4話「第1話」
最後の保留が突如、けたたましい音を放って赤い大きなアイコンに変化した。
最終演出に画面が移行し、金色の文字で『こんにちは。私は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース兼悪役令嬢ですわ』というタイトルが大写しになり、追って作中の主人公によるオーッホッホッ〜という高笑いが、ミドルライトのシマに高らかに響く。
シマに居合わせた者達が、恨めしげに目線をこちらに刺してきた。
10ラウンド、ST確変濃厚の演出は、この上なく派手にケバケバしくも官能的に画面を彩る。
総合的な期待値としては7500発を軽口上回り、幾度も虹色の閃光が目を焼く、プレミアムリーチであった。
お嬢様だの1971番だのと言っても、そんな物は全てパチンコの、元になったアニメの中での話だ。
とは言え、実際にハンドルを握る生方の実情と合わせて見るに、それらは奇妙な符合がいくつもあった。
1つ、作中のキャラと同名
1つ、経済的に逼迫している
1つ、自らを主と仰ぐ女性の存在
1つ、勝てたのなら、秋田こまちを交換しようと思っている事
最後の1つは、符合ではないな、と思いつつも、それでも景品に秋田こまちがあった事は確認しているし、作中にもその銘柄が言葉として登っている。
何度目かのフィーバー画面が現れ、背後のドル箱が通路を阻害してきた頃、同じシマには他に客は居なかった。
平日の真っ昼間、スロットのシマにこそ人は在れ、ここまでの爆裂と爆音を見せつけられては、そりゃぁ居たくもなかろう。
とは言え、これだけあれば、秋田こまちはおろか、仙台牛だって買えるという物だ。
これならば、自称、生方家に仕えるメイドたる、千石にも少しは胸が張れる。
千石は大概頭のおかしい女である。
何かの末裔でも、なんでもない、ただ食い扶持さえ賄えない、自称パチプロYoutuberである生方に仕えようというのだから、それはやむを得ない評価だ。
とは言え、千石は見目麗しい、十代の少女である。
前髪をパツンと切り揃え、いわゆるアニメ声で、御主人様と呼びかけられれば、自己評価のいちじるしく低い生方であっても、悪しざまにもできまい。
「御主人様、今日は珍しく大勝利じゃないですか」
いつの間にか千石が生方の後ろに居た。
まぁ大音量を撒き散らすパチンコ台の前に居れば、他者が背後に近付いたにせよ、それに気付く事は難しかろう。
「おう、今日はいろいろ買えるからな。ご自慢の料理の腕が発揮できるだろ」
生方は感動の無い声で、振り向く事なく言い放った。
しかし、千石が来てくれたのなら都合が良い。
実のところ、先だってから、尿意を我慢強いしていたのだ。
「ハンドル持ってくれ」
続けて言う。
正直なところ、もう飽きていたし、トイレに行くフリで、このままにげ手しまおう。
「センちゃん、続き頼むよ」