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第十一話『セイムタイム』

高熱量加速ヒートブースト!」


キィィィィィン…


突如として飛びかかってくる能力者、灼熱の召使ロイとの距離25m。

コンクリートの大地を黒い革靴でカツンと蹴ったロイの体が浮き上がると、足元でボンと爆発するような音が聞こえ、ダイスケ達は真正面から流れる風を感じた。


「なっ!」


さして近くもない25m程の距離からの向かい風に、なぜかダイスケは緊張を覚える。

ロイの接近速度が余りにも速いのだ。浮上ジャンプから能力を利用した加速まで、おおよそダイスケの感覚で予測されたスピードよりも、段違いに速い!その速度は、感覚と記憶の範疇を超えていた!


「ちっ…!しかたねえ!」

「ってゆーか、ちょ」

「えっ」


思わず出る舌打ちと同時に、ダイスケは走り出していた。二歩ずつ離れた両側に立つカレン、アカネの女子二人を軽々と腕で抱えた。


空間移動テレポートッ!」

焦熱握撃ヒートハングゥゥッ!」


同時に声を放つ、鉄のコンテナの上のダイスケと、空中のロイ。


ダイスケが思考するまでのおよそ数秒間に差し狭まる間隔8m。

ロイの右手が赤く輝きを増すのを確認して4m。

初動から女子を抱えるまでに10m。


ダイスケが二人を抱えながらテレポートする瞬間に、概ね近くもない25mという距離は殆ど詰められ、ロイの赤い閃光が三人の目と鼻の先に迫っていた。


ビュンッ!


間一髪!

ロイの手がダイスケの体を貫こうとするその瞬間!

ダイスケ達の体は残像を残してその場から消えた!


バゴォォォォォン!


消えたダイスケ達の残像の後を追うように、ロイの右手の閃光がコンテナに接触すると、巨大な熱のうねりが生み出した衝撃は、小さな爆発音と黒い煙を伴って耐久力の限界を迎えた鉄の外壁を貫いた!


「む。避けられたか…」


ロイは穏やかな口調で、コンテナに突き刺さった右手を抜く。

鉄製の外壁は引き裂かれ、耐え切れず吹っ飛んだコンテナの一部は焼きただれ、密閉されたコンテナの中に異国の酸素が吸引され、長い間放置されていた錆の匂いが燻る熱に誘き出されて外へと放出される。鉄の材質は固体から液体に変質しながら落下し、メッキされた染色部分は熱による溶解と、右手から吹き上がる強い上昇気流に吹き飛び、剥き出しとなった鉄色は、赤から段々と明るい橙色に変色し、マグマのような溶鉄へと姿を変えた。


ビュン!


「ったく危ねえなあ、お前ら!俺が気付かなかったらお前ら蒸発してたぞ!」

「す、すいません・・」

「って、てゆーかマジ笑えるんですけど…日焼けサロンも形無しつーか…」


別のコンテナの壁へと瞬間移動していたダイスケ達。

発生した巨大な熱量によって、コンテナから解き放たれた空気が、焦げ臭い匂いを海風に乗せて、フッと三人の鼻に届く。


「ブラボー。二回目も避けられましたか。ふふ、しかし、そんなに驚かせましたかね?狩人ハンターさん」


目測の距離にして50m程度。

まだ黒煙の昇るコンテナの合間から聞こえてくる、ロイの思念波。戦闘中だと言うのにロイは、こちらの思念波の波長に合わせてダイスケの思考に会話をしかけてくる。


「随分余裕じゃねえか…てめえ!」


怒りを露にして思念波を返すダイスケ。

その先に薄らと見える、向かい側の白手袋をつけた黒服姿。ロイは不適な笑みを浮かべながら革靴で一歩一歩、大地に落ちる溶鉄が大気に触れて冷えて固まり出来た道を、落ち着いた素振りで歩いてくる。


「余裕?いえ、余裕などではありません。毎回、この闘技場コロッセオに招待した能力者へ私が行う、挨拶のようなものです。それにしてもブラボーです。あの位置から私の攻撃を避けるなんて」


