第五章 戦技とゲームの仕組み
シルバー・ファングと名乗った獣人プレイヤーはそのまま座り込んだことを確認し、ラオロアはすこし目を閉じて、深呼吸して切り替える。
説明こそなにもないが、ここからは実技的なチュートリアルになるのだろうと言うのはこの場所を見ればわかる。いかにもそれらしい師範代がいることだしな。
「よし」
もう一度例の虎獣人を見ようと視線を向けると、そこにはもう姿はなかった。
周辺を見回すと、模擬戦していた人たちはみんな止まっていて、付近の椅子で休んでいる最中。そして模擬戦が行われていた場所には、例の虎獣人がそこで静かに仁立ちをしてこちらを見つめていた。
ラオロアは一旦メニューを全部閉じて、その虎獣人に近寄る。
今まで静かにただ仁立ちしていた虎獣人から、急にオーラが噴出した。
色のない気迫が地面の埃を巻き上がり、すべて押し出すかのようにその気迫は円を描くように模擬戦の境界線まで伸びていった。
ここから先はなにか「違う」と、そう言っているかのように。
だがラオロアは迷わない。
もし本当にただその虎獣人と戦えるだけならまだ勝てないだろうけど、それもいいと思っている。だからラオロアは歩き寄る、そしてその境界に踏み込む。
踏み込んだ部位からなにかチクったような感じがするけど、ラオロアがそのまま上半身まで入ってしまった瞬間、その場を囲むオーラのような気迫が周辺に散った。
「ほぉ、迷う事もなく踏み込んでくるとな・・・なかなかの度胸のようじゃな、こわっぱよ」
「どうも。俺は――」
「あぁ、名乗らんでもよい。貴様がワシから一本も取れぬうちには、名前を覚える価値なぞ微塵も感じないからのう。ただまぁ、賞賛だけはあげようではないか。貴様が『初めてここに踏み込んだ「降り人」』だからのぉ」
「・・・俺が初めて?」
どういうこと?
「さて、そろそろ始めようではないか」
ラオロアの疑問を無視して、虎獣人は仁立ちの体勢を解ける。ラオロアもまたそういうことならばと、集中力を虎獣人に戻す。
「ワシはしばらくここで教官を担当しているゴルディマ・ライアスじゃ。基礎を一通り貴様に叩き込むまで、一切の質問を受け付かん」
そう言い終えると、ゴルディマは自分の後ろにある武器棚まで歩く。そこにはいつの間にか並び変えられたいろんな種類の武具がある。
同じように近づくラオロアを見るや、ゴルディマは若干乱暴に棚を足で一蹴り入れた。
力をちゃんとセーブしていたからか、武具がそのまますこし飛び上がっただけで、すこし揺れながら大体元の場所に戻っている。
「自分の得物じゃ、貴様自身で選べ」
ラオロアは言われた通りに置かれている武器全部一通り目を通していく。
獣人という種族を最初に選んだのはそういう風の体格になりたいのが原因だ。現実では基本格闘の手段を学んでいる、その他はとちょっと長い物ならなんでも武器としてきた。だから獣人を選ぶと決めてから、ラオロアは一つ試してみたい武器があったのだ。
この体格になって一番使いたい武器、それは――身の丈ほどもある大剣だ。
武器棚から今の体格にはちょっと大きめな大剣を持ち出し、試しに手で振ってみる。
うん、重い。
だが振れないわけではない。
両手で大剣を持つように構えて、そして上から下に思いっきり振り下ろす。
ものすごい勢いで空気を切り裂く剣先が地面に衝突する前にピッタリと止まった、傍に立っているゴルディマの手によって。
「さすがに慣れていないし、使いこなすのに筋力が足りないか」
「まぁ、最初なんてこんなもんじゃろうが・・・貴様は異様に筋力が足りない。本当にこれに決まったか?」
「あぁ。これにする」
この種族でならば豪快に振り回せそうで、そして気持ちよく戦える武器。重武器ならば斧もよかったが、もっとリーチがほしくてこっちを選んだ。
他に目が行きそうな武器と言ったら、ナックルかクロー系だろうけど。ラオロアは自分の手に持つ大剣を一目見て、やっぱこっちが楽しそうだと思った。
「そうか、ならそれで決まりじゃな」
ラオロアの思いが顔に出ていたらしく、ゴルディマは掴んでいたラオロアの手を放し、同じような大剣を一振り取ってきた。
どうやら同じ得物で教えていくつもりらしい。
一度も現実で大剣みたいなものを振るったことがないから、こうやってちゃんと武器を扱うフォームが見れるのがすごく助かる。
二人とも元の位置に戻ると、ゴルディマはまず大剣を地面に刺すように目の前に置いた。
スンっとすぐに地面に入る大剣に、余計な物音が一つもしない。ただそれだけで、ゴルディマの技量の高さが窺える。
