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暁の幻世記ーLast Breakー  作者: 黒獅
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第一章 ゲームへの招待

まだまだゲームに入りません。

 好きな話題で調子を取り戻した悪友とこれから割りと長いかもしれない話に付き合うのだからと、稲羽(いなば) 彪十(あきと)はコンビニで買ってきた炭酸飲料を振る舞い、場所を片付けた居間のほうに移動した。

 まだ夏前だけど、すでに暑くなってきているから彪十は上着を脱いで、若干くたびれたタンクトップと短パン姿でコタツの前に座った。

 暑くなるから、このコタツもそろそろ仕舞わないとなぁ。というか、このコタツ結構古いから、新しいのを買うのもありなのか。でもそれだとまたバイトが・・・


「ん?なんだ?」


 いろいろと考えを巡らせていると、彪十は悪友がじーっと自分のほうを見ている感じた。なにか変なものでも服につけたのかと、彪十も見下ろしてみるが、特にこれといったものは見つからない。


「いや、お前なんか・・・すこし太った?」


 あぁ、なるほど。そっちか。

 とりあえず頷いて、飲み物を口に付ける。これで流してくれるのだろうと普通に期待してしまったのだが、一口飲み終えても悪友は相変わらず視線で催促してくる。


「すこし太らしたあと筋肉を鍛えたほうが、筋肉は付きやすいからな」


 そうなのだ。

 実はこれ、二週間ほど前に親父(おっさん)から聞いた話なんだ。鍛えているから筋肉は付いているが、今だの細マッチョくらいの体系にしかならず、服を着ていると逆に平凡に見える。おっさん似というのがすごく嫌なのだが、ガチムチマッチョになるのが彪十の憧れなのだ。


「まだ着痩せなのを根に持っているのか・・・」

「服を着ていても筋肉がはっきりわかるようなマッチョマンになりたくて何が悪い」


 呆れた顔でなんかむかつくこと言われた気がしたから、バッサリ切り捨てた。

 興味があった女にまで体型のことで舐められて、他人に付いて行ってしまったのが悔しいなどと断じて認めん。


「ま、まぁ・・・じゃあ、アレの話をしようぜ、アレの!」


 思わず睨んだからか、悪友はちょっとバツ悪そうに視線を逸らした。

 炭酸飲料のボトルを置いて、彪十はまた携帯を弄りだす。実はビデオにあったいくつかのキーワードによりさっきは一度そのビデオを見つけ出したのだが、彪十にはその意味も実態もまったく理解できてないのだ。ただ一つ、さっきのビデオを見つけ出したときから注目していたものがあった。

 それは日付である。


「で、一体どういう話なんだ?お前がずっと見せてきたこのビデオ、もう五年前のテレビで放送されてたやつじゃねぇか」

「あー、うん。実はそうなんだ。だからこそっていうのもあるのだが・・・」

「歯切れ悪いな。なんだ、羽振家(おまえんち)が関わっているのか?」

「いや、それはない」


 断言、なら問題ないだろうとも思う。

 悪友(こいつ)はこう見えても一応ヤクザの家系に生まれてきたお坊ちゃん(笑)なんだ。

 羽振(はぶり) 剛人(たけひと)、愛人の子であるという立場が微妙なものではあるが、組長の息子の一人であるだけで立ち位置とかを気をつけなければならない。たとえ本人はあまり継承権などとかに関係がないかもしれないにしろ。とりあえず年相応にグレてみて、ほかに家に失望させるなりのことをやって、すこしずつ家に疎遠しているのだが・・・ヤクザの世界は抜け出しきれない、たとえ望んで入ったものでなくとも。

 それについて彪十はなにも口を出さないで決めている。求められたのならまだしも、赤の他人が知り合いだからって相手家の事情をただ無遠慮に首を突っ込むのはあまりよろしくない。何様のつもりだと言われたら、まさにそうだなと自分も同意するからだ。