「とんでもねえ野郎だ。空中浮遊レビテーションで作った浮力の足場に、全ての温度が一定の熱量の壁を発生させて、圧縮した大気を一方向に爆発させて、自分の体を弾丸のように加速するたぁな…正直、驚きだぜ…」


会話が聞こえない後ろの女子二人をチラチラ見ながら、ダイスケはロイの思念波を受け取り続けた。ダイスケとロイの二人の思念波での会話は続く。


「お褒め頂き、まことにありがとうございます。そして、あの一瞬で私の加速トリックを暴く観察力。人二人抱えて瞬時にテレポートを行う判断力。実にブラボーです。流石は、この国家の選んだ黒い眼の狩人というところですか」


「ったく、褒めるぐらいなら手加減してほしいな。あんたの能力、半端じゃねえからな」


ジリジリと差し迫る足音、浮き上がるロイのシルエット。


「私は何時でも全力です。手を抜く事など出来ません。少々の危険があっても、あなた達を消さなければ私が支配者マスターロベルトに消されるのです。ここは奥の手など隠さず、私の全力で葬っておこうかと思いまして…」


彼の右手が赤く光ると、発生する強大な熱によって大気が逃げ出し、吹き上がり始めた海風が黒い煙を散らし、白手袋を胸の位置に掲げるロイの姿を鮮明に映す。


「次は避けられませんよ…!高熱量加速ヒートブースト!」


キィィィィィン…


ジェット機がエンジンを始動させたような、耳に響く音が辺りに鳴ると、ロイは三人めがけて再び弾丸のような速さで、その距離をつめる!


「ちっ!仲間内で相談くらいさせろよな!二人ともつかまってろ!」

「「えっ」」


再び二人の体を抱えるダイスケ。

そして、その喉元近くまで瞬時に大量の熱を帯びて、迫り来る黒い弾丸。


空間移動テレポートッ!」

焦熱握撃ヒートハングゥゥッ!」


ビュンッ!

バゴォォォォォン!


同時に発生する叫びと衝撃音!

瞬時に避けるダイスケ達!即座に追う赤毛のロイ!

響く凶音!唸る鉄腕!吹きぬけ、突き抜ける風!

そして互いに考える間を置かず繰り返される、いわば力比べのような持久戦!

連続的な空間移動!一方的な熱量破壊!


「6回目…!」

「また来るよ!今度は右から!」

「わかってる!ちくしょう、あいつの能力は無尽蔵かよ!」


ビュンッ!

バゴォォォォォン!


カレンの精神感応能力を借りながら、ロイの襲ってくる方角と今現在自分たちの居る位置を確認し、即座にテレポートを敢行するダイスケ!着実とは言わないが、ダイスケのテレポートは的確だった!長距離の空間移動には緻密で精密な現場のイメージが必要だが、目の前に見える範囲の短距離ならば話は別。コンテナや廃材の壁に囲まれた闘技場コロッセオの視界100m圏内は全て、ダイスケたちの逃げ場だった。


「次!左!」

「ダイスケさん!来ますよ!」

「逃げ隠れて作戦会議と思ったが、こりゃ時間的に無理かーっ!?」


ビュンッ!

バゴォォォォォン!


消える狩人達の残像を追う、赤い熱の衝撃を含む黒い弾丸!


「ちっ…まったくもってキリがねえ!」


全て紙一重!

おそらく、能力者ロイが編み出した巧妙に仕掛けられた攻撃から移動までの完璧なパターン!その刹那の隙をカレンの精神感応能力と合わせて空間移動する!コンマ何秒という絶妙の瞬間を見切り、小規模な転移を繰り返して、攻撃を避けていく空間移動者テレポーターダイスケ!


「かわされましたか。今度は何処ですかね!」


だが、弾丸は依然として止まらない!

目先、鼻先、口先を指一つの距離で捉えながら、目の前から消えてゆく残像に翻弄されても、余裕と真顔を崩さず、その勢いのまま接触するコンテナや鉄骨を次々に溶断して、全てを見るも無残な溶鉄へと変える灼熱の召使サーペントロイ。


ビュンッ!