「大層な得物を選んだようじゃが、扱えないのならばただの足手纏いにしかならん。知ってる通り、大剣を扱うには高い筋力が必要じゃ。そして貴様にはまだそれが足りん。だが、貴様ら「降り人」にとって地道な筋力訓練以外には別の抜け道もある」
「抜け道?」
「あぁ、それは――この世界が貴様らを呼んだ時に、その仮初の体に埋め込んだ法則を利用することじゃ」
ゴルディマは目を細めて、そういう抜け道を使うのが好きじゃないみたいな不機嫌な顔をしている。だが、相手が降り人だから割り切っているのか、不機嫌ながらも話を続ける。
「貴様らの仮初の体には文字通り血筋もなにもないのじゃ。だから法則を埋め込み、その体に種族を設定することにより初めてその種族の一員としてこの世界に認められ、疑似的に成長していくことができる。そしてさらに職業を法則として付加することで、疑似的にこっち側の人間と同じく、そしてそれよりも早く成長することが可能じゃ」
「法則・・・」
「そうじゃ。この世のすべてに法則がおる。火が灯るのに燃料と空気が必要のように、水が温度を下げれば氷となるようにのぉ。貴様らの仮初の体は、言わば法則の強いられる通りにしか動かん盤上の駒みたいなものじゃ。だから法則上でその体に種族や職業を追加するなり新たに定めれば、訓練することなくその種族と職業に見合うだけの基本素質を得ることができる。だが同時に、無くした法則にかかわるすべての素質もまた、その時には失うがのう。たとえそれは貴様が鍛えて、後から自分で身に付けたものでもじゃ」
ゲームにはそこまで詳しくはないが、だがこれはラオロアにはわかる話だ。
ゲームで得られる能力は基本的にそういう設定の元で得るもの。たとえそれが原住民たちの目には理解不能とされていても。そして多分これが、この世界における俺たちのゲームシステムの認識だろう。
どう考えでも同じことを指しているようにしか聞こえんしな。
しかしよくできているなぁ、このゲーム。
まさか原住民が俺たちプレイヤーのゲームシステムを理解しているように作られているとは思わなかった。
「大剣を扱いたいのならば、騎士なり戦士なりと、重装備を扱う職業を就けばそれなりに扱えるようになるのじゃろう。だが貴様の場合、戦士の職業の基本素質だけでは完全にそれを扱いきれぬ」
「・・・ふむ、ならば騎士と戦士を両方同時に取ることも?」
「可能じゃ。理論上、法則として職業を扱う分、その受け入れる容量の余裕さえあればいくら職業を取っても構わん。貴様の場合はこの二つの職業さえ持っていれば十分大剣を扱える筋力を得るじゃろう」
「なら両方で・・・それで、どこで職業を取ればいいんだ?」
ゴルディマはラオロアをじーっと見つめ、そして右手で拳を作り、それを目の前に地面に刺した大剣に持っていき、刀身を軽くノックした。
ゴンっという音がした後、大剣から半透明なものが飛び出し、そしてラオロアの目の前に半透明の剣と斧となって地面にぶっ刺した。
それらを目にした同時、閉じていたはずのメニューが勝手に開き、そしてメッセージの窓が二つポップアウトした。
【騎士の職業の取得条件を満たしました。騎士の職業を取得しますか?】
【戦士の職業の取得条件をみたしました。戦士の職業を取得しますか?】
職業の説明はなし。だが言葉通りわかりやすいから、ラオロアは迷うことなく両方とも確認するように選ぶ。
【騎士Lv.1を取得しました】
【戦士Lv.1を取得しました】
このメッセージの表示と共に、地面に刺していた半透明の剣と斧は消えた。
ステータスを開けると、前見た時よりだいぶ成長したステータスが表示されているほか、右側にちゃんとレベルリストが表示された。
そのリストにはさっき取得した二つのジョブとレベルが表示されてあり、二つの職業の上にさらに【半獣人Lv.1】が書かれていた。そしてリストの窓の上の端っこには【3/255】と書かれている。
なるほど、こういうものか。
メニューを閉じる前に、ステータスで名前表示のところに点滅しているのがみえて、そちらをついでにチェックすると、今度は所持称号のリストが表示された。
【降り立つ異世界人】
【竜?に凝視されし者】
【鳥?に凝視されし者】
【獣?に凝視されし者】
【???に凝視されし者】
【ゴルディマの最初の訓練生】
なんだこれ。
凝視って書かれている称号を数えると、ちょうど四つある。
あれか?この町に到着するまでにいろいろと見つめられたあれか?
