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誰がために我が在る  作者: 結城朱琉
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異音

神官に依頼して二か月が過ぎた。神官も手間取っているのか、それともなんの変化も異常も見当たらないのか。多分後者であると思うが、それはそれで落ち着かない。


暑い暑い毎日が体力を削っていくように思うが、それはただの自分の甘えであることはよくわかっている。何かを言い訳にして逃げても最後は結局向き合うことになるのだから早々に終わらせた方が身のためだ、と教わっているで、夏休みを目前に控えた今でも静音は焦ることなく勉学に勤しんでいる。



送迎の車の中は快適であるが、降りれば暑い空気が肌に纏わりつく。暑いだけでも苛々するのに、さらに勉強で追い込まれている者は気は黒く淀んでいる。


こういう黒いものを見るのに慣れた自分が怖いと思う。常に警戒していなければいけないのに、と思うのに心というものはなかなか理解してくれない。



「静音っ」


後ろから声を掛けられて、傍に寄ってきたのは同じ講義を取っているよく知った人物だ。


「あー、やっぱり。静音が車から降りたすぐあとって涼しいんだよなー」


冷気が体に纏わりついたままだからだろう。でもすぐに暑くなってしまうというのに。ここ最近はこの調子で静音と親しいもの達はすぐに寄ってくる。


「あ、静音。今度祭りあるじゃん?」


夏だから祭り、というのは定番だが、この時期にやる祭りは『夏始(なつはじめ)』といって夏の始まりを告げる祭りだ。


その他に、真夏にやる『夏半(なつなかば)』と、夏の終わりにやる『夏送(なつおくり)』がある。


「あるね」


「一緒に行こうぜ」


「行く行くっ」


誘われたのが嬉しくて即答してしまった。


本当は家の方で祭で何か用事があるか確認しなければいけなかったのだが、即答してしまった以上そこは学生という立場を利用して、どうにか押し通すことに決めた。



「オッケー。じゃあ、他の奴等も誘うから!!あとでメールする!!」


そういって、十分涼しさを堪能した彼は颯爽と去って行ってしまった。自分も講義室へと向かう。



勉学に勤しんでいると、時間が過ぎるのが早いと思う。夕刻、研究室で顔を上げて外が暗がりだと気付いた。今日はもう終わりにしようと立ち上がり、片づけ、研究室を出ると、竹井教授がいた。


「もう、終わりかい?」


「はい。もう遅いので」


「最近、どうだね?」


またこの質問か、と内心うんざりしながらも顔には出さずに、特になにも、と答える。


「夏始、行くんだってね?」


「はい。せっかく誘ってもらったので」


「十分、楽しんでくるといいよ」


「教授は行かないのですか?」


「都合が合ったら行くよ」


「そうですか。では失礼します」



スッと教授の横を通り過ぎた瞬間、ゾワッと寒気がして、暫く歩いて後ろを振り返ると、こちらを向いて手を振る竹井教授の背後に、暗がりの廊下と同化しきれていない黒い黒い淀んだものがいた。


ザッと肌が粟立ち、逃げるように走ってその場をいち早く離れた。


おかしい。おかしすぎる。


だって、竹井教授から音が一つも聞こえなかった。何かに吸い込まれるように。そう、竹井教授の後ろにいた黒い何かに音が吸い込まれて、何も聞こえてこなかった。


なんであの状態であんなに元気なのだろう。


こんなに暑いはずなのに、肌が粟立つくらいに寒くて、渦巻くような異様な空気なのに。


神官はどうしてなにもないと判断しているのだろうか。いや、それ以前に気付いているのか。ちゃんと調査をしたのか、それすら怪しい。


何を信用すればいい。


何をどうすればいい。


どこに解決の糸口が見つかる?


息を切らして廊下をひたすら走って昇降口へと向かっていると、角から出てきた人とぶつかりそうになった。


「ぅわっ!!ごめんなさいっ」


「ああ、いいって、いいって・・・て、静音じゃん」


よく見ると、親友の健だった。


「健・・・・」


「こんな遅くまで研究?大変だな」


「あ、いや、健こそなんで・・・」


「いや、オレは竹井教授に用事があって・・・」


「竹井教授ならさっき会ったよ。多分急げばまだいると思う」


「ん、ありがとう」


「・・・・それと健」


「ん?」


「気を付けて・・・」


「何に?」


「竹井教授に」


「?なんで?」


「・・・・あ、いや、なんでもない」


健から逃げるように走り出した。


「あっ、おいっ!?静音!?」


変だと思われただろう。でもなんだか胸騒ぎが消えなくて、泣きそうになってくる。




窓から差し込んでいた月明りでできた健の影に、竹井教授のような黒い影が見えたなんて。





さてさて、そろそろ本題にはいりますか・・・(=゜ω゜)

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