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トリツカレ  作者: 白蜘蛛
36/41

目的地

ノヅチセキュリティー研修所の中庭から強力な霊気が立ち昇っていた。

大百足おおむかで”の赤西秋人あきと

青行者あおぎょうじゃ”の緑川涼介りょうすけ

石妖せきよう”の黒木レン

彼らは、かつてノヅチセキュリティーが進めていた退魔士養成計画、“がごぜ作戦”の為に集められたのだ。

“がごぜ作戦”とは、各地の孤児院から退魔士としての才能が高い子供を集めて育成するという計画であった。

全部で12人の子供が集められたが、8名は事故(・・)で死亡。

現在残っているのは彼ら3名に“ハク”こと白戸翔太を加えた4名のみだ。

勿論、全員が偽名だ。というより彼らは本当の名前を知らない。


2年ほど前になるだろうか。秋人ら3人は意見の相違から礼子の許を離れた。

その原因となったのが、かねてからノヅチセキュリティーが計画していた、他組織から退魔士の供給を受ける “ソラガミ計画”。

退魔士の素質がある者を広く求めようという計画で、それは自前の退魔士育成システムである“がごぜ作戦”と双璧にして相反する取組みであった。

勿論、それらは退魔士の数と質の確保という面で相互が補完し合うものではあったが、計画の全体を知る者は僅かで、対象者である秋人達が全容を知る機会はなかった。

ましてやノヅチセキュリティーの野津地礼子は超ワンマンだ。

そこへ加えて精神的な幼さを持つ赤西達の個人的感情も影響した。

結局、赤西・緑川・黒木の3人は示し合わせて飛び出してしまうが、実社会で健全に生きていくには若すぎた。

生活基盤を失った彼らは街に衣食住を求めた。

街にカラスが集まるのと同じ事だった。

たむろする不良達がと諍いを起こす事もあったが、霊力を持つ秋人たちにとって恐れる相手ではない。

しかも話をしてみると、俗にいう“イイ奴ら”だった。

霊力があっても飯は食えない。

不良たちは生活の世話をしてくれた。

不良仲間の1人のアパートを3人に貸してくれたし、バイトも紹介してくれた。

彼ら3人にとっては何もかもが新鮮であったし、これまで主従関係しか経験しない彼らにとって“仲間”とは欠けていた何かを満たしてくれる相手でもあった。

くだらない会話や無為に過ごす時間がとても貴重なものに感じられたのだ。

夜の街では争いごともあったが、それこそ3人の独壇場であった。

秋人たちはすぐに街にたむろする少年達の“顔”になった。

生活の基盤を彼らに委ね、彼らに担がれては霊力を使った。

それでも人間の範囲でいられたのは秋人がうまく涼介とレンをコントロールしていたからだ。

ほどなく不良少年達の上層組織である反社会的勢力から接触があった。

3人が礼子の許を飛び出してから僅か2ヶ月。

何もかもがあまりにもスムーズに進んでいた。

その理由は“御前”。ノヅチセキュリティーの野津地礼子に怨みをもつ怨霊。

その“御前”が組織のトップの情婦に憑りついていたのだ。

ほどなく3人は“御前”の存在を知るが、その強大な霊力と、聞かされた事実ではない自分たちの過去を信じ、現在は“客分”として組織に飼われている。

彼らは明らかに常人としてのタガが外れていた。

命を尊重するという感覚が欠落しているのだ。

組織にとって彼らは良い駒であった。


その3人が依頼されたのは“荒木颯太”の抹殺。

もっともらしい理由がつけられたが、そんな事はどうでもよかった。

それをする事で礼子との関係がどうなるか躊躇した形跡もない。


彼らから実社会に生きているという感覚は失われていたのだろう。

組織からは妨害する者の身体生命も関知するなと言われていた。

勿論妨害は考えられるが、話を聞けば礼子を始め、主要メンバーは東北で退魔を行うのだという。これで気持ちのうえでも楽になった3人は非常に簡単に考えていた。


“たかが見習い退魔士ひとり”


