探し物
会社からの帰り道、公園のベンチで寝入ってしまった荒木颯太。
その傍らにブロンドの女が立っていた。
「あらら~、寝ちゃいマシタか~、せっかくグッドな夢を見させてアゲルと思ったデスのに~」
モデルを思わせるプロポーションだが、出るところがしっかり出ている。それでいて顔は童顔。日本人ごのみの金髪美人というやつだ。
「もぅ~、このメリーが、相手になってアゲルっていうのに」
そう言いながら、颯太の寝顔を覗き込んだ。
「あら、睫が長いのデスね、カワイイ~、それでいて人間としてはかなりの強さを持ってマスし、精気も凄そうデス。へぇ~面白いカモ。今回はガッチリ行っちゃうカモ」
自分をメリーと呼ぶ女の金髪が揺れた。
「!!」
とっさに身を翻したメリーの前で赤いジャケットが揺れた。
「何モンだ、あたしのダーリンに手を出すヤツは!?」
「オゥ、もう先客がいたのデスか。ダーリンって何なんデス?早く言ってくれれば・・・って」
『ん?ん~!?』
「あー!あんたメリーじゃないの!アメリカに帰ったんじゃなかったの!?」
「エ~ト、ワタシ日本ノ男ガ好キダカラ」
「違うだろ!この超肉食女!日本の男が誘惑しやすいってだけだろうに!」
「NONONO!違イマス!」
「何がノーノーノーだっての!お前、日本語ペラペラだろ!」
「はぁ、ヨーコさん、じゃましないでクダサイ。あなたと違って私はたくさんの男のヒトが必要なのデス、憑り殺したりしないカラ、たくさんの男のヒトからエネルギーをもらわなきゃならないのデス」
「なに言ってんの、あんたがエネルギー摂取した後の男なんてほとんど廃人だっての!まったく日本の男を食い物にしやがって!」
「だって日本の男ってこういうのが好きなんデスよ、ネ」
胸元をグッと突き出すと、童顔とはアンバランスな胸が強調された。
「くそ、アメリカ仕様の身体しやがって」
「日本の男の人は好きなんデス、こんな感じなのが。ゴメンナサイ、日本の貧弱な女子から男の人を奪ってしまったみたいデス、ネ」
「お前は特定外来生物かっ!」
「何デスかそれ?私達は昔やりあって、今じゃ女の友情ってやつじゃないデスか」
「けっ、何言ってる、頭カラッポのバカ女のくせに」
「ヨーコさん口が悪いデス。ところでデスけど、その子、結構カワイイんじゃないデスか?」
「な、颯太は駄目よ!私が憑りついてるんだから!」
「オゥ、颯太っていうんですか。もうヨーコさんの宿主なのデスか?」
「そうよ、憑りつくのに苦労したんだからね。しかも15年契約なのよね」
「ワォ、15年!?よくそんなの認めましたネェ、ほとんど夫婦じゃないデスか」
「え?そ、そうかな?」
「なに照れてるんデス?アナタ妖怪なんデスよ?、憑り殺しちゃうんデショ?」
「うるさーい!私と颯太は、現在を生きるの!」
「親指立てて何言ってマスカ」
「いや、あの・・・」
「顔真っ赤にシテ、恥ずかしいくらいなら言わなきゃいいのに」
「どうでもイイけど、颯太は絶対にダメだからね!ま、もう私が憑りついてるけど!」
「ヨーコさん知ってマスか?」
「何を?」
「ワタシは、誰かが憑りついてる人間からもエネルギー摂取できるんデスよ」
「・・・」
「ウェル・・・エネルギー摂取の方法って、知っての通りの方法なのデスよねぇ」
「・・・」
「私が誘って落ちなかった男のヒトなんていないデスしねぇ」
「・・・」
「アナタが憑りついたままでも、ワタシは構いまセンけど?もしかして参加しちゃいマスか?」
「・・・」
「どうしましょうか?ネ。」
「・・・オマエ、マジ殺してやろうか?」
「え゛っ、すごい怖い顔してるんデスけど」
「もうイイや、お前は死ね、前に私とやり合って負けた時にアメリカに帰りゃ良かったんだ、切り刻んで東京港に捨ててやる」
「ちょ、Wait wait wait!」
「うるさいッ!」
すでにハルペーが振られていた。
メリーの顔がキッと引き締まって、何かを唱えた。
ざすッ
ハルペーが空を切った。
「ちっ」
舌打ちするヨーコに光るものが迫った。
とっさにハルペーで防御。
カッカッカッと軽い金属音とともに地に落ちたのは、カッターの刃だ。
武装をほとんど持たないメリーの唯一の攻撃手段はカッターの刃をバラして飛ばす事だ。
