが低すぎた?」
とりあえずそれで無理矢理納得しておこう。敵のレベルを確認する手段など、今持ち合わしていないから。
ラオロアは周辺を見回してみる。なにも落ちていなかった。
たとえゲームに疎いラオロアでも、敵を倒したのならばアイテムがドロップするというRPGの醍醐味を知っている。しかし――
「なにも落ちていないじゃないか」
地面に特になにもなし。吹き飛ばしたゴブリンの武器も見当たらない。つまりそのまま地面に落ちるタイプではないと思うべきか?
ラオロアは気になってメニューを開くと、なんか点滅している見慣れないアイコンが表示しているのでそれに触れる。そしたら急に小さな窓が表示された。
【ドロップリスト】
・腰布?
・ゴブリンの角x2
・12R
「ふむ。なるほど。しかし・・・やっぱないようなぁ」
ゴブリンだと必要なクエストアイテムがドロップしないことはなんとなくわかっていた。
ラオロアは頭を掻いて、窓を閉じる。
妙にリアルな場所もあるけれど、ドロップの仕方があからさまにゲームっぽいな。
さっきゴブリンとの闘いでも、血が飛ぶかと思ったらそれも一切なかったし。首が飛んだ時に見えたのは、切断面いっぱいのポリゴンだった。
なんというか、まるでテキスチャーを引きはがしてしまったようなエフェクトの表現の仕方だ。
そのせいでラオロアは今、テンションただ下がりだ。
こんなリアルにありえないのを様々に見せつけられて、リアルの思考で戦っている自分が馬鹿らしく感じてしまったがために。
これも仕方がないことだとは、ラオロアも知ってはいる。
ラオロアにとっても、別にさっきの場面でリアルを追及したスプラッターが見たいわけではないのだ。
一応パーティーリーダーで、ドロップの設定はリーダーが統一で決めることにしてある。
さすがに今のシルバー相手に、ドロップしたアイテムの情報やら交換ができないから。
それでも一応ドロップリストは確認できるのか、ラオロアの真似してシルバーも窓を開けている。
自分の操作は基本見えていないはずなのに、なんで真似できるとは思ったが、ラオロアにもうっすらとシルバーが開いた窓の形と色だけは見えるからそういうものかと納得する。
とりあえず目当てのものはなかったので、ラオロアはドロップリストを閉じながらさっきゴブリンたちが囲んでいるものへ目を移る。
うっすらと光が溢れているのは、小さな白い花だった。
葉っぱの先端が四角星の形をしており、その花は咲いているのにかかわらず蕾の形がしっかり残っていて、白い花の真ん中あたりから淡い光が飛び出ている。
あからさまに今までと違う何かなのだとわかるそれを、ラオロアはすこし慎重に手を伸ばす。
そしてそれを手に取ってゆっくり引き抜いたあと、予想通りそれは【薬草?】になっていた。
「なるほど。一応初心者にはこういう探しやすいものが用意されているわけか」
なんの花かは知らないが、この薬草の花自体が三つも咲いていたから、一応シルバーの分も含めて二本取った。
シルバーはチュートリアルを受けているかどうかは分からない。だがこれ自体は冒険者ギルドでの常時クエストであるのならば、ただギルドに提出して報酬を貰うことくらいはできるはずだ。
花自体はドロップじゃないため、シルバーに渡すにはトレード機能を使用しなければならない。
初のトレード機能の使用に、ラオロアも一応操作にすこし戸惑ったけれど。前のチュートリアルの説明通りに進めば問題なくできた。ただ、シルバー側の操作を教え込むのにすこし手間取ったけれど。
「さて、と」
クエストクリアするためには、あとは【皮?】、【肉?】、そしてと【鉱石?】を一種類見つけなければいけないけれど。さっきの様子じゃあ必ずしも固定な採掘できる場所を探す必要はない。
モンスターからのドロップか、モンスターが近くに屯って目印となっていることもありえる。
ならば、先にモンスターを探そう。
一応今日ゲームに入っていろいろと走ってみたけれど、特に疲れは感じ取れない。
もしかしたらそういう体力の設定がないのかもしれない。ならば無理にペースを保つ必要がなくなるので、思いっきり走り回るか。