「実は羽振(うち)のほうにちょっとした気になる噂が流れ来てな、上の兄貴の一人がそれに興味を持ち始めて、俺にその話を持ってきたんだ」


 まぁ、もらうものはもらって断ったけど。そう呟く悪友に彪十はただ頷くだけ、そして話の続きを待つ。

 時々実に対照的だと思うのだ。

 彪十には家族と呼べるものは最初になかった、欲しくなかったかと聞かれたらほしいと答えるだろう、だが実際に持つのは怖い。

 剛人は家族と呼べるものは最初に持っている、だけれどそれを欲しかったのかと聞かれたらほしくないと突っぱねるだろう。

 お互いの持たないものを持っていて、そしてその中から羨ましいと思えるようなものがなかなか見つからない。ある意味悟りの境地である。

 冷めている、とも言うのだろうか。


「もらったって、ゲーム機とか?」


 ゲームの話はまだ出てこない、ならば貰えたものというのは、あのビデオでも大いに宣伝した新世代機なのだろうとあたりを付けてみた彪十に、剛人は機嫌よさそうに大きく頷いた。


「お、さすがに分かるか。ゲームはそろそろ出来るって話だけど、問題のゲーム機について段階を踏んで発売することになっている。つまりは数に制限があるのだ。それを、兄貴から二台確保しといたぜ!」

「ふーむ」


 すかさず親指を立てて笑う剛人に、彪十はジト目を返す。


 話しを断ったって言っていたけど、そう簡単なものではないだろう。なにかしら最低限、情報の取引でも約束したのか。

 ヤクザが目を付くもの、基本的に金だろう。最新技術の新作とはいえ、たかがゲームだ。ゲーム業界に手を出していないヤクザが気にするということは、運営側ではなく、プレイヤー側で金になるようなネタがこのゲームに転がっているということなのだろうな。

 ヤクザのと商人のとも違う目線で金には敏感な彪十、すぐさまにこの話から拾えるヒントを並ばせていく。


「――新技術、世界最大規模のオンラインゲーム、プレイヤー・・・」


 彪十は考えながらまた炭酸飲料を口に付けていく、ボトルの中身を一気に飲み干して、そのまま蓋をして顔を上げる。どうやらなにか思いついたらしい。


RMT(リアルマネートレード)だな、公式での」


 まるで虚空にいる獲物を射抜くような目をした彪十を見て、剛人はちょっと感心していて、同時にちょっと引いていたりもするという複雑の心境だ。これが知識による推測ではなく、獲物を狙う直感に近いほうのものなのだからもっと性質(たち)が悪いのだ。

 こういう彪十だからこそ付き合ってきたし、そしてこれから始まるあのゲームにも誘ったのだ。だが同時に、すこし後悔もしている。今まで隠してこられた彪十の価値が知れ渡ってしまうことに。


「そうだ、それに近いものがこのゲームに投入するって話だ。もちろん最初からではなくてな?このゲームの先導者は常にプレイヤーだ」


 詳しい情報はまだわからない、でもゲーム一つでプレイヤーの間では莫大な金の流れがある。

 どういう方法にしろ、RMT(リアルマネートレード)が公式で成り立つようなことがされたら、虚数(データ)でしかなかったゲームの金と資産が本物の価値を持ち始める。


「だが今はまだ噂の段階でしかないし、それにさすがに段階を決めて開放しないとリアルの経済にまで大きな影響を及ぶだろうから、RC社は今でもいろいろ手を打っているんじゃねぇ?」