しかし、なぜそれが称号となる?
リストを閉じて、すこしメニューを探しまわしてみる。そしてステータスの端っこをタップすると、現在の状態やステータス異常を確認できる窓が出てきた。
【遠隔の凝視*4】高等な存在に目を置かれている。その威圧によって全ステータスはペナルティにより10%*4ダウンしていている。一度でも死亡すればこの状態は消滅する。
窓を閉じてステータスを詳しく見ると、たしかに各ステータス項目の傍では右印があり、その先には赤い文字のステータスの数字が表示されている。
この凝視が存在するタイミングから考えて、多分前に街中を走っていた時にもすでに掛けられていたのだろう。
しかし、これは一体なんのためのステータスだ。
書いている通りの内容を考えると、ただのバッドステータスにしか見えないのだが。
というか、大剣を扱える筋力が足りないのはこれのせいだったのかと、ラオロアは呆れた。
一旦ステータスを閉じて、そして今度は点滅しているスキルの項目を開く。
大きく開いた窓には淡く点滅するスキルの名称と思われしものが存在していて、それらの名称を選ぶとスキル解説が小窓でポップする。
一通りのスキルの説明を見てから、ラオロアは窓を閉じてすこし考え込む。
【獣化】――適合する獣姿に一定時間変化し、体に眠りし野生の力を行使する能力。
【獣の目】――暗闇の中を生きる獣の目を所持している。遠くあるものをある程度見える。
【重装精通Lv.1】――重装備と数えられる武具や防具の装備条件を、ステータスに限ってすこし軽減する。
【軽装精通Lv.1】――軽装備と数えられる武具や防具の装備条件を、ステータスに限ってすこし軽減する。
【筋力強化Lv.1】――筋力をすこし強化し、関連する訓練の効果を上げる。
【体力強化Lv.1】――体力をすこし強化し、関連する訓練の効果を上げる。
これが職業を取ることで基本素質を得るカラクリか。
たしかに職業ごとにステータスを伸ばす方向が違うけれど、最初から持っていなかったステータスの差分をほとんどスキルで埋めて補助している。
そして職業をどうにかして消してしまった場合、このスキルもなくなることで本来のステータスを減らすことなく、その素質そのものを無くせるわけか。
ラオロアが顔を上げると、手に持っている大剣をもう一度振ってみた。今度はゴルディマの手を借りずに、大剣を自分で止めることが出来た。
うん、さっきよりもしっくりして気がする。
「さて、そろそろ次じゃな」
ゴルディマはずっと待っててくれていたようだけど、どうもラオロアが時間を取り過ぎたせいですこしイラついているらしく、若干乱暴に地面に刺した剣を抜きだした。
さっき見たい目に見えて気迫を発していないが、五感がシミュレートされたこの世界の中でも、なにかピリピリしたような空気が肌に刺しているように感じた。
「ただ習うより、その身で慣れろ――その大剣に狙われる感覚をな!」
そう言い終えると、ラオロアが準備できてたかの確認すらせず、ゴルディマは両手で剣を振り上げた。
「――<重撃>!」
一瞬、ゴルディマの姿勢が不自然に止まる。そしてその手に持つ大剣に光が走ったその瞬間、その止まった瞬間の時差を埋めるように、明らかに異常な速度で剣が振り下ろされた。
本能的にバックステップを取るラオロアの後を追うように、その大剣はラオロアがさっきまで立っていた位置の地面に叩き込んだ。
剣でぶった切るというより、その重量と力で押し潰すかのように。
「クク・・・さぁ、自分で身を持って知るがいい、貴様が振るう得物がどういうものかとな!――<切り刻む>!」
そう嬉しそうに語りながら、ゴルディマは地面に叩き込んだ大剣を合間に踏み込むと同時に引き抜く。
そして次は薙ぎ払うように、ゴルディマの体は流れるように中段の構を取る。またしても一瞬動きを不自然に止めて、そしてさっきと同じようにその剣に光が走った。
さっきの経験もあって、その光を見た瞬間ラオロアは警戒心を引き上げるが、このままさらに後ろに下がり続けるのにはちょっと体勢が厳しい。
重心がズレたらアウト、そのまま次の攻撃でやられる。
ならばここは後ろに下がらず踏ん張って、大剣でその攻撃を受けるしかない。
できれば受け流す形で。
しかし、光の筋を纏った剣戟に予想以上の力が込められていて、大剣の腹で受け流したラオロアが危うく吹き飛ばされそうになる。
これが斬撃とか、冗談じゃない!
