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トリツカレ  作者: 白蜘蛛
37/41

左腕

杓子様の室屋。

それは高さ1mにも満たない石造りの小さな祠だ。

地下には巨大な人工物があるという言い伝えもあるが誰も信じてはいない。


その苔むした祠の前に供え物が絶えて久しい。

祠は細い細い獣道のような山道を辿って行き止まった空き地にあった。

そこは人が途絶えて久しいと言うのに草も生えてはいなかった。


どさッ

その空地に二人の女が落ちるように現れた。

「きゃっ!」

「痛タタタ~距離が短いのに飛ばしすぎマシタ」

2人は辺りを見渡したが、そこには小さな祠しかない。

「どうみてもコレですよネェ」

「そうですね、でもどうすれば良いのでしょう」

周辺を探してみたものの何も見つからない。小さな祠はあくまで小さな祠だ。

とても人が入れるような大きさではないなし、入口のようなものも見えない。

「あ、アヤメさん、葉書デスよ」

アヤメは倉木から手渡された颯太手書きのハガキを祠の前に供えるように置き、柏手を打った。

小さくつぶやくように唱えているのは、自分が何者か目的は何かを告げているのだ。

『・・・』

「なにも出ないデス~!もしかしてお出かけデスカ?」

「どうしよう、どこにおられるのか・・・」


「ここに居るぞ」

『ひぃやぁ!!』

「結界を解いたのはお主らか」

「あ、あなたは・・・ミロク様」

「お前はあの野津地とかいう女の手下だな」

「はい、アヤメと申します。颯太さんの窮地を救っていただきたく参上いたしました」

「もう、ほぼ死にかけなんデス」

「死にかけ?婿殿が?」

『婿殿!?』

この時、祠の裏から何かが弾けるような音がした。

白いもやのようなものが湧きだして徐々に人の形になっていく。

「しゃ、杓子様!!」

「うわぁ、とんでもない気デス。そのミロクさんは抑えてくれてるからいいデスけど・・・」

「ヤヤ、婿殿が窮地らしい。この者どもが伝えにきたのだ。結界が解かれたのも関係があるだろう」

「あの、婿殿って」

「気にせんで良い。して、場所は?」

「多摩湖です」

「一刻(約2時間)はかかるぞ?」

「はい、それでは間に合いませんが、手段があります」


◇*◇*◇*◇*◇


ノヅチセキュリティー研修所敷地内で、ボクは膝をついてうずくまっていた。

青行者と石妖を同時に捌きながらボクを守るヨーコさんは善戦している。

一方で全く戦力になっていないボクには誰の関心も向いてはいなかった。

ボクは少しづつ移動した。

指を折られて茫然自失した見習い退魔士。

貧弱な力しな持たない見習い退魔士。

ボクの視線の先には退魔武装の“ワルサーPPK「ノヅチ改」”がある。

何とかそれを手に入れればヨーコさんの援護ができる。


青行者の錫杖、石妖の石礫いしつぶて、涼介とレンの連携がとれていれば、ボクの抹殺という目的を見失わなければ、既に戦いは終わっていたはずだ。

しかし、彼ら2人は競ってヨーコさんを倒す事に夢中になっていた。

それはヨーコさんの挑発のせいでもあるが、子供の不用意さのように感じられた。

ボクが指摘された“職場に子供がいる”という事と同じだ。

ヨーコさんがボクを見て小さく微笑むと目で合図した。

ボクから離れて一気に飛んだ先は青行者と石妖の間、まさに死地である。

しかし、これで2人の視線は完全にボクから離れた。

PPKを左手で掴んだボクは銃口を石妖に向けた。

「動くな!」

「なに?颯太く~ん、それって呪術弾でしょ?撃つのはいいけど術を“起動”できるの?」

「動くなと言った!」

「こわ~い。でも、利き手の指折られてるじゃない。アバラも折れてるし、まともに銃なんて撃てるの?ハッタリはみっともないわよね」

「ボクは両手利きなんだ。それに右手を使ってたのは左手が怪我していたせいもある」

ボクも石妖も切り札は持っているが、決定打ではない。

そう考えた刹那、ボクは呪術弾を発射した。

反動リコイルがアバラに響くと同時に二つの悲鳴があがった。

石妖とヨーコさんだ。

石妖の宿主であるレンもボクと同じ事を考えたようで、呪術弾が石妖に命中した時、ヨーコさんも石妖の石礫いしつぶてを受けた。

「レン!」

「ヨーコさん!」


「貴様ぁ!」

涼介の青行者が迫る。

ボクは迷わず残りの弾丸を連射した。

低く不気味なうめき声が聞こえ、青行者の突進はとまった。

撃ち尽くしたPPKのマガジンを入れ替える。

右手人差し指は折れているが、痛みは無視してマガジンを押し込み、スライドを引いた。

「この野郎、まともに呪術弾の起動もできないくせに!それに今装填したのは通常弾だろ?どうするつもりだ?」

そう言いながらも涼介とレンは木立の陰に身を隠した。

PPKを構えながらボクは左手に力を感じていた。熱いような感覚だ。

「霊体にそんな鉛玉は霊体に効かないぜ!」


そんな事は分かってる。

それでもボクの左腕は青行者に向かっていた。

「荒木颯太!試してみるか!?」

この時、ボクは何も望んではいなかった。

ただ、『この銃弾に力が欲しい!』そう念じていた。

左腕が熱い。

青行者が一歩前に出た。

ボクは引き金を引く。

“ダンッ”