バゴォォォォォン!


おそらく、この連続的に行われる逃亡と追撃は、時間にしてみれば三分にも満たない短いものだろう。だが、その三分の間に、間髪入れずテレポートをし続けたダイスケの精神力は確実に疲弊していた。そこへ、疲労の色を見たロイから思念波が入る。


「どうやら疲れの色が見えてきたようですが。どうです?そろそろ諦められては」

「なぁぁにぃぃぃくそぉぉおおお…!」


ロイの思念波の挑発に、ダイスケが猛る!

精神力というエネルギーを奮い立たせて、底を付き始めた気力に鞭を入れる!

そしてまた、三人の前にロイという能力者の弾丸が迫る!


空間移動テレポートォォォッ!」



だが、その時だった。

唸るダイスケに異変が起こったのは。

ダイスケは、女子二人を抱えながら、その場にへたり込んだ。

そして、疲労に歪む顔で、カレンとアカネにこう言った。


「す、すまねえ皆。こりゃダメだ。燃料切れだわ」


その言葉に、流石に驚きが隠せなかったカレンは思わず慌てた。


「ダイスケさん!」

「えーっダイスケさん!?ってゆーか、もうアイツ来てるんですけどー!」

「くそっ!情けねえ!お前ら…せめて俺から離れて逃げろ!」


ダイスケの顔中に浮かぶ汗、青ざめた肌色。

そして、差し迫る目先18m先の距離から届くロイの思念波は、小さな絶望の歪みに打ち崩れるカレン達にも聞こえるように言い放たれた!


「おや、流石にもう飛ぶこともできませんか。無理も有りませんね。なるほど。では、名残惜しいですが、お付き合いありがとうございました!これで今晩のショータイムは終わりです!皆さん、さようなら!」


キィィィィィン…


飛び込むロイの思念波と供に、黒い弾丸の中に赤い右手が光る。


「ダイスケさん!ごめん!ってゆーか私逃げるねー!」


カレンは、倒れたダイスケを救う事もせず、その場を横へと駆け出した。


「おう!化けてでねえから心配すんな!」


焦燥感に歪む顔を、精一杯の笑顔に変えてダイスケの陽気な声がカレンに届く。


キィィィィィン…


「…!」


しかし、ただ一人。

アカネは、瞬間的な死という逆境がスイッチとなり悪い癖が出た。


数秒後に訪れる確実な死。

普通の人なら発狂してしまうであろうこの状況を見て、彼女は非常にも冷静だった。いわゆる優等生肌。目の前に度を越した逆境的なピンチが起こると、状況をなんとか打開するために熱くならず、冷静になってしまうタイプの人間だった。プライドという底があるからこそ、追い込まれれば追い込まれるほど、逃げ出さず、意固地になり、冷静になってしまうのだ。


だが、その癖は今現在最も不必要な物だった。

そう、彼女は、ロイの赤く輝く右手に関して、冷静に観察し思考してしまったのだ。


いくつもの鉄を切り裂いてきた、白手袋の周囲に沸く高熱の溶断機。おそらく思念波のスイッチさえ入れば、鉄を溶断する程の常時1500度以上の高熱を発する、ロイの焦熱握撃ヒートハング。人間という、大量の水保有物に触れれば、一瞬にして人体の皮膚を焼きただれさせ、血液は煮えたぎり、触れられた一部は痛覚を意識する前に蒸発し、溶断された部分だけの痛みだけが残る。


冷静に思考することによって恐怖の感覚は、漠然とした情報を羅列している時に比べて、より深く恐怖の連鎖を引き起こし、その感覚を倍増させる。おおよそ人間が最後に残している、理性の鍵が恐怖によって解放される。心の悲鳴は思念波となって、外へと放出される。



「うわあああああああぁぁぁぁっ!!!」


理性を失ったアカネは、手に握った思念変換銃サイコランチャーを前方に掲げると、迫るロイ目掛けてトリガーを思いっきり引いた!



ドォヒュゥゥゥゥゥゥゥンンッ!!!



幅16cmの小さな拳銃から撃ち放たれた恐るべき閃光!

