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出会い

 それは、古の神話。

  

 天地があれ、人々に混乱が訪れた時代の事。

時の施政者は絶大な力を持つ魔女を召喚した。


『なんぞえ』

 魔力の大きさを物語る深紅の瞳をしっかりと見つめ、施政者は答えた。

『世界の混乱をどうかその魔力で抑えて欲しい』


 魔女はカラカラと笑った後、真っ直ぐと見つめ施政者に問うた。


『妾に頼むとは面白い。よい、叶えてやるわ。』

『本当か!?』

『あぁ、二言は言わぬよ。だが、ただでは動かぬ。代償が必要じゃ』


 施政者には他に選ぶ道はなかった。

『なんだ、代償とは?』

『今の妾の力だけでは足りぬのだ。其方の家系の生命力を貰おう。そうだな、四代も後には病で倒れる程の生命力が欲しい。お前自身も病弱になるわな。それでも構わぬか?』

『私の家系は滅びるのか…そうか…それで世界が助かるなら。貴様に捧げよう』


 それを聞いた魔女は楽しげに目を細めた。

『其方の心意気、気に入った。そうか、ならば助けてやろう』

『ありがたい』

『それと…情けじゃ。三代後に妾の力を込めた紅玉の瞳を持つ娘を誕生させる。その娘を嫁にすると良い。家系を繋いでやろう。三代毎に紅玉の瞳の娘を寄越してやろうぞ。そうすれば滅びずには済むだろうさ。必ずや婚姻を結ぶ事だねぇ』


 世界を救った魔女と施政者の約束。

 今にも続く、ふたりの約束。



***



「おはよう、リリア」


「おばさんおはよう!!」


「リリアは元気だねぇ!!」


 田舎の朝は早くから人々が働いている。穏やかな気候と豊穣な土地は過ごしやすく、この土地に生まれたリリアはのびのびと成長していた。


 リリアは今年、成人を迎える。両親はとても楽しみにしているし、友人達もお祝いしてくれると言っていてリリア自身も楽しみにしている。

 本来なら成人を迎えれば一人立ちをして、婚姻を結び両親の仕事を継ぐのがこの地方の倣いだが、リリアはそれは出来ないだろうと諦めていた。


 それは、世にも稀な瞳の所為だ。

 紅玉にも似て真っ赤な瞳は神話になぞらえて魔女の生まれ変わりだと噂されていた。その様な瞳の者は少ないらしいので、仕方ないと思っていた。両親はリリアを愛してくれたし友人も沢山いる。それで充分だと自分を納得させていた。


 実際、魔女と呼ばれる自分を嫁に貰いたい者などいないだろう。リリアはほんの少しだけ人を癒す力を持ち合わせていたのでその力で独りで生きていこうと決めていた。


 のんびりとした田舎の村で、ゆっくりと人生を終えていく。見える未来はそんなもので、リリアにはそれが幸せだと思っていた。



***



 宿屋に不審な旅人が泊まっていると聞いたのは先程の事だ。元々、旅人など訪れる機会の少ない村なので噂は一気に広がった。

 戦地からの逃れてきた者だとか、王都の騎士だとか好き勝手村人は言っていた。しかし、どちらにせよ不審では無いとリリアへ首を傾げる。


「そういえば…噂になってる旅人って何が不審なの?」

疑問を友人にぶつけてみる。


「あー…、うん…それはね…」

「何?」

「リリア、気分を悪くしないでね…実はその旅人、紅玉の魔女を捜しているんだって。この村にいるだろうって皆に聞きまわってるみたいで…」

「それでかぁ…」


 神話の魔女を探すなどというものは普通には存在しない。何故なら、魔女の遣わす娘は約束の相手以外と結婚すると相手を不幸にしてしまうという話しだからだ。だからこそ旅人が不審に見えたのだろう。


「気にしないで。それより…捜しているなら理由が聞きたいわ。今その人はどこにいるの?」



 友人に聞いて来たのは、村で一番美しいと称される丘の上だった。丁度夕日に照らされて紅の色に染まるその丘にポツンと独り、後ろ姿が見える。


(あの人なの…?)


 リリアは意を決して声を掛けた。

「ねぇ、貴方の捜しているのは私ではなくて?」


 振り返ったのは歳の変わらない青年だった。驚いたように目を開き聞き取れない声で何か呟く。


「何?なんて言ったの?」

更に近付きながらリリアは聞いた。


「やっと…やっと見付けた。紅玉の魔女…」


「それ、否定しようと思ってきたのよ。私は目は赤いけれど魔女なんかじゃないわ」

 そうは言ったものの、青年の瞳は狂気の宿ったような色をしておりリリアの声が聞こえているとは到底思えない。


「約束通り、俺の嫁に来い」


 約束なんて知らないとリリアが声を出そうとした時には、青年に口を塞がれていた。大声で助けを求めようかと必死に足掻いたが急激な眠さに襲われる。

(毒…?ダメ…眠っちゃ……)



 リリアの意識はそこで途切れ、深い深い眠りに落ちていったー




***



「う…うぅ…」

 頭が割れるように痛む。無理をして目を開ければリリアは自分がどこかの部屋の中にいるのだと分かった。そのまま動かずにいると少しづつ痛みが引いてくる。


(どこなの…ここ…)


 覚醒しない頭で考えるが、どうもハッキリしない。


(丘で…私…そうだ!!変な男!!)

勢いをつけて起き上がると吐き気を催した。


「大丈夫か?急に起き上がるなよ」


 どうにか気持ち悪さを抑えて声の方を向くと、そこには自分を拐った張本人がいた。


「貴方誰なの!?私をどこに連れてきたの!?返してよ!!」

「起き抜けによく喋るな…俺はジン・ロンバルト。ここは王城の俺の部屋。因みにお前は返せない」


 淡々と話す男は、丘で会った旅人の青年であった。


「なんなのよ!!」

「あはは…よく叫ぶな、元気良くて安心した」



 朗らかに笑う男を睨み付け、周囲を確認する。

石造りの建物だろうか。全体に無骨な作りになっている。物が少なく寂しい部屋に最低限の家具。男の人となりが出ているようである。


「返せないって…どういう事なのよ。」


「お前を迎えに来た。古代から生きる紅玉の魔女の娘よ。大人しく俺の嫁になれ」

「はぁぁ!?」

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