それにしてもスピードを誇るヨーコを軽く凌ぐメリーの動きは驚異に値する。
「相変わらず、速いわね」
「ヨーコさんの方こそ、力もスピードも以前とは桁違いなんじゃないんデスか?」
「だからさ、私と颯太を邪魔すんなって言ってんだよ!」
「へぇ、じゃ、あの子のエネルギーがスゴイって事ですよネ?」
「だからどうした!」
「ワタシ颯太に興味ありマス、ちょっと危ない橋渡ってみようかな」
「・・・なんだぁ?マジでやろうってか?」
突然小さな影が飛び出した。
目が隠れるくらいの前髪のショートカット、リュックにショートパンツ、年齢は小学生くらいに見える。手には何か筒のようなものをライフルのように構えている。
「それ以上は駄目なのよ!」
「え、サキ!?なんでここに?」
「ヨーコ、それ以上は止めておきなさい」
スレンダーな身体に、腰まで届く黒い髪。白い肌。細面。・・・だが美人ではない。というか、ブサイクな部類にはいるだろう。
そんな女が前髪をかき上げながら立っている。
「げっ、姉貴まで・・・」
ヨーコには姉と妹がいた。
姉はレイコ、通称かしまさん
妹はサキ、通称ひきこさん
共に都市伝説の住人だ。
【かしまさん】
足がない女の幽霊が「足いるか?」と聞いてくる。「いらない」と答えると足をもがれてしまうという都市伝説。
と、されてはいるが、実際は男にフラれた女の霊。「あし」とは男の事らしい。
美人ではないというよりブサイクなのだが、自分を美しいと強く信じており、男を「あし」と呼ぶのも、美しさに対する絶大なる自信から男を下僕程度にしか思っていないからだ。
ただ、その霊力は強く、属性は風。旋風を巻き起こして人間などズタズタにしてしまうという。遠い祖先は鎌鼬ともいわれるが、真実のところは不明のままだ。
ヨーコは姉と言っているが、義理の姉である。
【ひきこさん】
つり上がった目、耳元まで裂けた口、ぼろぼろの服を着た女の霊が、子供を捕まえては肉塊になるまで引きずりまわすという都市伝説。
と、されてはいるが、実際は発明大好きな科学系少女。
外観は小学生だが頭脳は天才である。
主に薬品と銃器をつくっては生物実験に余念がない。
霊力はほとんどないが、霊体に憑りつくという非常に特殊な能力を持つ。結果として他の幽霊と同時に現れるが、科学系の人間にありがちなKY体質でもある。「~なのよ」が口癖。
かしまさんと違って、口裂け女の実妹。
レイコが手をおいた腰をしなるようにして前髪を書き上げた。
「実はメリーちゃんにさ、ちょっと借りがあってね」
「レイコさんが気に入った私の男友達を・・・紹介したら男のヒトもレイコさんを気に入ったみたいで・・・」
「嘘つけ!吸い尽くして不覚状態の男をまわしただけだろ!」
「っていうか、姉貴、また男に振られたの?」
「どうしてかしらねぇ~」
メリーがヨーコにぼそっと言った。
「そりゃ、ブサイクだからデスよね」
「ふふふふ、もう、メリーちゃんたら冗談ばっかり。私ほどの美人なら冗談で済むけど、他の女の人に言っちゃダメよ~」「ま、私に本気で言ったヤツは旋風でミンチにしちゃうけどね」
「れ、レーコさん、冗談、冗談デス。冗談に決まってマス」
「メリーちゃ~ん、あんまり冗談って連呼すると、まるで冗談じゃなかったみたいに聞こえるからやめてよねぇ」
「ハイ、スミマセン・・・」
「メリーは姉貴には弱いわよね」
「だって、私の身体って風に弱いんデスもの」
「その代わり移動速度は異常に速いでしょ」
「イエァ、東京大阪間なら1時間程度デスね」
傍らのサキが手に持った筒を振り回しながら言った。
「もっと速く移動できるものを発明してやるぅ、のよ!」
「それにしても何でサキが来てるのよ」
「新しい発明の実験なのよ」
「新しい発明?」
「そう。新型の血液毒なのよ」
「もしかしてその手に持ってるのが・・・」
「そう。人間がたくさん死ぬのよ」
「おいおい、駄目だろそりゃ」
「1人殺したら人殺しだけど、百人殺したら英雄なのよ!」
『駄目だって!!』
「うぁ、珍しく3人とも同じ意見なのよ」
『私達のエネルギー源が無くなるからね!』
「私は放射能をエネルギーにしてるから問題ないのよ」