衝撃エネルギーを含んだ光線のうねりが、中心点を境にして、まるで渦をまく竜巻のように風を食い、大気を食い、周辺に散る廃材の欠片を飲み込みながら眼前を飛ぶ!銃口から吐き出された、とてつもない長大な閃光は、闇夜を照らし、その場に居る全ての者の眼に光を飛び込ませた!


「な!なんとおおおおおおおおおおおおっ!!」


その光の渦を前にロイは勢いを止めて、両手にありったけのエネルギーを溜めた!渦を前にして、か細く伸びる赤い閃光。だが噴出した恐るべき衝撃エネルギーの前には、たとえロイの力が並外れた能力者だとしても、太刀打ちできるようなものでは無かった。


「うわああああああああぁぁぁっ!!」


冷静さゆえに増大された死の恐怖へのリアルなイメージが、思念波という形で銃に反応を起こさせ、アカネの精神力を極限まで吸い出したのだ。さもすれば感情という心の器の崩壊すら起こしかねない程の精神力の放出光は、まさに極大であった!



「こ、こ、こ、こんなもの…ぬわあああああああああ!!」


バアアアアアァァァァァァァァンンッ!!!!!!!!!



叫ぶロイだったが、流石にダイスケとの力比べに疲弊していた精神力では、その強大な衝撃エネルギーを止めることは勿論、すでに加速した体を、もう一度逆側に加速させて避けることなども出来なかった。ただ直線に放たれるエネルギーのままに、自分の体を痛めつけ、自分の放った熱エネルギーとのぶつかり合いで若干それた衝撃エネルギーの軌道に合わさって、ただ無碍にコンテナの上に叩きつけられた!


バンッ!バンッ!バンッ!


巻き上がる白煙。そして鈍く響く衝撃音。

腕、足、胸、衝撃エネルギーが当たって破かれた黒服を四散させながら、垂直に二つ並んだコンテナの天井外壁をひしゃげ突き破り、意識せず怯まぬ、まるで赤子のような態勢で落下するロイ。硬い鉄材を柔らかい人間の体が突き破るほどの衝撃。それを考えれば、おそらく衝撃エネルギー単体が与えた一次的ダメージと、落下の二次的なダメージは、通常の人間なら体がバラバラに崩壊するほどの即死クラスの損傷率だった。



「って、てゆーか。やっつけちゃいました系・・・?」

「お、おい。あ、アカネちゃん…?」


一瞬にして強大な光を撃ち放ったアカネと、コンテナを突き破って白い煙のあがるロイが居る場所を、横目で何度もチラチラと往復するカレンとダイスケ。


カラン!カツン…!カラカラ…


「…ぐっ!…うっ…!」


その時、プツッと糸が切れるようにアカネの全身の力が抜ける。力強く握っていたはずの思念変換銃サイコランチャーが音を立ててコンクリートの大地に落下し、勢いよく、そのまま道すべりに転がっていく。そう、彼女の全ての能力の大本、その精神力が切れたのだ。


「大丈夫かアカネちゃん!お、おい!まじかよ…顔から血の気がひいてやがる!ヤバイぞ!お、お前どんだけ思念をエネルギーに変換したんだ!」

「は、ははは…大丈夫です…だ、大丈夫…」


僅かに震えながら、足のほうからバランスを崩し倒れるアカネ。異変に気付いたダイスケが、滑り落ちそうになるアカネの手を引っ張り、その場に自分の黒いジャージの上を脱いで、丸めて枕代わりにして寝かせると、慌てるダイスケと反対にアカネは小さな笑顔を見せた。


「ばかやろう!新人が何頑張ってんだ!あんなに極大まで思念波を変換して、わかっているのか!全ての精神力の起伏である感情が消えちまうんだぞ!悪くすりゃ、精神が途切れて思念の固まりの脳が死んで、お前は体だけ残して死ぬんだぞ!」