若干ワクワクになってきたラオロアは武器に手を伸ばし、そのまま掴んでいる状態で走り出す、たとえモンスターが飛び出してきても対応できるように。一応これも練習しなければなと思っているから。
森の中を走り回り、時に遊ぶつもりで樹木の上に登ったり、太い木の枝を足場にジャンプしたり、時に木の本体を目がけて三角飛びしたりするような無理な方向転換も入れる。
一応環境は違うけれど、さっき街中の中でやったことと同じ。
付いてくるシルバーはもちろんそのすべてを真似ようとするし、街にいた時みたいな邪魔がいない分、真似しやすいらしい。
それを見ているラオロアのテンションもどんどん上がってくる。
スピードを上げても、振り切ろうと動きを変えるも完全に追い付いてこられるシルバーに、ラオロアは思わずニヤりと口元を吊り上げる。
その顔は獲物を見つけた猛獣そのものだった。
「ちょいと、摘み食いしたくなるなぁ」
街の中と違って今は外、本気を出せる。それなのにも関わらず、全力で走っているときに引き出せるステータスの差がはっきりと感じられるほど、今のラオロアはシルバーに追い詰められている。
ラオロアはラオロアで久々に感じたこの追い付かれている感覚に思わず興奮している。武器の咢を握っている手に、思わず力を入れて少し引き出してしまうくらいに。
だが、まだだ。
飛びついた木に蛇を見つけて、ラオロアはすぐにそれ目がけて武器を抜いた。
さすがにこんな武器だと居合斬りみたいなことはできないが、振り下ろした速度と力を利用して、一気に木の上から地面に降りる。
モンスターのドロップは自動で入る、ならば止まる必要もない。
ラオロアは頭上から自分を追い抜いてしまったシルバーを一目見て、今度は別方向に走りだす。
「まだ早い、か」
シルバーは今、ステータスの差に振り回されている。
同じような動きでも、ステータスが半分くらい封じられているラオロアとシルバーじゃ、基本シルバーのほうが早い。
同じ行動でも出てしまういろんな差に、シルバーは振り回されてうまくコントロールできていない。
さっきラオロアの頭上から通過してしまったのがその証拠だ。
シルバーが真似するのはいい、だが真似をしているだけだと意味はない。
まだ自分の意思だけで行動を起こし、訓練するほどの自我を見せていない今、ラオロアができるのはこうやって真似ごとに付き合ってやるくらいしかできない。
幸い、ラオロアは自分もこういう訓練するから、特に困っているとは思っていない。
それに、このステータスの差により起こしたズレを、シルバーはできるだけ直そうとしている。たとえ無意識でも、自分なりの調整を加えることができるのなら、積み重ねになる。
だからラオロアはむしろ、今のこの状況を作り出した【凝視】のバッドステータスに感謝をしているのだ。
「――ん?獣か」
犬?
いや、狼か?
ぞろぞろと走り回っているラオロアたちに集まってくる獣の気配、その音やシルエットからして犬科の獣なのだが、どうも特徴的に狼なのか犬なのか判別しにくい。
狼にしては毛が短いから、やっぱ犬か?
とりあえず走り寄ってくるから、樹木の合間に走り抜けて、変則的に動きを変えて一気に一番近い個体に接近する。
「大剣をこの状態で振るのはすこしやり難いな・・・・・・」
止まった足を動かして、ラオロアはさっき自分に両断されたモンスターの姿を脳に浮かぶ。
さっきの攻撃で、振り下ろされた重心によって一気に足が止まってしまったから、今は逆にモンスターたちに包囲されている状態となっている。
しかしむしろこっちのほうが戦いやすいから、ラオロアはそのまま戦闘に移行する。
「このゲーム、悪くないな」
リアルにいない、戦いのスリルを感じるけれど、まだそんなにない。
ただリアルにあまりできないスリルのシチュエーションはすごくいい感じにラオロアの闘争心を引き立てる。
もっと冒険したい。こういう風にモンスターと遭遇して戦いたい。
そして、もっと想像の中でしかできなかった戦いをしたい。
シルバーを背中に、ラオロアはお互いの背中をカバーしあうように立つ。
戦っているときに思わずシルバーに背中を任せてしまうけれど、ラオロアはシルバーが真似した通りにしか戦えないのを知っている。
――<突撃>!