「私達が困るんだって!!」
「じゃ、蟲系の妖怪を退治するガスでも作るのよ」
「そうしときなさい」
「相変わらず危ないヤツだなぁ。霊力が弱くてホント良かったわ」
「じゃ、メリーちゃんもヨーコと仲良くしてよねぇ」
「は、ハイっ!」
二人は薄暗い路地を去って行った。
「行ったか、ほんと面倒くさいわ、あの姉貴と妹は」
「そんな事言ったってヨーコさんの姉妹じゃないデスか」
「そりゃそうだんだけどさ、もう何年も顔みせなかったのにどうしたのかしら・・・って、男を渡したアンタが原因じゃん!」
「だって、断りきれなかったんデスよ~」
「まぁ、わかるわ。姉貴は思い込みが激しいからね」
「なんだか面倒になって来マシタ。私はこのまま消えマスね」
「そうしてよ、最近エネルギー摂取を控えてるから、私も疲れやすくてさぁ。ま、これも愛よね」
「ヨーコさんの愛なんてどうでもイイんですけどネ」
「うるさい、さっさと消えてよ。私も寝るから」
小さな公園に疲れて寝てしまった若いサラリーマンが1人取り残された。
「はっ」
気付いて見渡してみるとボクはベンチで寝てしまったようだ。
慌てて時計をみると30分くらい経っているようだ。
こんなところで寝込んでしまうなんて、やっぱり疲れていたんだろう。
早速メールを打って帰ろう。
送信しながら、冷えた缶コーヒーを口にして・・・吹き出した。
「無い!ないない無い!!」
さっきまでシャツ越しに感じていた内ポケットの人形が無い!
ボクは愕然とした。
慌てて辺りを見渡したが人形は見当たらなかった。
どうして?どうして無くなった?
寝てる間に誰かが盗ったのか?
そしてボクは重大な事に気付いた。
「アヤさんにメールを送ってしまったじゃないか!!」
なんて事だろう、事態は悪くなる一方だ。
「とりあえず辺りを探すしかないな・・・」
ボクは公園の端から端まで探した。
街灯は暗いし、他に明かりといえばキーホルダーのペンライトしかない。
もし、通りかかった人がいたら何事かと思うだろう。
夜中に公園をペンライトを照らして何かを探す男なんて怪しすぎる。
おもいっきり不審者である。
頭の中ではアヤさんと課長への言い訳がぐるぐると回っていた。
「うっかり公園で寝ちゃって、気付いたら無くなってて・・・」
駄目だ、信用されない。
「あッッ!!」
思い出して冷や汗が流れた。
ボクのメールは、あのエロい人形をアヤさんが会社に持ってきた事を知っていると告げているではないか。
それ自体はボクが悪いわけじゃないけど、快くは思わないだろう。
バックを物色したなんて思われたら最悪だ。
「あ゛ぁ~・・・もう、最悪状況を更新だよ。しかも見つけた人形はどうしたって事になるし・・・」
とにかく探そう。
パニックの中で言い訳を考えながら探し続けたが見つからない。
「出て来てくれ・・・どうしても必要なんだ・・・」
ボクは呟くように繰り返して探しづつけた。
後で考えると不審者を通り越して完全な異常者だ。
ふと、時計を見ると何と夜中の2時だった。
時刻を見た瞬間、ボクの中で何かが切れて、どっと体が重くなった。
「もう、駄目だ」
地面に直接座り込んで、もうどうでもいいやとばかりに横たわった。
はぁ、地面が冷たいのが気持ち良くで寂しかった。
と、ベンチの裏、背もたれとシートの隙間に人形があった。
「あった!あった!あったぁ!!」
思わず声が出た。
ボクが落として挟まったのか?
でも、なんで気付かなかったんだろう?
ここなら探した時に気付かないはずないのに・・・まぁ、いいや。
人形があった。手に取ろうとして止めた。
ボクの手は土にまみれている。
公園の水道で手を洗い、人形を広げたハンカチに乗せた。
「良かった。よく出て来てくれたな」
思わず話しかけながらハンカチで包んだ。
疲れてはいるが、気分は少々上向きである。
帰りはもうタクシーを拾うしかないが、たまにはいいだろう。
バックを掴むと、メールが届いているのに気付く。
アヤさんからだ。受信時刻は23時過ぎ、つまりボクがメールを送った直後だ。
安直にメールを送った事を後悔した。
恐る恐るメールを開く。
『人形って何?わたし知らないよ?』
はぁ?
「じゃ、これって何なんだ?」