「…はっ…はぁっ…はぁっ!」


過呼吸に近い呼吸の乱れ方をするアカネを抱きかかえながら、ダイスケは怒った。決してアカネにではない。土壇場で精神力が切れた、己自信の不甲斐なさに怒ったのだ。


「なんでだ!あの距離ならギリギリ逃げれたはずだ!カレンは置いて逃げるを選択していた!なのに、なんでだ!俺のヘマは、俺が責任をとってしかるべきだ!そうじゃねえのか!なんでお前が…お前のような、まだ年頃の女の子が!」

「…かはっ…はっ…はっ…」


ダイスケは、左手をググッと力一杯に握って、意識を失い、眼を閉じそうになるアカネを懸命に呼んだ。そして、その横で様子を見ていたカレンに近寄るようにアイコンタクトを送った。


「すまねえカレン!緊急感応回復ヒーリング頼む!すぐにだ!頼む!」

「は、はい」

「くはっ…はぁ…!はぁっ…!はっ…」


両の眼を閉じるアカネの口から、小さくなっていく微かな呼吸音。

ダイスケの声からは、いつもの陽気さが完全に抜けてしまっていた。


カレンは、いつもと違うダイスケの大声に驚き、得意の口癖を放つ事もせず、サッと素直に両手を出し、アカネの胸元へ置く。


瞬間、カレンの掌から太陽のような明るく暖かい光が浮き出す。眼を閉じてから、青ざめ続けていたアカネの顔が人間らしい赤みを帯びていく。これは精神感応のエキスパート、カレンだけが会得している、自分の精神力を他人に受け渡す緊急感応回復ヒーリングの能力だ。


「くそっ!リョウマの奴、とんでもねえ武器を作りやがった!思念変換銃だと!くそっ!たしかに俺達は狩人だ!だが人間の命を吸い取るマシンなんて作っちゃいけねえ!俺のような大人はともかく!命を賭けて戦うなんてのは、子どもが絶対しちゃいけねえんだ!」

「…」

「なあカレン!お前の力が足りなかったら俺の残ってる力も貸す!だから頼む!こいつを助けてくれ!」

「…」


アカネの胸に両手を置きながら、カレンは横目でダイスケを見ると、不思議な気持ちが沸いた。あの陽気なダイスケが、ここまで必死になったところを見たことがなかったからだ。


…まだショウとアカネの入る前。

トオル、リョウマ、ダイスケ、自分の四人メンバーだった時。

毎夜、命を賭けて戦っていたはずの毎日を思い出しながら、カレンの記憶には、陽気なダイスケ以外の姿は無かった。過ごしてきた長い間の中で、付かず離れずの仲間意識が沸いていたと感じていたカレンは、無性に孤独という単語を思い出した。そして、まだ知らないダイスケを見て、カレンは思った。



もし今のアカネが自分だったら、ダイスケは同じ声で私を叱ってくれるだろうか。と。



「死ぬなっ!絶対死ぬな!こんなことで女の子が死ぬんじゃねえっ!」



(ってゆーか、感傷的になっちゃって馬鹿じゃない。嫉妬?マジ、そんなジェラシーとかダサい。嫉妬じゃないよ。神様に誓ってもいい!私が感じてるのは、ただの意外性。そうよ。この子に対する嫉妬じゃない…そうだよ。きっとそうだよ!)


カレンは心の中で湧き上がる何かに、言い訳をしていた。

仲間意識という物を持っていながら、自分はダイスケを置き去りして逃げようとした。

その罪の意識が、苦い過去を思い出させる。孤独という名の小さな歪みを打ち消そうと思えば思うほど、今までの自分が塗りつぶせない気がした。


「ちっ…まるで好転しねえ…トオルに連絡して、一旦ラボまで帰るぜカレン!」

「え、あ。あ、はい」


若干虚ろな表情でアカネの精神力を回復していたカレンは、ダイスケの言葉に現実に戻された。カレンに言い放ったダイスケは、うな垂れるアカネの肩に自分のジャージをかぶせるように着させ、ヒョイと腕に抱えると、トオル達のところまで走ろうと足を踏み出した。


だが、その時。



ドゴォォォンッ!!



「逃がしませんよ…誰一人…この支配者マスター闘技場コロッセオからは…!」



鉄のコンテナを突き破って赤毛の男が、雄たけびをあげた。


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