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トリツカレ  作者: 白蜘蛛
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がごぜ

銃を突きつけられた恐怖とパニックで何もできなかった。

ただ、秋人という少年の憎悪に満ちた視線は痛いほど感じられた。


「やめた」

「・・・?」

「お前も退魔士の端くれなら憑依武装で片付けてやる」

スッと右手が上がり複雑な動きをしたと思った次の瞬間、膝をつくようにして掌を地面に打ち付けた。

「!!」

ボクは今度こそ痛みを忘れた。


地面から姿を見せたのはムカデだった。

太さは電柱くらいはあるだろうか。

地面から3mほど突き出ている。

体をうねらせるわけでもなく、体の左右に並ぶ脚を動かすわけでもない。

威嚇する蛇のように鎌首をもたげ、見下ろすようにその頭部をボクに向けている。

その無機質な体はムカデというよりも甲虫のような堅牢さを感じさせた。


「秋人さん、俺にやらせてくださいよ」

「どうしてお前が」

「俺、キライなんですよ、ムカデが人間を喰うのを見るのが。って言うか、生きたまま喰わせるのってやっぱグロくないっスか?」

「俺の“大百足おおむかで”は“戦う=喰う”だからな、仕方ないだろ」

「でも、ここは俺にやらせてくださいよ」

「“青行者あおぎょうじゃ”でどうするつもりだ」

「そろそろエネルギーを補充しておきたいんスよ。死体も圧縮しちまえば骨も残りませんから」


大百足おおむかで

その名の通り、巨大な百足である。

電柱ほどの大きさで童蛟のように飛ぶことはできないが、地下においては無類の強さを誇る。地下が住処であるため神出鬼没。

大顎と脚(最前の4対のみ)から発射する毒で攻撃する。大顎の攻撃とはすなわち噛み付く事であり、そのついでなのか噛み砕いて嚥下してしまうため、敵を喰らうとされる。


青行者あおぎょうじゃ

青銅の像のような色をしたヒトカタ。

力に優れ、その戦闘スタイルは錫杖を使った打撃にある。

人間の神経伝達物質であるモノアミンをエネルギー源としており、霊体が人間の身体を透過しながら摂取するが、その際は無防備な状態となる。


「分かった、好きにしろ」

「毎度~、後は任せてくださいよ」

「俺は先に行ってるぜ、青行者が人間をいたぶるのを見るのはキライなんでね」

「なんスかそれ、仕返しですか?まぁ、いいっスけど。俺の青行者はモノアミンをエネルギー源にしてるんでコイツに嫌な思いしてもらうのは仕方ないですよ」

「分かった分かった、じゃな」

秋人は背中を向けたまま指を挙げると、そのまま去った。

「こんなヤツ相手に熱くなるなんて秋人さんらしくもない。まぁ、礼子さんが絡んじゃ仕方ないか」

涼介は小さく笑いながら颯太に目を向けた。

笑っていた顔の目だけが冷えていく。

「済まないな、ちょっと苦しんでもらうぜ。時間にして10分程度だ・・・本当に済まない」

そう言うと、ポケットから短い棒状のものを取り出した。

「と、独鈷杵?」

「そうだよ、俺はそういう・・・・ところで育ったんだよ。


右手で独鈷杵を握り、開いた左手を添えるようにして何かを唱えた。

夜の闇よりも暗い塊が涼介の前に現れた。

ズズズ・・・

何かを引きずるような音と共にヒトカタが姿を見せた。

修行僧の雲水衣のもろ肌脱ぎ、頭には弁慶頭巾、手には錫杖。

その隆々とした上半身は青かった。いや、緑と言った方がいいかもしれない。

その姿は、まるで青銅の像のようだ。

そう思った瞬間、錫杖が鋭く伸びてボクの胸を突いた。

「ぐ・・・折れた・・・」

青行者はなおも錫杖で突き出す。

ダメージを与えるためではなく、痛みを与えるために的確に折れたところを突く。

「がぁッ!」

「痛いだろ?済まないな。あ、また謝っちまった。駄目だなぁ俺ってば」

涼介が話している間も青行者はボクの胸を錫杖で押し続けた。

「も、もう、止めてくれ」

「そうはいかないんだよ、お前が放出するモノアミンが青行者のエネルギーになるんでね。この後、青行者がお前の体を通過してモノアミンを回収する」

「モノアミンって知ってる?アドレナリンとかドーパミンとかの神経伝達物質の事でさ、幸福を感じる時にはエンドルフィンが分泌されるし、不快な時にはノルアドレナリンが分泌される。ま、青行者を相手に幸福を感じる事はにだろうから、最初からノルアドレナリンの回収が目的なんだ。だから嫌な思いをしてもわなきゃならないって訳」

