バニーガールになった博士の話
2017年5月4日。修正しました。
5月5日。博士の一人称にしてみました。おかしな点があったら指摘をお願いします。
「やったぞ。これで長年の夢がかなう」
私は試験管を手にして喜んでいた。中身は七色の光を放つ液体が入っている。
すごくうれしい。とても楽しくて小躍りしたいくらいだ。
私は三十代半ばで、博士と呼ばれる役職についている。今日は土曜日で休日だ。
そしてついに性転換の薬を完成させたのである。
私はテレビコマーシャルをばんばんやってる有名な会社に製薬勤めているのだ。そこで大ヒット商品を生み出す。
ちなみにそいつは男でも女みたいに気持ちよくなる薬だ。打ち切りがなく長時間副作用なしで楽しめるのである。
そして研究主任の座についた。ここは私が所持する個人の研究所だ。ちなみに独身である。
だからこそ同僚の目を気にせずに研究を続けられたのだ。
「これであれを着ることができる……」
私は胸を躍らせながら洋服ダンスの戸を開けた。そこにはバニースーツがハンガーにかけられていた。
もちろんうさ耳にカフス、網タイツにハイヒールも用意してある。
とあるバニーガール専門のネットショップで購入した。バニー衣装に力を注ぐ女性たちの店だ。
私はバニーガールが大好きだった。それは小学生の頃読んだ漫画に影響されていた。
大きく開いた胸に、丸みのある柔らかそうな臀部。それに網タイツに包まれた太ももに魅了された。
あと大事なのはうさ耳だ。これが欠けたバニーなどバニーではない。丸くて白いウサギの尻尾の重要である。
ただの裸よりもすごくエロかったことが印象深かったのだ。
テレビの仮装番組は欠かさず見ていた。ただし仮装よりバニーのお姉さんが目当てだった。
いつか大人になったら出場するんだと夢見ていた。もっともアイデアも予算もないので予選すら出なかったが。
のちに子供の教育に悪いとウサギの着ぐるみに代わったとき、一切見なくなった。
あれには怒りを覚えた。テレビ局に抗議の電話を入れたくらいだ。
エッチな漫画やDVDでもバニーガールが出ている物にこだわっていた。
バニーが表紙の雑誌も迷わず購入している。もっともその場合バニーがいないことが多かったが。
DVDでも黒いワンピースタイプにこだわっていた。色違いはともかく、ビキニだのメイドタイプという変則的なものは嫌いだった。
あと全部脱ぐとか、うさ耳を外す作品は即捨てていた。中途半端が大嫌いなのである。
大人になり風俗に行けるようになった。だがそれほどいいものではなかった。
なにせ着たままだと結構肌がざらざらして痛いのである。衣服がちくちくするとは思わなかったのだ。
あと着たままだと別料金を取る場合がほとんどで、網タイツを破るのも金がかかった。
これはお金の問題であり、それに一度経験したがこんなものかと冷めてしまったのだ。
ガールズバーでバニーさんに接客してもらったが、あれはあれでいいものだ。
おさわりはできないが、バニーさんを眺めるだけで心が癒される気持ちになった。
骨とう品や盆栽のように鑑賞するのが正しい楽しみ方だと思う。
「ふふふ。この薬を飲めば女になれる。そうすれば私はバニーガールになれるのだ……」
私は笑みを浮かべた。第三者が見れば歪んで見えるかもしれない。そう自分で着ることを望んだのだ。
かといって女装趣味はない。さすがに男が着るにはきつすぎる。
もっとも会社の助手の女性が腐女子で、男がバニーになることを喜んでいた。
正直男が着て何が嬉しいのか理解できなかった。
ただ着たいだけだった。見るだけでは物足りなくなった。女性になればそれが叶う。
バニーに眺めたり、触れることに満足したが、今度は自分がバニーになる番だ。
人から見れば頭がおかしいと思われるが、自慢ではないが私はそれを実現できる知性があるのだ。
海外留学の時、海外の有名大学の権威ある教授が私に残ってくれと懇願されたが断った。
そのために有名大学に合格し、今の会社に勤めたのだ。給料もいいし、個人の研究所建設費用も出してくれた。
すべては夢を叶えるための布石である。努力の方向音痴などと言わせない。
この日のために努力を重ねたと言えよう。