 そう剛人がそう言った途端に、彪十はあからさまに興味をなくした。

 さっきまでとの違いに、剛人は思わずきょどってしまった。なんとなく言った推測の言葉なのに、なにか自分でも気が付かなかった大事な情報が入っていたのかと慌てる。


「じゃあまだ早いな。俺らとほぼ関係ない話だ」

「へ?はぁ?なんで?」


 自分から話題に出したのにも関わらず、置いてけぼりにされた剛人、もはや頭にハテナがいっぱいだ。

 いきなり毒を抜かれたかのように興味をなくして彪十はそれを見て、面倒くさそうにコタツテーブルの上に突っ伏した。

 その姿勢はさっきまでとは別人のようで、どこかの無気力系の人間に見える。


「わっかんねぇのかよ」

「今絶対バカにしてんだろう。だがそんなことより早く説明しろ!」

「面倒くせぇ・・・」

「おい!」


 あぁ~もう・・・面倒くさいな、と零しつつ、彪十は頭をすこしあげて語りだす。


「キーワードは世界最大規模と、テストだ。あの五年前の放送に公言した通り、このゲームはいろんな意味でいろんなテストを行うために作られているんだ」

「それはわかってる。というかあのビデオで言ったまんまじゃん」

「・・・で、世界最大規模だからこそ、RMT(リアルマネートレード)の公式化の試しになれる。だが逆に、世界最大規模だからこそ、お前が言う通りにリアルの経済に凄まじい影響を与えてしまう」

「あぁ、だからRC社が手を打つだろうってさっき――」

「その通りだ。手を打つから俺らとほぼ関係のない話になっているんだ」

「おぉ・・・で?」


 まだ困惑半分でいる剛人だが、続きがあるんだろうと踏んでとりあえず話の続きを催促する。


「リアルの経済と言ったら、いろんなレベルに分けられているのはお前が一番よくわかっていると思うが。簡単にいうのなら、金持ちと一般人の間では金とそうじゃないものでいろんな差がつけられる。んで、じゃあ世界中のどのような人間の金がテストで消耗されても、問題が起きた時に世間にダメージが少ないのかというと・・・」


 ここまで来てさすがにわかったようで、剛人の顔から困惑が消えた。


「あぁ、なるほど。上にある人、つまり金持ちのほうな」

「そういうことだ。つまりこのテストは多分金持ちの間で解放され、金持ちどもによる遊びになる。一般人のプレイヤーにお零れもあるだろうが・・・」

「それもまた金持ちどもによる一種の特権だろうなぁ」


 まぁな。金持ちなんて、大きな会社から大きな名家など、社会的な地位も金もある。ある程度優遇されているだろう。テストだと言っても、優先的に体験できるというだけで喜ぶものだろうな。


「ん、問題はこのゲームがテストケース(・・・・・・)だと公言しているとこだな。コントロールのできる範囲内でしかテストは行えない、だから多分一般プレイヤーの間でそれができるようなことはたぶんないだろう、今回(・・)は」


 どうやら剛人もこの話にすこし思うところがあったようで、黙り込んでなにかを考え始める。

 彪十もさっきの話の続きにまだ纏まっていない思考があり、この機をいいことに同じように黙り込んだ。


 たしかにゲームの内容とかいろいろと知らないもあるけど。それに噂があるといっても、本当にあくまでも噂にしかならない。ただ羽振家に届いて、そしてそれを本気に考える人がいるということは、それなりの信憑性のある噂だったのだろう。まったくの嘘だと言われたらまぁ、そこまでなんだけど。


 噂の出所とか信憑性の話はあとで聞くこともできる。今はその噂を信じる前提で考えよう、それで今持っている有限の情報である程度の方向性は判別できるから。


 コントロールできるのは、RMTを一部の人間にのみ解放、そこはさっき話していた通りだ。

 ならば完全に一般プレイヤーにその機会がないのかと問われると、答えは(ノー)だ。たしかにどういう計画を立てているのかなんて、内部の人間でもなければ詳しくはしらないだろう。だが方向性からして、最終的にテストで一般プレイヤーにRMTを公開する可能性はないわけではないのだ。


 もしそうなら、かなり制限があるか、またはゲームの終盤になるのだろう。ならば自然的に、正式にその機能を使い始めるのはその次に出るVR(バーチャルリアリティー)のゲームになる。


 そうなると、逆に言うと今回のゲームで金持ちの家の金銭的なアドバンテージが一番でかい。もし無制限に今まであったようなRMTをそのまま公式で可能にしたのなら、このゲームは金持ちどもが集団を作り、頭を名乗りだし、一般プレイヤーのほとんどを巻き込んでの国盗りゲームに成り下がる。あのビデオで言っていたテストがほぼ実行できなくなる。


 大いに宣言したプロジェクトなのに、こんな見え透いたような穴にみすみす落ちていくのは考えにくい。ならば何かしらあるはずだ。

 さて、一体どういう風にゲームを作って、そしてRMTに制限を加えてバランスをとるのか、ちょっと気になってきたな――と、彪十は思いながら、すこしずつ気力を取り戻していく。


