小難しいあの娘
この小説は https://adventar.org/calendars/2268 の1日目の記事です。1日が過ぎた後に登録し、25日までに投稿しようとしたものですが、ログイン失敗、セイクなどがあり失敗しました。
「私、結婚したんですよ」
中学高校と付き纏ってきた後輩から、突然こんなことを言われた。
果たして、彼女と自分はどんな間柄だっただろうか。それを簡潔に表すのはきっと難しい。
私をいやらしい目で見てくる男に威嚇したり。やたらとスキンシップが激しかったり。女の子同士だったので、こんなこともあるかな、程度にしか考えていなかったと思う。
孰れは私から離れていくんだろう、そんな風にぼんやりとした予感があった。私にも、特別な......性的な感情などないと、そう信じていた。
「先輩が、好きでした」
あの日と同じ言葉を彼女が言う。かつての私は、戸惑い、そう、拒絶したのだった。なのに何故、今の私はそうではないのだろう。
あの時から重ねたのは数年の学生生活とまだ二桁を数えない社会人生活。
「......! 何、それ。私はもう、どうだっていいってこと? 私には、私とは、愛じゃなかったって、そういう!」
自分の口から漏れた言葉は聞くに耐えないほど醜悪だった。何を動揺しているのか。拒絶したのは、自分なのに。
「愛、ですか」
どこか可笑しそうに彼女が笑う。
「それは、今の、先輩の言葉でしょう」
それはある意味で当然。拒否した、私が、
「言葉が、私達を縛るんじゃないんですよ」
言葉が、染みる。
「私達が、言葉を縛るんです。時間で、状況で、関係で。そのときの私の口にした『愛』は、そのときの私にしか分かりませんよ」
「はぐらかさない......っ」
「先輩が何を考えていたのか、今、何を考えているのかだって、伝えられてもきっと分かりませんよ」
その圧力に、言葉が出ない。対話などできないと、そう言っているのだろうか。その様子を見て、彼女は笑みを深めた。
「変わらないなあ、先輩。ちょっと言葉に意味を込めると、もう理解してくれない。まあ、それが可愛いんですけれど」
「私の言葉は私の世界の端ですけれど、私の世界を表していません。言葉は共通のインターフェースであって共通の認識じゃないんですから」
「......っ! そうじゃなくて! 」
「......まあ、先輩は、そうですよねぇ」
それからも彼女は言葉を紡ぐ。それは、私には分からなかったけれど。彼女が彼女なりに誠実であろうとしてくれたことは分かったけれど。その言葉達は私の中に無かったから。
一日目を開け損なったアドベントカレンダー。きっと、二十五日に後から開けようなどと考えてはいけなかったのだ。
順序は正しく、正しいときに行われる。その了解は、きっと世界の要請で。あのときの彼女から離れてしまった自分には、あのときをやり直すことはできなくて。それだけは。分かった気がした。
「私、間違えたの?」
しかし。ふっ、と彼女は笑った。
「いえ、先輩は間違えてなんかないですよ。だって」
耳元で、囁く。
「最初から、正しくなんて無かったんですから」
アドベントカレンダーは子供の楽しみ。イブが恋人達の夜? 知ったことか。奇跡の夜は今夜。