「さあ、飲むぞ!!」
ごくりと飲んだ。味はひどいもので吐きそうになるが我慢して飲み込む。
だんだん股間が熱くなる。そして胸が電子レンジで温めた餅のように膨らんできた。
数十分後、博士は立派な女性になったのだ。ちなみに髭はこまめに剃ってある。製薬会社だから当然だ。
胸は柔らかく、股間が軽くなったので違和感があった。重みでバランスを取っていたのにそれがなくなった喪失感があるね。
髪の毛も若干伸びている。肌もつやつやになっていた。女性ホルモンの影響だろう。
「やった! これで心置きなくバニーガールになれる!!」
声も女性のように高くなっていた。女性声優が小学生を演じているみたいな声である。
さっそく白衣を脱ぎ捨て、自分で購入したバニースーツを身に付けた。
体格は男と比べて身長が縮み、細くなっている。腰回りも細くなっていた。
私はわくわくしながらバニースーツに着替えた。
まず網タイツを履くが、足の爪にひっかかりつつも、なんとか履き終えた。
そしてバニースーツを着る。胸の部分はコルセットのように骨格が入っているのだ。
胸の部分は詰め物を入れることでボリュームをあげるそうなので、詰めてみる。
動画で見たが日本製はアメリカよりハイレグであった。
一物があったら絶対に入らないであろう。股間が膨らんだバニーなど殺意が沸く。
だからこそ性転換の薬が必要だったのだ。
股間が締め付けられるがこれもバニーのためと我慢する。
そして震える指で蝶ネクタイをつけ、両手にカフスをつける。
ハイヒールを履いて、うさ耳バンドを身に付けた。心臓がばくばくと鼓動を打っている。
それを鏡の前で立ってみた。立派なバニーガールの登場だ。
右手で自分の尻を撫でてみる。網タイツ越しの尻は不思議な感触であった。
女の肌はこれほど柔らかくなるのか。60代の母親の肌もすべすべだったと思い出す。
子供を産んだ女の尻は大きくなって触り心地が抜群だった。ただし母親には殴られたが。
あと姿見で自分の尻を見た。網タイツのバックシームがお尻の丸さを強調している。
ただのストッキングではだめなのだ。バックシームのない網タイツなどバニーにふさわしくないと思った。
ガールズバーでバニーに接客されたときに、その尻の破壊力に魅せられた。
だが自分の尻がバニーになったことにも感動を覚えたのだ。
「あはは、あはははは!! ついに私はバニーになれたのだ!!
自分の見たい時にバニーガールが見れる! しかも自由に動かせるんだ!!
ああ、自分でこれを着れるなんて、なんて幸せ―――」
「ちぃーっす。博士、いますか~」
突如ノックもしないで扉が開いた。それは私の助手である宅子であった。
分厚い眼鏡におでこが広く、髪は三つ編みにしていた。
さらにボロボロの白衣を着ており、一目でだらしない女性とわかる。
素材はよいのだが、ずぼらな性格がすべてを台無しにするタイプであった。
一体何しに来たんだ。というか今は深夜なのに!!
「あれ~、博士何してるんですか~? コスプレなんかして」
「宅子!! お前なんで来たんだ!! しかも連絡もノックもしないなんて!!」
「博士に用事があったから来たんですよ。それより博士その恰好……」
宅子はにやにや笑いながら私を見る。こいつは職場でもこの調子であった。
人生最大の危機である。女装趣味と思われてしまったかもしれない。
いいや、今は女性に性転換しているのだ。そこをつっこまれたらどうしようと固まってしまう。
「……なってませんね。着こなしがなってません!
あなたはコスプレを舐めすぎです!!」
宅子は激おこぷんぷん丸であった。私の着こなしに一言文句があるようである。
というか上司が女性になっても平気でスルーするのはどうかと思うぞ。
それにコスプレに物言いする口調が少し厳しい気がした。
「いやお前、私の状態に気づいてないのか?」
「気づいてますよ。女性になっているのでしょう? 博士ならそんな薬を作れてもおかしくないですから」
「私はそんな風に思われていたのか!!」
助手はさらっと流した。ああ、こいつはこういう性格だったと、私は諦める。
「それにしても博士! 女性になってコスプレをするなら化粧をきちんとしてください!!