しかし、ラオロアは知っている。
走っている時に何度も視界に入らないように避けたことがある。それなのにまるで行動を先読むかのようにシルバーはそれについてきた。
方向変換で思いっきり視界から消えたこともあった、それなのに真似している行動は止まらなかった。
ちらりと突撃をかまし、敵を一体葬った後背中に目を向ければ、こっちと目が合い、同じ行動を取っているシルバーの姿が目に入る。
それを確認して、ラオロアはすぐに目を外して別の敵に向き変える。
「さてと、もうすこし戦技も慣らしていくか」
囲んでいるモンスターの配置も行動もバラバラ。目で追っていないのに行動を読んで同じように行動している。
そのままならば、ラオロアは敵を葬っていても、シルバーは敵を倒せていないかもしれない。
でも、こういう時だからこそ、ラオロアは見てみたいのだ。シルバーの可能性を。
「ウォン!」
威嚇するように声を発した犬もどきが一匹、ラオロア目掛けて飛び掛かってくる。
ラオロアはすぐにバックステップして躱すが、すかさず別の個体が違う方向から飛びかかるラオロアを狙って攻撃を仕掛けてくる。
さすが群れる獣だ、チームワークは悪くない。
ラオロアは大剣の刃を前に出し、飛び掛かる犬もどきに噛みつかせて防いだ。
すこし重心を変えて、そして大剣の向きを微調整しながら、ラオロアは隙を狙って同時に襲い掛かる三匹の犬もどきをしっかりその目で捉える。
大剣は重武器。さすがに普通の剣や刀みたいなスピーディな戦い方も動きもできない、だから避けるよりも、素直に攻撃を受けるのも大事だ。
そして教官はこのチュートリアルでちゃんと、防御を応用して攻撃に転じるやり方を見せてくれた。
ラオロアはその姿勢を思い出し、防御したまま戦技の発動できる体制に入る。
――<重撃>。
噛みつかれていた大剣にちゃんと光の筋が纏うのを確認し、ラオロアはニヤっと笑う。普通の喧嘩とは違うけど、これもこれで楽しいなぁっと。
手に馴染まない力が宿り、ラオロアはそれを勝手に動かされる前に振り払う。
大剣に食いついていた犬もどきはそれで吹っ飛ばされたけど、後から襲い掛かってくる三匹にはあまりダメージは入らなかった。
使い慣れない戦技によって、すこしタイミングを計り間違えて、早まってしまったかもしれない。
敵が攻撃を食らい怯んでいる隙に、ラオロアはすかさず体を前に進ませ、横上に振り払った大剣を上に向かせたまま別の戦技を発動させる。
三匹の内、その真ん中のやつに目掛けて、上から下に――<切り刻む>。
ざっくりと肉を切った感覚がシミュレートされて体にフィードバックする。
しかし敵はまだ消えない、どうやら倒し切れていないみたいだ。
だがさすがにこれ以上追撃するとこっちもダメージを食らうため、ラオロアは攻撃を避けながら素直に後ろに下がる。
数歩下がって、シルバーと背中でぶつけあった。
敵は体制を立ち直すつもりでまだ襲ってこない隙に、ラオロアは一度シルバーのほうに目を向けると、敵が一体倒れていて光になって散っていくところだった。
犬もどきに包囲されていながら、ラオロア側とぜんぜん違う配置。
一体なにをどうしたんだろう?
しかしそんな質問の答えよりも、ラオロアはシルバーから成長する可能性を感じられたのが嬉しくて堪らない。
本能と違う、戦闘意識がなせる技。今までは自我が薄かったけれど、どうやらしっかりと覚醒し始めている。
できればシルバーの戦いっぶりを見てみたいところなんだけど、今はそんな余裕はなさそうだ。
ラオロアは武器を構えて、視線を前に戻す。
どうやら目を離した隙に、犬ともは威嚇しながら少しずつ接近してきているようだ。
さてと、今からどうしようかなぁ?
使える戦技を脳内で思い出し、ラオロアはニィっと口の角を吊り上げた。
敵を一掃した時には、シルバーはすでに敵を全部倒した後だったのはすこし気になるが、ラオロアは今別のことを考えている。
さっきの戦いで、ラオロアはまだ使え慣れていない大剣に振り回されるのが嫌で、足技をも導入して大剣の隙を補っていたのだ。
どうも前の世代までにスキルがないとキックしても攻撃にならなかったらしいから、喧嘩の癖で逆に隙を作るかもしれないと事前に警告を貰っていたのだが、この世代になって変わったらしい。
試して分かったが。剛人の予想を超えて、スキルやら武器の装着もないままでも、踏みつけるや蹴るなどのモーションは攻撃の内に入るらしいのは確認できた。
「まぁ、便利だからいいか」
理屈やら考察やら、興味のないことならとことん無視するラオロアは大剣を背中に戻して、そのまま別の手でメニューを開いた。
【ドロップリスト】
・皮?
・肉?