水の中で聞いた音のようなくぐもった音がした直後、青行者がうめき声をあげて膝をついた。

「なんだと!?」

混乱した涼介にレンが叫んだ。

「涼介!その拳銃に呪術の反応があるわよ!」

「どういう事だ!?」

「呪術がかかっているのは拳銃なの!そこに込められた弾丸は全て呪術弾となるわ!」

「礼子さんの呪術かよ!」

「たぶんね。そんなやり方があるなんて聞いた事ないけど」

「くそっ、じゃぁ、霊体にも人間にも効く弾って事かよ!」

「そうなるわね、しかも術が強力だわ」

ボクは相変わらずリコイルにうずくアバラの痛みに顔をしかめながら口許だけで笑った。

さすがは野津地会長だ。ワルサーPPK「ノヅチ改」は驚くべき進化を遂げていた。

『こんな呪術弾をチマチマ作ってられないよ』

そうボヤいていた礼子さんが脳裏に浮かぶ。


ヨーコさんに向いていた石妖がボクに向けて手を突き出した。

やっぱり・・・あなたが礼子さんのお気に入りって事よね。あ~ぁ、秋人ってばかわいそうね」

セリフとは違って厳しい視線をボクに向けている。

「どう?撃ち合ってみようか?」

「止めろレン!」

「青行者じゃスピード負けするってば。飛び道具にはやっぱり飛び道具よね」

“ダンッ”

「きゃッ!何いきなり撃ってんのよ!」

“ダンダンダンッ”

「きゃぁッ!!」

「貴様ぁ!!」

レンの悲鳴と涼介の怒号が響く。

「この闘いにルールなんてあるのか?」

自分でも驚くほど冷えびえとした声だった。

弾数は残り2発。

そう思った瞬間、足元から空中に放り出された。

地面に打ち付けられ、PPKも手を離れた。

「そうだ、ルールなんて無い」

怒りを抑えた声は秋人だ。

「お前ら、なんでこんなヤツに苦戦してるんだよ」

「秋人さん、こいつ憑依武装してたんスよ」

「それに礼子さんの特別な退魔武装も持ってたわ」

「特別?白戸の次はコイツかよ!」

秋人は怒りをぶつけるように地面を掌で打った。


“ガサガサガサ”


目の前で蠢く脚は不気味な音を立てていた。

実体化している。つまり、直接的な攻撃が可能という事だ。

「もう遠慮しない!大百足!喰い殺せ!!」


ドザァッ

大百足が地面にぶつかる音を残し、僕の身体は何者かによって攻撃を避けていた。

「大丈夫?」

「ヨーコさん、無事でしたか!」

「ま、無事っていうにはチョット厳しいけどね。っていうかそろそろ限界だわね」

「エネルギーならボクから吸ってくだい」

「颯太もギリギリみたいだけど?」

確かにボクの体力も限界に近い。

これほどの霊気に晒されたせいか体力の消耗が異常に早いのだ。

ヨーコさんは消耗しながらもボクに肩を貸すようにして大百足の攻撃をかわして木立の中に避けた。

「それにあなたの左腕、覚醒したみたいよ」

「覚醒?」

「そ、あんたの左腕には杓子様と礼子さん、それにあのミロクって奴の力が宿ってるの。普通ならお互いが反発し合って爆裂しちゃうんだけどね。逆に融合してあんたの力になってるみたいなのよね」

「言ってる意味が・・・」

「さっきの通常弾が呪術弾になったのもあんたの力だし、霊体も寄せ付けないわ」

「話が分かりませんけど、とりあえずヨーコさんにエネルギーを」

「だからさ、アンタの腕が覚醒した時点で私は追い出されてるの。エネルギーはもらえないわよ。全くもう」

「え、じゃぁ・・・」

「ま、この前もらったコレがあるけどね」

ヨーコさんは小さなビンを振った。

そうは言いながらも周囲を警戒するヨーコさんを突然礫が襲った。

「きゃぁ!」

そこへ、ズンっと錫杖が突き出された。

「ぐっ!く、くそっ」

ヨーコさんは倒れ、その体は薄くなっていった。

「ヨーコさん!!」

叫んだ途端に激しい衝撃を受けた。

青業者の錫杖が横殴りに振られ、林から跳ね飛ばされたボクの身体は地面の上を転がる。

「この野郎、もうモノアミンの回収なんていらねぇ、圧縮してやるぜ!」

迫る青行者の背後には大百足が蠢いている。

「待って」

少女の声はレンだ。

「私もさぁ、頭に来てんのよね。圧縮する前に石針を打ち込ませてもらうわ。エネルギーも必要だし」

「おら、立て!」

涼介の声に青行者がボクの髪を掴んで引きあげた。

近くで見ると青銅の像そのままだ。

ボクの身体は宙に浮いた。

その時左腕が再び熱を帯びた。

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