毛剃りは背中は仕方がないですが、きちんとやるべきです。
しかも衣装が雑過ぎます! コスプレをバカにしているのですか!!」
宅子は怒っていた。普段はだらしないがおたく趣味になると真剣になる性格であった。
彼女は上司である私をむりやり椅子に座らせると化粧を施す。
慣れた手つきでファンデーションを塗り、口紅を付け、マスカラをつけた。
さらに丸出しの背中の毛をじょりじょりと剃っていく。こそばゆく、化粧用の毛剃りでひりひりする。
数十分後、私は自分の顔を鏡で見て驚いた。まったくの別人だからだ。
美形と思っていないが不細工ではない、平凡な顔だと思っていたからなおさらである。
さらに宅子も化粧をしていた。いつものだらしない彼女とかけ離れた美女が現れた。
眼鏡をはずし、コンタクトレンズをつけた。三つ編みをほどき、髪を梳かす。
グラビアアイドルになっておかしくない美女が現れたのだ。なんで普段化粧をしないのか疑問である。
「驚きだな。化粧ひとつでこんなにも変わるのか?」
「当然ですよ。女の化粧は美少女戦士の如く変身するのです。顔を丸出ししても別人と認識されるようにね」
「それは作り物の世界だけの話だろ」
私は突っ込んだが、宅子は上機嫌であった。彼女は持参したバニースーツに着替えている。
それは均整の取れた体型で、すらりと手足が長く、肌も白くてきれいだった。
というかなんで自前の衣装を用意してあるんだ? おかしいだろ!?
彼女曰く、コスプレのためには体調維持は欠かさないそうだ。
食事にも気を遣っており、仕事以外で夜更かしはしない。一見だらしなく見えて、まじめなのだ。
いつもの自堕落な助手とは思えない変わりようであった。
「ああ、なんてすてきでしょう。同僚には同じ趣味の女の子がいないから不満だったんです。
これで博士もイベントに参加できますね!!」
「いや、私はバニーになりたかっただけだ。コスプレが趣味ってわけじゃない」
「大丈夫ですよ。バニーコスが多い漫画やゲームがありますから十分コスプレですよ」
宅子はルンルン気分で、デジカメで私を撮影していた。ポーズを注文し、笑顔を指定する。
まるでプロ顔負けだ。実際に撮影した私は別世界の人間に写っていたから。
研究所ではありえない明るい彼女に私は驚いていた。
というか蛙をつけ狙う蛇のようなねっとりとした視線に背筋に寒気が走ったが。
「いやー博士のプロポーションは最高ですね! 胸の谷間は最高だし、お尻の尻尾も可愛いです!
来月にコスプレイベントがあるから一緒に行きましょうね。私も一緒に着替えますから。
嫌だと言ったらこの写真をばらまいてやりますから」
宅子はにやりと笑う。化粧映えした表情は憎らしくも美しい。
助手にしれっと脅迫されて博士は何も言えなくなった。
バニーコスを着たかっただけなのにどうしてこうなったのかわからない。
「実は博士の動向を知って通勤カバンに盗聴器を仕掛けていました。
今夜薬を完成させて、夢を叶えるのを知ったからです。
女に性転換してバニースーツを着ることをね」
宅子はあっさりとばらした。ちなみに日本では盗聴を取りしまる法律はない。
盗聴器を仕掛けるために自宅を無断で侵入すれば罪になるが。
それを聞いて私は頭を抱えてしまった。
「ああ、私のバニー好きがばれるなんて……」
「いえ、みんな知ってますよ。博士がバニー好きなんて周知の事実です。
だって仮装番組のアシスタントを見る目は敵意に満ちていたし、暇つぶしに見ているアニメも全部バニーが出てますから」
「マジで!? 隠していたつもりだったんだぞ!」
「逆にあれで隠し通せていたと思っていたことが驚きですが」
自分の性癖がばれていたことに、すごいショックだった。
ちなみに性転換の薬は丸一日効力がある。もちろん製造方法は残してあった。副作用の危険性はない。自分自身が人体実験をしたからだ。
あと宅子も飲んだら男になった。元の形がよいので美形になっていた。
その後、宅子は押し込み女房になり、そのまま結婚してしまった。
そして休みの日は互いの性別を交換して愛し合うのである。もちろん私はバニーになっているが、着たままはつらい。すぐ汗を掻くし、衣装がこすれるのだ。宅子も痛いと訴えている。
AV男優がどれほど苦労しているかよくわかった。
とびらの様の企画に参加しました。
正直自分の性癖を暴露した作品で恥ずかしいです。
博士と助手の関係は故星新一先生を意識しました。
星先生のショートショートはわかりやすく、落ちもきれいです。
わかりやすさと手抜きは違うということを思い知らされましたね。