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暑い放課後1

  暑い放課後


 夏休み前のこの時期、暑い放課後は部活も運動部以外はみんなさっさと家路をいそぐ。


 校庭では、野球部とサッカー部が練習をしているけど汗にまみれてきつそう。

 こ~んな炎天下で練習なんてぶったおれちゃうよ。


 だけど、あたしは帰らないで空気がよどんでむっとする南校舎の四階までえっちらおっちら階段を昇っていく。


 ああ、いつもながら四階までの階段はしんどいよ、

 ぶつぶつ文句を言いながらひぃひぃ汗をかきながら、あたしはようやく四階の踊り場に出た。


 校庭に面して教室が並ぶ奥に美術室と美術準備室がある。

 いつもながら、この階にはだ~れもいなそうだなと思うとちょっとうれしくなって、

 大きく手を伸ばして息を吐き出す。


 美術準備室は、古いけどクーラーが付いているんだな。

 アンド、美術の先生の野村は最近だるだるだから、ここまで上がってこないし

 あたしは一人で涼しい中物思いにふける事ができるってわけだ。

 ちょっと埃っぽいのとちょっとかび臭いのをのぞけば天国。


 るんるんしながら、とりあえず芸術部の部室になっている美術室をのぞくだけのぞこうと思った。

 だいたい、芸術部ってなんだい?いい加減なネーミングだよね。


 去年の三年生が卒業するまではそんなのなかった。

 美術部、文芸部、イラスト部、あたしが一年生で入った時は

 けっこうたくさんの部員がいたんだけど、三年生が多かったんだね。

 卒業とともにつぶれてもいい位の大きさの部になっちゃったの。


 で、期待は新一年生だったのよ。


 がしかし、最近の小学生上がりはそんなの興味ないみたいでさ、

 中学生になったら勉強に精出さないといけないからとか言っちゃって、

 塾だなんだで帰宅部多し。


 で、ついに美術部と文芸部に所属しているあたし、

 沢岡美羽さわおかみわ二年生が部長を務める芸術部一つにまとまっちゃったってのが今の現状。


 イラスト部だったやつは、これがまた幽霊部員が多くって出てきたためしがないし、

 あるんだかないんだかどっちでもいいや的な部活という事で、

 もはや芸術部は自然消滅ぎりぎりって感じ。


 きょうは、水曜日で部活、あるんだけどな~!


 月、水、金、と一応部活あるんだけど、もしかして誰も知らない?


 そんな事心の中でつぶやきながら、あたしは美術部の扉を開けた。

 向こう側に強い日差しの窓がめいっぱい広がっている。


 いやぁ~、夏本番って感じですなぁ~、暑そう。

 扉を閉めて準備室に行こうとしたあたしの目に、人影が映った。


 こっちを振り向いたけど、もうすでにあたしの手は扉を閉めにかかっていて、

 ガラガラ、ビシャン

 目の前に扉は閉められてしまった。

 て、あたしが閉めたんだけど。


 あれ?今の誰だったかな?

 イラスト部だった中に見ない顔だったけどな。

 でも、どこかで見たことがあるような気がする。


 背の低い女の子、ええとどこで見たんだっけ?

 黒目がちの大きな瞳、ふっくらした優しそうな表情、

 ショートカットがさらさら開けた窓からの風に流れて、さわやかに見えた。


 おそるおそるあたしは一度閉めた扉をゆっくり開けてみた。


 そぅ~っと隙間から中をながめてみる。

 いた。小柄な女の子が窓のはしっこに立って校庭を見ている。


 ふぅ~ん、どうも野球部の練習を見ている感じだね。

 まあ、校庭が一番見渡せるのはここかもしれないけど。


 時折、生ぬるい風が吹いて彼女の髪をゆらす。

 不思議なことにさわやか感いっぱいに感じちゃうのはなんでだろう?


 すごい。

 この時あたしの中に描きたい欲望がむらむらと湧き出してきた。


 うぅ~、描きたい描きたい描きたい。

 あたしは心のシャッターを連写した。


 いちいち校庭を見つめながら「きゃっ!」とか「わっ!」とか言いながら

 胸のとこに組んだ手をぎゅっと握りしめたりしている姿は、ビデオカメラが欲しいと思ったほど。


 そのひとコマひとコマがおもしろい。


 黒目が真剣に一点を見つめてきらきらと輝いたり微笑んだりしているその姿は、

 あたしの中に火をつけた。


 その気持ちのままに声をかけちゃった。興奮したまま。


「ちょっと、ここで何してるの?」


土曜日と水曜日にアップします。

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