基準
ジンに啖呵を切って数日。リリアは独りで頭を悩ませていた。リリアの幸せとは穏やかな日常そのものだった。両親がいて友人に囲まれた日々…それをジンに分からせるには彼女自身がジンと共に過ごしていかなければならないだろう。
(あー、もう!!ヤケでやってやる!!)
***
「…急にどうした?大人しく俺の嫁になるのか?」
「違うわよ!!………ご飯って独りで食べても美味しくないでしょう?」
「ふぅん」
温かい食事を家族で食べる。リリアの幸せはそんな些細な事だ。先ずはそこから始めようと思った。ニヤニヤとするジンを見ると腹が立つが…それは我慢だ。気を取り直して目の前の食事を見回す。
(朝食からすごい…)
平凡な家庭に育ったリリアの家の朝食は、昨日の残り物とパン位しかなかったがそこは王宮だからだろう。肉やらスープやら沢山のものがテーブルの上に並んでいた。
どれも初めて食べるものばかりで嬉しくなる。良い香りに誘われてつい食べ過ぎてしまった。
ふと顔を上げると、ジンがリリアを見つめていた。
「何よ?」
「いやさ、小動物見てるみたいだと思ってな。そんなに急いで食べなくても無くならないからゆっくり食いな」
「う、煩いわね!!」
(それにしてもよく食べるなぁ…)
ジンの前にある食事は殆どが片付けられていた。筋肉質な体躯はそれだけ消費が激しいのだろう。一国の王というよりも騎士のような肉付きをしている。
「すごい筋肉ね…」
「どこ見てるんだよ」
「なっ…」
「まぁ、良いか。国を背負っているんだ。このくらいはな…それに合わせて身体が弱いんだ。俺は」
「…そう」
古い物語では施政者の家系は三代持つのがやっとだと伝わっているがそれは本当の事なのだろう。
「そんな顔をするな。皆が笑顔で生きられる世界をと先祖が願ってこうなったのだ。誇りに思っている」
「…でも、私の幸せを理解出来なければ結婚は無しになるのよ?そうしたら死が迫ってくる訳でしょう…それでも誇りに思うの?」
「あぁ。もし、それなら仕方ないと思う。そのままを受け入れるさ。…でも、賭けに負ける予定は無い。お前を手に入れる」
真剣な瞳にリリアはハッとした。施政者としての覚悟がジンには出来ているのだろう。侮る…まではいかないがどこかで見くびっていた。そんな自分を恥ずかしく思う。
そして、施政者としての在り方が彼を独りにしているのだと気付いた。国の民を想う気持ちはあっても自身の幸せの概念が彼には無いのかもしれない。
「そう。それなら…お互いを知る所から始めましょう?」
全てを分かってから。彼に幸せというものを教えてからで結論は良いのかもしれない。ジンの瞳を真っ直ぐ見つめリリアは微笑みを作った。