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誰がために我が在る  作者: 結城朱琉
4/5

波紋

(やしき)につけば、さっさと自室へと向かった。出迎えはない。ただいまと返事のない廊下に投げ捨てるだけだ。


自室の障子を開けば、紫が庭の手入れをしているのが見えた。


「紫!!」


「ああ、お帰りなさいませ、静音様。いかがなされましたか?顔色がよろしくないようで・・・」


紫が言い終わる前に抱き付いた。


「おやおや、本当に・・・どうなさいました?」


ぎゅっと抱きついた紫は歳のせいか、痩せている。顔の皺だってよく見れば増えたし、ちょっと背が縮んだかもしれない。それでも静音より身長は高いが。


「なんか・・・黒い」


「黒い?」


「健の背中に黒いの見えた」


思い出しては鳥肌になる静音を紫はぎゅっと抱き返した。いつもの柔らかな香りが静音を包む。


「心配ですか?」


「心配に決まってる。・・・なんだか今日の紫は意地悪だ」


「いつまで経っても成長なされない静音様をみて、(わたくし)はいつになったら川を渡れるのやら、と思いまして」


「いいよ。ずっとここにいて」


「無理でございますね」


いつでも手厳しい紫に静音はくすくすと笑う。


「分かった。・・・健が不安だ。でも、あの黒い物体が何か分からない。つまりはそういう専門家に任せればいいというだけの話だろう?」


「そうですね」


「じゃあ、さっそく。紫、神官にこの件について依頼しておいてくれ」


「御意」


身を翻し、自室に戻ろうとして、ふと空を見る。雲の動きが早い。


「紫。もうすぐ雨が降ってくるから、庭はまた今度だ」


「分かりました。後片付けをしてまいります」


さっさと庭の物置へと向かった紫を見ずに、自室へと入る。ひんやりとした空気が足に絡みついたので、雨が降るのはどうやら正解のようだ。


今日は静かに寝れるだろう。雨音が子守唄になってくれる。


数時間後雨が降ってきた。勉強をしていた僕の元へ紫がお茶を持ってきてくれた。


「ありがとう」


「はい。静音様。健様の件はご報告いたしました。早急に調べるそうです」


「そっか。ありがたい・・・」


ごろごろと雷の音が聞こえた。


「今日は雷雨か・・・」


「ここ一週間は雨のようですよ」


「そうなんだ・・・。晴れないと、音が響かないな」


「そうでございますね」


音が揺れ伝わるにしても、耳に届くまで音は小さくなっている。


音は良く響くのが一番いい。綺麗に元気で澄んだ音が好きだ。


そう言えば、竹井教授からの音は聞こえてこなかった。


人には独特な音がある。それは雰囲気とも同調していて、元気であれば、大きくよく響く。かえって、体調不良や不機嫌であればあるほど重たく、鈍い音がする。


「紫」


「はい」


「僕にできることってなんだろう」


「静音様らしく在ることですよ」


「僕らしく、ねえ・・・」


我儘を言っている時は、まあ、自分らしいと思うけれど。世の中そんなに甘くないしなあ、と考える自分に苦笑してしまう。


誰かの言いなりになっていればそれだけ楽でいられるけれど、どうにも、自分らしくではないような気がする。自分の意見を押し通すにもそれなりの権力が必要で。なら、我儘を言えるだけの権力を手に入れればいいだけの話か、と行く未来(さき)を考える。


けれど、今はそんなことを考えている場合ではなくて、ただ、目の前の人を助けるには、どうすればいいか。紫は僕らしく()れといった。だったら、僕らしく我儘で、甘ったれな自分をぶつければいいのだろうか。正直自信がないのだが。


「紫」


「はい」


「御琴が聴きたい」


「すぐに用意して参ります」


今はただ、雨音の中琴線が響かせる音を聴きながら、深く考えるとしようか。


近くも、遠くも、未来は可能性の宝箱なのだから。





暫く離れてたから話の流れがちょいとちゃうかな???(=゜ω゜)

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