しかし、なるほど。
「これが・・・戦闘スキルか!」
ゴルディマが横に振り切った剣の合間に、ラオロアは思い切って踏み込む。
さっきゴルディマが見せた動きをそのまま再現するかのように。手を降ろし、両手で大剣を握りしめ、中段の構えを取って、今からでも切り込むかのような姿勢になった動きを――止める。
その大剣に光が走った一瞬、ラオロアはその光が見えずとも両手を通して大きな力を込められたのが感じられた。
そしてまるで車が暴走したかのように、体の制御がほとんど聞かず、次の瞬間に腕が勝手に大剣を振り払った。
カチッ!と、大きい声がしたと思ったら、ゴルディマはいつの間にか大剣を戻して、その斬撃をさっきラオロアが防御したと同じような姿勢で受け止めた。
「ほぉ、筋は悪くない――だが、甘い!<重撃>!」
「なっ!?」
姿勢を低くしたゴルディマ、両手で大剣を握りなおす。
最初の重撃の時とはまったく違う姿勢で、ゴルディマはラオロアの剣を受け止めながらもう一度、同じ重撃を発動させる。
重撃を受け止められ、反動で硬直していたラオロアは自分の大剣ごと押し戻され、そのまま吹っ飛ばされた。
「クッ・・・ん?痛みはそんなに感じない?」
確実にダメージを食らいながら、予想していた痛みが大分弱いことに気づき、ラオロアはすぐに体勢を整える。
予想以上にリアルの戦いに、思わず身構えてしまったけど、これはゲームであることをもう一度思い出す。
さっきはなんとか倒れなかったものの、倒れてたら多分アウトだったのだろう。戦いの最中に敵が起き上がるの待っている奴なんていないからな。
そして予想通り、当たり前のようにゴルディマは迫る。その右足を前に踏み出し、重心を思いっきり前に傾かせ、次に右足を踏み出すところで――止まった。
これって、まさか!?
「――<突撃>」
その言葉がゴルディマの口から零れ落ちる瞬間、その両足に光が纏った。
まだピンチ的状況には程遠い、しかしラオロアはずっと戦いのペースを握られ、相手の掌の上に転がされているように感じられた。
ゴルディマの行動にいろいろと思うところがある。
急な稽古、口に必ず出す技の名称、まるで見せるために戦っているあの綺麗なフォームと動き、そして攻撃への対応まですべてこういうこともできると行動で教えている。
だが、だからってそれに見入れて、ただいいようにやられていいはずがない。
戦うんだ。
反省はあとでする。だから今は戦って、そして学べ。
自分に活を入れて、ラオロアはしっかりと手に持つ大剣を握り締めた。
急に、世界が遅くなった。
それは錯覚のだけかもしれない。しかしラオロアには見えていた、ゴルディマがスキルで急接近してくる動きを。
その動きを目で追い、そして接近してくるゴルディマと目を合わせると、ゴルディマの口角が釣り上げたのを見えた。
――<重撃>。
再び剣がぶつかり合う音が聞こえる。
ラオロアはさっき見せてもらった重撃のもう一つ起動パターンの動きをそのまま真似ることで、突撃してくるゴルディマの大剣を止めた。
だが、それだけでは止まらない。
この距離だと助走はできない。だが、スキルの強制的な動きを利用すれば・・・
「――たしか、こうだったな・・・!」
全身の力で剣を押して、なんとか双方の膠着状態を解除する。そして体勢を修正することもせず、ラオロアはさっき見た突撃の姿勢に入る。
スキル発動の判定がなされた瞬間、体に走る異様な力の感覚を感じれたその時に、ゴルディマは目を細めて、片手をラオロアに向けた。
「――破ッ!」
その瞬間、わずかの動作でその掌を空気にぶつけ、そして空気越しに大きい衝撃をラオロアの体に浴びせた。