「や、やめてくれ・・・」

「お前さぁ、少しは抵抗しないのかよ。別にいいけど。・・・ま、3回ってとこかな。モノアミンを回収できるのは。それ以上はお前の体がもたないだろうからね」

成す術も無く折れた骨をいたぶられる痛みに耐えていると、苦痛への感じ方がふっと変わった。

痛い事は痛い。ただ、それを受け入れたという感覚。

「よし、回収だ」

錫杖が動きを止め、青行者の左腕がボクの髪を掴んだ。

青行者の体が徐々に薄くなっていったが、その左腕だけは色彩をはっきりと残していた。

目を下に向けると青行者の半透明の足がボクの腹に入り込んできた。

「う、うわぁぁ!!」

「大丈夫だって、回収は痛くないから。ただ、回収したらまた痛い思いをしてもらうんだけど」


「回収の後は“圧縮”するんだ。人間の身体は60%が水でさ、水分を全部抜いて圧縮すると2ℓのペットボトルくらいの大きさになる。比重でいえば金と同じくらいだね。湖にでも投げ込んだら二度と出てこないよ」


「うあぉぁ・・・」

「大丈夫だ、お前の望みは叶えるよ。もうすぐお前は“死にたい”って思うだろうからね」

青行者が体に入ってくる感覚は冷たいもの侵入してくるような感覚だ。

痛みは無い。

それが折れた指や肋骨の痛みのせいなのか、恐怖のせいなのかは分からない。

その時、冷たい腹部とは逆に背中に温かさを感じた。

何かの存在を感じる。その存在がスッと頭の方へ移動した。

その瞬間。


ズバッ!