 だが所詮関係者ではない視点から面白いと思ったまで。これがゲーマーの剛人ならもっと違う方向で興味を持つのだろう。

 考えが纏まったし、続きを話そうと口を開きかけた彪十なのだが、その話を持ち出される前に玄関の呼び鈴が鳴り出した。


「ん?客人か?」

「・・・見てみないとわからないな」


 あのおっさんに訪ねてくる人はかなり少ない、というか彪十が知っているのはたった一人しかいない。

 もちろんおっさんにも付き合いというものもあって、外に飲みに行ったりすることもあるし、頼まれて肉体労働仕事の手伝いもする。ただなぜかみんな家に来ないのだ、少なくとも彪十の知る限りでは。


 似たように、彪十には訪ねてくる人なんていない。それだけいうとボッチみたい見られるのだが、実際つるんでいる人もそれなりにいる。

 剛人なんてその一人だ。だが剛人以外に彪十がどこに住んでいるかも知らされていないようなものばかりだから、訪ねてくるなんて剛人しかいない。ただ、剛人はおっさんが苦手だから同じように必要でなければ来ない。

 

 それに今のご時世に、大抵は他の奴らは携帯で連絡できるから。

 

 友人以外でなら、訪ねてくるのは配送業者とかセールスマンくらいだが、宅配便とかそういう類も同じようにほとんどこない。

 おっさんは自分で買い物しにいくのが好きだし、かく言う彪十もオンラインショッピングなどしたことがない。稀に他人からおっさん当てに贈り物がある以外は、基本的に立ち寄るのはセールスくらいしかない。それでもおっさんの噂を知っていると大抵来ないのだが、勇者なんていつの時代にもいるものなのだと言っておこう。

 

 だから今来るのなら、あの毎回黒いスーツ着ている男か、セールスだろうな。

 彪十はそう思いながら、とりあえず立ち上がって玄関のほうに向かった。


 碌に出迎えもしたことない彪十は、挨拶やら掛け声をかけてから門を開けるような習慣はない、相手がただ黙って一気に門を開くだけ。だがどうやら来訪者にはそういう事に慣れていたらしく、特に反応を見せなかった。

 彪十は目に映る姿を認識するよりも先に、来訪者の正体を確信した。


「おっさんの愛人か」

「ちっがうぅぅー!!」


 清ました顔で、どこからどう見てもエリートサラリーマンの黒いスーツの男は、彪十の強烈な一言でキャラが崩れた。


 黒いスーツの男、エリートサラリーマンの風格を漂わせて、いつも凛々しい顔と立ち振る舞いをする。イケメンで、それなりに背が高い。名前は不明。

 実は彪十には数回しか会ったことがなく、ほとんどは家に帰ってくるなりすれ違ってしまう程度のものだった。ただ、珍しくおっさんに訪ねてくるようなもの好きなので、かなり印象に残っていた。

 なので当時まだ十二歳の彪十は、好奇心故におっさんに聞いたのだ、あの時々すれ違っていく男は誰なのかって。


 最初におっさんがニヤニヤ説明してくれていたけれど、まだ十二歳の彪十には大人の関係ってやつが詳しく知らなくて、ただそのままの言葉で次にすれ違ったときにその男に確認したのだ。

 そしたら男は顔を真っ赤にして家に乗り込んでいき、おっさんに声を上げて「子供になんてことを」って怒鳴ってた。

 彪十からしたら、確認したら否定もしなかったからその認識のままになったため、今思いっきり否定されても、噂にきくの照れ隠しってやつなのだろうと聞く耳持たないのだ。


「おーい、彪十、客人なら俺先に帰ってもいいぞ?」

「別にいい、多分すぐに帰ると思う」


 どうやらすこし後に彪十についてきたらしい剛人は声を掛ける。

 だが自分の客人でもないし、あのおっさんもいないのなら、多分すぐに帰るのだろうと特に興味のない彪十は客人に聞く前にそう言い放った。


「ふーん」


 で、誰だこいつ?と、声に出さずに聞いてくる剛人に、彪十はチラッとまたエリートサラリーマンの立ち振る舞えに戻った男を見て、ちょっと意地悪してみたい気分になり、堂々と過去におっさんが彪十に告げた内容をそのまま言い出した。