体に篭められた力が幻のようになくし、ラオロアの突撃は失敗に終わった。
それを確認してすぐ、ゴルディマは大剣を前みたいに地面に差し込む。これを合図に、この稽古は終わったとラオロアは悟る。
「ふむ、すこしは戦い慣れているようじゃな」
「・・・喧嘩だけならそれなりにして来たからな。後は親父に仕込まれた」
「ほぉ、筋はたしかに悪くないのぉ。もうちょっと戦っていたかったが、まさかワシの行動を見てすぐに理解し、そして戦技を使って見せるとはのぉ。そうでなければもうちょっと戦っていたかったものを・・・まったく」
「それもいいけど、戦技はスキルとどう違うんだ?」
当然といえば当然の質問。あからさまにスキルを所持せずとも真似してみたらちゃんと使えてたし。
それを聞いて、ゴルディマは目を細め黙り込む。さっきのすこし楽しくなってきたという表情もまた険しくなる。
どうやらこの話はステータスや職業と同様、気に入らない部類になっているらしい。
ゴルディマは手で自分の顎の毛を何回も撫で回す、イライラするの雰囲気を出しながらなんとか我慢しているらしいことがわかる。
「戦技はスキルとは別物じゃ。基本的に武器の使い方や技などから来ているものじゃが、【降り人】でもまともに扱えるように法則により強化・省略化されとる。たとえ戦いの素人でも手順を踏めば使えるようにな。これはさっき貴様自身が体感した通りじゃ。――それを理解してちゃんと使えこなすかどうかは別じゃがな」
「それは同じ戦技でも、使うパターンが複数あるからか?さっきの重撃のように」
「さてな・・・戦技は確かに存在する技術を元に出来ておる。これ以上ワシからはなにも言わん」
答えになっていないような答えを返されて、ラオロアはすこし困ったように頭を掻いた。
どうもゴルディマは【降り人】の力を得る仕方についていろいろと不満らしい。
まぁ、たしかに鍛えてきたラオロアには分かる話だ。鍛えて自分のものにした力を、誰かがなにもせずにただ手に入れるなんてことがあったら、そりゃー不満になる。
ラオロア自身も自分が鍛えてきた力こそ一番だと考えている。
それに、ラオロアはただ戦技に振り回されるのは好きじゃない。
さっき何度も試してわかったことだけど。たしかに省略化されているわりには、威力が段違いだ。現実にできないことをそれで可能にすることだってある。
戦技をそういうものだと割り切るのならかなり使えるのになるだろう。しかし、それによって自身の力がまったくと言っていいほど引き出せないとなると、話は別だ。
思い返してみると、さっきの戦いでの自分の酷さがわかる。
一方的に攻められているときの反応など、戦技を使う時間以外ほぼ棒立ちと言っていいほどだった。あれほど手を抜かれているのにも関わらずに。
今こうして冷静に考えると、喧嘩の経験からしても対応手段なんていくらでもあったのに。
本当になにをやっているんだろうと、ラオロアは若干恥ずかしくなった。
これでもしあのおっさんが見ていたら、絶対大目玉を食らうところだったな。
こうなったらもう一度・・・
「さて、戦技の使い方をもう理解しているのならば、このクエストはこれにて終了とするぞ」
「え?手合わせの続きは・・・」
皺を寄せながら考え込むラオロアをよそに、ゴルディマはさっさと大剣を抜きだして武器棚へ戻していた。
そしてラオロアの傍を通るときに、その肩を一回叩いた。
「さっきの話は撤回じゃ、終わった後にもワシは質問を一切受けつけん!ガッハッハッハッ――」
そう最後に言い残し、ゴルディマは手を振り、笑いながら去っていった。