愚かといえば愚かではあるが、この3名には礼子の許を離れる理由の一つが“ソラガミ計画”でもあるのだ。だから対象者である荒木颯太への敵愾心は強い。

勿論、3名が出奔した時に荒木颯太は無関係であるが、そのような事はどうでも良いのだ。

そのような事も御前はうまく利用した。

礼子の留守を狙うのは成功率を高めるためとされたが、いまだ大きな影響力を持つ礼子に近づけたくなかったのだ。

まだ戦力とはいえない荒木を狙う理由は、3人と礼子との間に少しづつ楔を打っていこうという御前の周到な思惑でもあった。


◇*◇*◇*◇*◇


“大百足”と“青行者”の襲撃を受けたサクラと荒木颯太。

サクラが倒され、大百足の秋人は去った。

颯太を救うべく出現したヨーコではあったが、新たに現れた黒木レン“石妖”によって絶体絶命の危機に陥っていた。


その状況を目に息をひそめるのは、ノヅチセキュリティーSPチームのアヤメでありメリーだった。

どうやらメリーは颯太への接近を図ったと思われた。

これは荒木颯太にとってこれまでにない幸運であったと言える。


サクラと颯太の窮地を知ったアヤメは、禁断の装備“封印のグローブ”を手にメリーに迫った。

「仲間の為なら私は何にでもなります」

しかし、助けを呼ぶべき礼子達は今泉。往復で2時間以上かかるという。

アヤメは遅滞なく決断した。

「目的地を変えます」


*-*-*-*-*-*


一方の古狼。

東北道を疾風が奔る。

それは突風で野山はまだしも建物や人間などを傷つけるかもしれないという考えからの配慮だ。

「ふっ・・・」

古狼は皮肉な笑みを浮かべずにはおれなかった。

「この俺が・・・人間が傷つくのを恐れているというのか」

「いや、この人間が作った街道は実に走りやすいからな」

そう思った瞬間、古狼は本当に笑った。

何を言っているのだ、そもそも俺はたった一人の人間のために駆けているではないか!

“げぁげぁげぁ”

その怖ろしい笑い声に高速道路に面した山林に住むケモノ達は凍りついた。

その日、東北道に突然吹き荒れた突風。

通行車両は風に煽られ、数件の事故も発生したという。


*-*-*-*-*-*


古狼が出発した直後、礼子に着信。

発信者はアヤメ。

がごぜの3人にサクラと颯太が襲撃を受け、サクラが倒された。

ヨーコが防戦しているものの、青行者と石妖の2体を相手に苦戦しているという。

「くっ、予想通りだ。古狼は出発したばかり・・・とても間に合わん!!」

メールの最後に杓子様への対処で協力を得た神主、倉木の住所を求めていた。

礼子は驚いたものの、すぐに返信。目を閉じた。

アヤメが何をしようとしているのか分かった。

しかし時間が無い。

再び着信

“メリー同行、事前連絡を乞う”

「そうか、しかし・・・いや、考えている暇はない」

礼子は直ちにアヤメの案を実行に移した。


「はい、倉木です」

「野津地礼子だ。こんな時間に済まない。荒木颯太の命がかかっている。協力してほしい」

「颯太くんが!?私は何をすれば良いですか」

「これから10分程度で私の部下が到着するから土着神の室屋に案内してくれ。併せて結界を解いてもらいたい」

「杓子様をこの村から出さない事が私の使命なのですよ?・・・仰っている事がめちゃくちゃです」

「分かっている」

「結界を解けなどと・・・私が協力すると思いますか」

「思っていなければ連絡などせん」


倉木は笑った。

「分かりました。やりましょう」

「すまんな、お前にも危害が及ぶかもしれん」

「あれだけ言っておいて謝らないでください」

「わかった。私の部下はアオイという女だが、女の霊体が一緒だ」

「え?霊体!?」

「そうだ、だから移動に車などは使わん。突然現れるが驚かないでもらいたい」

「あ、えぇ、いま驚いたんで、本人の前では少しマシでしょう」

「室屋へは同行しないくてもいい。場所だけ伝えてくれば大丈夫だ。地図があると尚良い」

「はい、分かりました」


倉木は会話をしながら既に車に乗り込んでいた。

アオイという女性が来るまでまだ時間がある。

先に結界を解いておいた方が良いだろう。


*-*-*-*-*-*


再び古狼。

仙台に入った頃から一気に車両が増えた。

何とか交わしながら急ぐ。

車を避け、時には山の木々を揺らしながら駆ける。

「世間知らずの小童どもめ。だから言ったのだ、あの者どもは消毒しておくべきだと」


*-*-*-*-*-*


古狼が福島を過ぎた頃、アヤメが倉木の元に到着した。

「失礼します。ノヅチセキュリティーのアヤメと申します」

「あなたが・・・アヤメさん?」

「はい。何かございますか」

「いや、こんなにお若いとは・・・」

「ナンパは駄目デス」

「あっ、えぇっ!?あなたが霊体の・・・」

「ハァイ、メリーでーす」

「わ、私が倉木です。霊体なのにこんなにはっきりと見えるなんて」

「まぁ、アナタの力のせいデスね」

「倉木さん、急いでいるので」

「あ、すみません、案内した方が良いですか、地図で示せば良いですか」

「地図でOK!」

「今いるのがココ、室屋は3㎞ほど離れたココです」

「分かりました。ありがとうございます」

「メリーさん、行きましょう」

「気は乗らないけど、OKデス」

倉木が慌てて呼び止めた。

「あの、これを・・・」

「これは何でしょうか」

「颯太くんから届いた暑中見舞いのハガキです。幸いにも手書きですので、颯太くんの気が残っているはずです。これで颯太くんの関係者だとわかるでしょう」

「お気遣いに感謝します。では」


倉木の目の前で、2人が手をぎゅっと握ったと思った瞬間、2人の姿は消えていた。

取り残された倉木は体の芯に湧くような力を感じた。

あのアヤメと名乗った女性のせいだ。

恐怖に打ち勝つのは勇気しかないのだ。それがどんなに小さくとも。

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