何かを破るような音と共にボクの頭を押さえていた青行者の左腕が切断された。

「はぁ~い、颯太、お待たせ~」

「ヨ、ヨーコさん!!」

「ごめんねぇ、青行者って結構手強いから、隙を狙わないとね~」

ヨーコさんは言葉の明るさとは反するような悲しい目をしていた。

「ほんとにゴメンね」


左腕を失った青行者は苦痛の表情で距離を取り、残った右手に錫杖を構えた。

動揺した涼介の声は上ずっていた。

「何だお前は!」

「口裂け女って知ってる?まだ毛が生えたばっかの僕チンじゃ知らないかなぁ?」

「てめぇ!お前がコイツの憑依武装って訳か!退魔武装を持ってたから気付かなかったぜ、つまんないフェイントしやがって!」

「うるさいよ僕チンは。あたしの相手はソッチの青行者さんでしょ」

「この野郎、圧縮してやる!」

青行者の杖が振り降ろされるが、ヨーコの残像をかすめて地面を打った。

「すごい力ね、意外とスピードもあるし」

「当たり前だ。青行者は雑役を行う従者といわれているが、その実はボディーガードだ。ぶつかり合いなら強いぜ、口裂け女おまえなんて腕一本で十分だ」

「はぁ~、やっぱ僕チンねぇ、敵に褒められてイイ気になってんの?」

「なに!」

「力はあるけど、スピードは“意外と”って言ったでしょ」

ヨーコはすっと前に出て青行者の錫杖の射程内に入った。

青行者は必殺の錫杖を振り上げた。

「ばかッ!やめろッ!」

「はん、振ろうと振るまいと、もう遅いんだよ!」

既にヨーコは青行者の背後にいた。右のハルペーが青行者の右腕を、左のハルペーが首を、それぞれ掻こうとした、その時。

バチッ!という音と共にヨーコの悲鳴があがった。

「きゃぁ!」

ヨーコは弾けるように青行者から離れて膝をついた。

「口裂け女のヨーコさん、ごめんねぇ」

少女が姿を見せた。

ゼブラのカラータイツと短いスカートに小さめのジャケット。

「涼介ぇ、青行者ってば弱っちいじゃん」

「レン!」

「さっき、秋人に青行者がエネルギー補給するって聞いたのよね」

「それで見に来たのかよ」

「まぁね、相手があの・・荒木クンだって話だし。でもびっくりよね、荒木クンって退魔武装って情報だったのに、こんなのが憑いてるなんてね」

「こんなので悪かったわね、不意を突くなんてガキらしい発想だわね」

「お前が言うな」

「うるさいってば、さ。僕チン?」

「この、黙れ!」

青行者が錫杖を横殴りに振る。

ヨーコは十分に躱せる攻撃をわざとハルペーで受けた。

その勢いで身体ごと3mも押し込まれる。

それを見てレンが苦々しげに言った。

「ちっ、普通に避ければ石礫いしつぶてで足止めして終了だったのに。ヨーコさんとやら、なかなかやるじゃない」

その間にもヨーコは青行者と石妖の双方へ対処できる体勢を整えている。

それを見て取ったレンはむしろ楽しそうに言った。

「このままダラダラ闘ってもしょうがないわね、どっちにしても礼子会長たちは御前ごぜんを相手にして動けないだろうし、私も出しちゃおうかなぁ」


ドスっ


一抱えはありそうな石が現れた。

それは石切り場から切り出されたようなごつごつとした石でありながら湿ったようにしっとりとしていた。

とその石の上に白い人かげが現れた。


【石妖】

昔、石切り場に現れるとされた女の妖怪。

男たち按摩で眠らせるが、眠らされた男たちの背中には石で引っ掻いたような傷があったという。

これは石妖のエネルギー源である髄液を男達から摂取する為の行為である。

石妖に髄液を吸われると、様々な病気にかかるとされる。


石妖が不意に向きを変えて両手を突き出した。


バババババッ!!


3m四方に石つぶての弾幕が飛ぶ。

確かに何かがいた。

しかし石つぶての後には何も残ってはいなかった。

「おかしい。間違いなく居たし、絶対に躱せるタイミングじゃなかったはずなのに」

「本当にいたのか?」

「間違いないわ。あれを躱せるスピードなんて、この辺りじゃ黒駒くらいなのに」

「だったら問題ない。奴はウロツキ組だ。誰にも憑いちゃいないし誰の言う事も聞きゃしない」


【黒駒】

戦場で伝令に使われていた馬の霊。

とてつもない移動スピードを誇るが、基本的に憑りつく事もなくただ走り回っている。

雨天時の落雷が好物で、一度エネルギーを補給すると数か月は活動ができるという。

ただ、知性的なものはなく誰の言う事も聞かない。

このように宿主を持たず、目的もなく、ただ彷徨う霊を「ウロツキ組」と呼ぶ。


*-*-*-*-*-*


石妖の石礫を躱し、息をひそめる存在。

白いワンピースに金髪の女。


「あっぶなかったデス、バット、颯太とヨーコさんが・・・」

「あなた」

「ひぁッ」

「あなた、メリーさんね?」

「いや、私、日本ハジメマシテです」

「私はノヅチセキュリティーのアヤメです。力を貸してください」

「アナタ、私の話聞いてマスか?・・・って、私の事知ってマシタの?」

「はい。あの2人を救いたいのです」

「あれって颯太デスよね?」

「そうです、状況は私も把握していますが、私の力ではどうにもなりません」

「どうすればいいデスか?」

「平泉にノヅチセキュリティーの退魔士が居ます。何とか連れて来れませんか」

「私は移動スピードだけなら誰にも負けないケド、平泉って岩手県でしょ?往復なら少なくても2時間はかかりマスよ?」

アヤメはがっくりと肩を落とした。


「仕方ないデス」

「・・・」

「ゴメンナサイ、ここに居ては危険デス。ワタシは関係ないですし。もう行きますね」

去ろうとしたメリーさんの腕をアヤメが引いた。

「Oh!あなた実体化していない私に触れるデスカ?」

「このグローブのせいです。これは霊体を封印する呪術が施されています。負担が大きいので禁断の装備ではありますが、今は緊急事態ですので」

「あの礼子さんのものですか?」

「はい。こんな言い方したくありませんが、あなたを封印する事もできます」

「・・・」

「協力してください」

「あなたって、バンディット?」

「仲間の為なら何にでもなります」

醒めた目でグローブを目の前にかざした。

「オ、OKOK、協力はするけど、間に合わないデスよ?」

「はい、目的地を変えます」

「目的地を変える?」

「はい」

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