・牙?x2
・皮?x6
・牙?x14
・肉?7
・ストレイドッグの尻尾x9
今度は金のドロップはないのかと、ラオロアはすこし頭を捻る。しかし興味がないのか、すぐに考えるのを諦めてシルバーにドロップを振り分けるをすることにした。
トレードの時もみたけど、どうも同じ名前でも同じカテゴリーにされない皮などがいる。
簡単の推理としては、元々別のものだと鑑定できる前から別物として数えられることになるということ。
これ、そのうちの一つは多分途中で切り捨てた蛇のものだろうけど。
まぁそんなこんなで、とりあえず【皮?】と【肉?】はこれで確保済みになった。
残るのは【鉱石?】だけとなる。
またもやシルバーを連れ回すこと十数分、今度は別のゴブリン種の敵と出会った。新しいのは魔法を使うゴブリンが存在するくらいだけれど、直線的に投げてくる火の球だけだから、余裕で躱した。
そしてやはりと言うべきか、ゴブリンのレベルが低い。
一刀両断して敵を全部葬った後、ラオロアはゴブリンメイジのドロップから【鉱石?】を一個見つけることができた。シルバーの分が足りないからまた探さないと。
ついでに言うと、今度は金のドロップがある。
また森の中で走って十数分、ラオロアたちはとあるでかい岩に囲まれている開けた場所に出た。
そこで見つけたモンスターは新しいやつで、オーク種のモンスターだ。
獣人の猪ってこんな感じかなと、特徴である猪頭のオークを見て失礼なことを考えているラオロアの目は、オークが抱えている武器に釘付けになっていた。
つるはしだ。
そしてこの場所は岩が多い。
「これは、ビンゴかな?」
ラオロアは今までの戦いで大体このゲームでの戦いに慣れてきて、ある程度自分の実力というものも理解できた。
攻撃力などの数字までと言われればさっぱりだが、戦いの中で体験できる分だけちゃんと理解している。
大剣を背中から抜き出し、ラオロアはシルバーを連れて岩場に歩み寄る。ゴブリンの時みたいに慎重に隠れて近距離で観察することなく、正々堂々と正面から。
力に自信があった。そしてなにより、大剣を使うものとしてどういう心構えをすればいいのかを、分かってきたから。
ちゃんと視認範囲に入ったのか、ラオロアに一番近いオーク種のモンスターは大きな叫び声を上げて、それを聞いた周辺のオーク種モンスターがぞろぞろと集まってくる。
あっという間に、ラオロアたちはモンスターに円陣で囲まれていた。
ラオロアそれを見て、自信ありげに笑っただけだった。
そして結論として、オークはたしかに【鉱石?】をドロップした。
【ドロップリスト】
・錆び付いたつるはしx15
・鉱石?x8
・皮?x17
・牙?x30
・ピッグマンの耳x18
・56R
ドロップからクエストに必要な分のものをシルバーに振り分ける、ついでにつるはしも一個付けとく。
どうやらこのモンスターはピッグマンという名前らしい。
鑑定が必要せずに名前がでてくる使い道のわからないアイテム、毎回モンスターの名前みたいなものが付いている。
どうせ後で分かることなら、今すぐに悩む必要もないと感じたから、ラオロアは大抵それをスルーしている。
今回は敵が多い分、戦うのに結構時間掛かったが、ドロップは豊富だ。
最初のピッグマンがモンスターを集めてくれたおかげで、今この付近のモンスターが一掃されている状態となっている。
これなら、今より試すことに邪魔が入らないだろう。
【錆び付いたつるはし】を一個アイテムから取り出して、装備してみると、背中の大剣はピッグマンたちが付けていたつるはしに変わった。
それを掴んで背中から外すと、ラオロアは岩場のすこし色の違う岩を叩いてみる。
「硬いな」
硬い物同士がぶつかる反動がしっかりシミュレートされて、ラオロアの手に帰ってくる。
それを感じて、ラオロアは今度両手でつるはしを掴み、思いっきり振り上げて――そして次に振り下ろした瞬間につるはしが粉々となって光となり散り去った。
「いってぇーな・・・」
手をひらひらさせて痛みを逃がそうとしているようにしながら、ラオロアはもう一度メニューを開く。
新しい職業もスキルも増えていない。HPはすこし減った。そして装備していたつるはしは綺麗になくなっていた。
ある意味予想通りだ。
予想外だったのは、つるはしがそのまま一回限りで消えたことだ。
たしかにそこに鉱石があるかどうかわからないし、ただ壁を叩いて壊したともいう結末だけど、ラオロアが気にしていたのはつるはしから一切前触れが見れなかったところにある。
装備を大剣に戻して、ラオロアは武器を引き出して触ってみる。見た目はやはり完璧の状態でのそれである。刃こぼれなし、傷もなし。
別にゲームだから武器は壊れない、なんてことは思ってはいない。ただ、もし壊れる直前までこういう状態として表示されるのならば、これは厄介なことになる。
「一旦町に戻るか。クエストの目標も達成したし」
それに、そろそろ一度ログアウトしたいな。
シルバーがちゃんと自分に付いて来ていることを確認し、ラオロアはまた森の中で全力疾走を始めた。