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誰がために我が在る  作者: 結城朱琉
1/5

水声

音が風に揺れる。風が音に揺れる。果たしてどちらだろうか。どちらでもないのだろう。どちらもあるのだから。だから何一つ同じ音はない。



*******


今日から、那智学園に通う。ようやく外の世界が見れるのだ。今まで屋敷の中だけだったことに不満を持ち、訴えとして我儘を言ってきた。もうその必要もなくなるわけだ。


那智学園初等部。入学式。だんだんと集まってくる人の数に圧倒される。こんなにも人がいたのだと。椅子が満席になり、予定していた時刻になれば、入学式が始まった。まだ、誰とも話していない。入学式が終わったら、できるだけ声を掛けていこうと思った。けれど、人付き合いというものはどうしてなかなか難しいもので、自分からは声がかけられない。そう声を掛けていいのかわからない。


教室に集まった子供たちはもうすでに何人かグループが出来始めていて、内心焦る。


自分の机の椅子に座って、そわそわしていると、前に席に座っていた生徒が振り返った。


「なあなあっ」


ビクッと反応してしまったのは心の準備ができていなかったからだろうか。


「オレ、富崎(とざき) (たける)!!お前は?」


「あ・・・僕、椛田(はなだ) 静音(しずね)


静音が名前を言った瞬間教室がざわついた。そして注がれる好奇の目。


「そっか!!それじゃ、静音っよろしく」


周りがどんなに異質に感じても、目の前の健だけは純粋な目で僕を見てくれた。


「よ、よろしく」


健との挨拶が終わると、次から次へと途切れることなく人が押し寄せてきた。


かすかに混ざる黒い空気と共に。


登校初日を終え、学校の門を出ると、車が待っていた。


「静音様」


いつもの使いが車のドアを開ける。


ふと、周りを見て見ると、誰一人、そういう迎えはなかった。そして再び注がれる好奇の目がやけにはっきりと、見える。


「静音様」


再び呼ばれると、使いが困ったような顔をしている。この顔は静音が我儘を言った時にする顔だ。


隣の健を見ると、いいっていいって、と背中を押してくれた。


「じゃあ、また明日な!!」


「うん。たま明日」


手を振ってくれたので、振り返すと健は満面な笑みを作ってくれた。


車に乗って帰宅すると、すぐに家の使用人が迎えにくる。持っていた荷物を持たれ、部屋に連れていかれ、新しい服に着替えるよう渡される。


「今日は旦那様のお帰りが早いそうですよ」


「わかった」


父が早く帰ってくるのならば、出迎えに出なくてはならない。別に苦ではない。父が嫌いなわけでもないし、別段褒められることもないけれど、父の日々崩れない姿勢というものを見ていると尊敬に値するものであると子供ながらに分かっている。


学校で出された宿題をやっていると、失礼しますといういつもの声が聞こえ、スッと襖が開かれる。


「お茶をお持ちいたしました」


机の上にお茶が置かれる。


「・・・ねえ、(ゆかり)


紫は静音が子供の頃から使えている者だ。見た目あまり力持ちではなさそうだが、流麗な雰囲気を持つ男性だ。


「なにか?」


「なぜ、僕が名前を言った途端周りがざわついたのだろう?」


「・・・・それは、当家が帝に近い家だからでございましょう」


「なぜ、帝に近いと騒がれるの?」


「帝は皆の心の支え。皆は静音様が居られるだけで安心なされるのですよ」


「・・・・?安心するのならば逆に落ち着くのでは?」


「貴方様が居られたことに驚いたのでしょう」


「・・・・そっか」


ふんわりと頬笑みを浮かべた静音はお茶を一口飲んだ。


「今日ね、友達が出来たんだ」


「それは宜しゅうございますね」


「うんっ。もっとたくさん友達ができるといいなあ」


「まだまだ時間はございます。きっとお友達がたくさんできますよ」


「うん。・・・ねえ、紫。御琴が聞きたいなあ」


すると、紫は優しい笑みを浮かべて、今日は旦那様が早くにお帰りになりますゆえ、出迎えの準備がございます。ですので、今日は無理かと。と告げた。


「そっか。じゃあまた今度だ」


いつもなら、ここで駄々を捏ねる静音だったが、今日は違う。今日は一歩成長したのだ。


当然驚いた顔をした紫は静音が悪戯っぽく笑うと、成長しましたね、と頭を撫でてくれた。



一人、広い部屋で読書をしていると、父が帰ってきたと紫から報告があった。


スッと立ち上がって、衣服の乱れを確認し、部屋を出る。玄関に行くと使用人がすでに整列していた。静音は紫を従わせて左脇へと寄る。


カラカラカラと玄関の引き戸が引かれ、父の姿が見えた。


「お帰りなさいませ」


そう言って静音も使用人も頭を下げる。そして、頭を上げるのは静音だけだ。


ここ忙しく、顔を合わせていなかった父は相も変わらず威厳に満ち溢れている。


「・・・・ただいま。出迎えご苦労だな、静音」


「はい、お父様」


スッと静音の横を通りすぎれば、父の家来がついていく。父の姿が見えなくなれば、使用人は皆顔を上げ、自分の持ち場に戻って行った。


「さあ、静音様。ご夕食の前にお風呂を済ませて参りましょう」


「うん」


きゅっと紫の手を握ってから、ハッと気づいて、紫を見る。すると、クスクスと笑っている紫が見えて、静音は顔を赤くした。


せっかく今日は一歩成長したと思っていたのに。


「静音様。(わたくし)めが貴方様と御手を繋ぎたいのですが宜しいでしょうか?」


「っ、っ、っ!!良い・・・から・・・」


「では、参りましょうか」


紫は大人だ。僕もちゃんとした大人になれるのだろうか。そんな僕を紫は見ていてくれるだろうか。


「静音様?」


「ううん。なんでもない。あっ、そうだ!!この間テレビで見たお風呂で浮かんでるお盆の上に乗ったジュースを飲むやつやりたい!!」


「それは・・・無理でございますね・・・・」


このままずっと・・・・。



おおうふ(∩´∀`)∩

静音ちゃんかわええ

これが・・・これが見るも無残にひねくれ・・・に・・・

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