「あぁ、おっさんの女を寝取って結婚した後、おっさんに報復されて無理矢理に愛人にされたという不憫な男だそうだ」

「・・・」

「・・・へっ?」


 まさか本当にそう言われるとは思わなかったらしい黒いスーツの男は、ポカーンと口を開いたまま体全体を硬直してしまった。

 同じようにびっくりしたのは剛人も同じ。だが無感症疑惑の彪十と違って、こういう話にはわりと年相応に関心を持つ剛人は最初の驚愕後、すぐに興味津々に来訪した男を上から下まで何回も見回した。


「へー、そりゃまた・・・レアものだなぁ」


 思わずというように感懐する剛人を余所に、男は諦めたようにため息をついた。硬直を解けたあとにすこし玄関と廊下に覗き込み、用事だけさっさと済ませようと口を開いた。


「もういいです。稲羽さんはやはり帰っておられませんね」

「あぁ、愛人を慰めにいくみたいなメッセージを残していたな。アンタとこに行っていないのか?」

「私は稲羽さんの愛人ではありませんから。()()()!」

「ふーん」

「クックック・・・」


 埒が明かない。

 どうやらおっさんに捨てられたから来たわけではないらしいが、彪十にはどうでもいいことなのでただじーっと黒いスーツの男を見ているだけ。見ているというより、話を進めろという催促である。


「稲羽さんがいないのなら仕方がありません。ここ最近毎日のように訪ねていますが、どうやらすぐに帰ってくる気配でもないようですし。ならばこれはあなたに預けましょう」


 男はそう言いながら服の内ポケットから取り出したものを、彪十に差し出す。それは藍色と白色の線が引かれたカード、ICチップやらが入っていないように見えるが、見た目がただのクレジットカードにみえる。

 ただし名前やカード番号などみたいな文字もなく、色付きのブランクカードみたいなもの。


「これは?」

「この前、稲羽さんに頼まれたものです。この状況からしてあなたに預けるために依頼したのでしょう。キャッシュカードです」

「キャッシュカード?俺はもう銀行で自分の口座作ったけど?」


 そう言いながら、彪十はとりあえず手に持っているカードをひっくり返てみる。

 よく見たら、角度を変えるとうっすらと色の内側に見える線状の模様があり。カードの裏側には太陽みたいな模様と逆さまの三角が重なって、重なった部分だけ色が裏返っているアイコンがあるだけ。


「いえ、そっちのではなく・・・これは特別な場所で使う口座のキャッシュカードです」


 いまいちよく意味がわからなかった彪十だが、そばにいる興味津々の剛人が覗き込んでカードの裏にあるアイコンを見たら、思わずといった具合に声を荒げて驚愕した。


「おまっ、それって!」

「なんだ、剛人、何か知ってんのか?」


 黒いスーツの男は、ちょっと意味深に剛人を見つめて、そしてさっきの反応を見なかったように彪十に話をつづけた。


「カードは確かに預けました。大事に保管していてください。このカードは現在、発行した数はまだ(・・)三桁(・・)に届いていません。これから増えるかもしれませんが、すぐというわけではないのです。使うか使わないかについては、あなたにお任せしますよ。ですが決して、他人に渡さないように(・・・・・・・)してください」


 念を押すようにそう言われたあと、話が終わったというばかりに、黒いスーツの男はすぐさま離れた。

 姿勢が正しく、急いている様子を見せないのにもかかわらず、離れる速度が半端ない。まるで逃げているようにすら見える。


「愛人じゃないと言ったけど、もしかして本当はおっさんに惚れているのか・・・?」


 カード渡すためにわざわざ数日連続で訪ねてくるなんてっと、思わず呟いたように言った彪十の言葉に、剛人は例のキャッシュカードによる驚愕から抜けて、一気に別の意味でガクっと力が抜けてしまった。


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