こんな夢を観た「変な人に話しかけられる」
桑田孝夫とオープン・カフェでサンドイッチを食べている。
この時期、日差しも和らいで、外の風がとても気持ちがよかった。
「知ってるか? サンドイッチってなあ、サンドウィッチ伯爵が発明した食いもんなんだぜ」ハムサンドをほおばりながら桑田がうんちくを披露する。
「実はそれ、俗説らしいよ。サンドイッチそのものは、もっと古くからあったって言うしね。伯爵の子孫が、アメリカでサンドイッチ専門店を経営してるっ、ていうのは聞いたことあるけど」
「まじかっ」出鼻をくじかれて、意気消沈する桑田。
「たくあんだって、本当に沢庵和尚が発明したかどうかわからないそうだし、言い伝えなんて、そんなもんだってば」
「そうかもなあ。おれも、後世に何か名を残してぇもんだぜ」
「『桑田焼き』なんて残せるんじゃない? ほら、前に桑田んちで食べさせてもらったやつ」わたしは皮肉たっぷりに言う。
「よせよ、あの話は」桑田は恥ずかしさのあまり、真っ赤になった。
いつだったか、夕食をご馳走してやる、というので何人かで桑田の家に集まったことがある。
その時に桑田が「腕を振るった」料理は凄かった。中鍋にシチュールウを4箱、まるごと入れたのだ。
1箱1人前だと勘違いしてのことだが、裏の説明にはちゃんと、「4~5人前」と書いてあったはず。
香りだけはおいしそうだったが、コンロから下ろしてみてびっくり。カチンカチンになったルーが、鍋に層を成して固まっているのだった。
「スプーンすら立ちませんね、このシチュー」スプーンですくおうと試みた志茂田ともるが言う。相当に力を込めているらしく、柄の部分がしなっていた。
「表面を削り取ってみなさいよ」中谷美枝子に言われ、まるで木版彫りのようにスプーンで削る。かつお節のような削りかすができた。
それをみんなして皿に取り、一口食べてみる。
「うわっ、辛いっ!」一斉に吐き出す。
それもそのはず。何しろ、正味16人分が濃縮されているのだから。
「桑田焼き」と揶揄され、事あるごとにネタにされ続けているのだった。
わたし達がそんな他愛もない話をしていると、どこからか見知らぬ中年の男がやって来た。なんとかというコメディ俳優にそっくりである。
「何だか楽しそうな話をしてるね。ぼくにも聞かせてくれないかな、ねっねっ、いいでしょ?」
あんまり馴れ馴れしいので、お互いのどちらかが知り合いなのかな、と思った。
「ねえ、桑田。桑田の知ってる人?」ひそひそと耳うちをする。
「ば、ばかいえ。お前の親戚かなんかじゃねえのか?」桑田も困惑したように言い返す。
「知らない、知らないっ。なんなんだろうね、この人」
「えっ、何々? なんの話? ぼくにも聞こえるように、もっと大きな声で話してったら」ずずいっと身を乗り出してくる。どこまでも厚かましい。
けれど、さすがに面と向かっては言えない。桑田もわたしも、気まずい思いで顔を見合わせるばかりである。残ったサンドイッチも、もう食べる気がしなかった。
「ねえねえ、聞いて聞いて」今度は男の方からにこにこと話しかけてくる。「うちの近所にニワトリを飼っている家があってね、朝になると鳴くのよ、コケコッコーってさ」
「はあ……」相づちを打ちながら、そりゃあニワトリだもの、鳴くだろうさ、と思っていた。
「でね、朝早くから起こされちゃってさあ。うるさいんだよね、ニワトリ。だって、朝になると鳴くのよ、コケコッコー!」
自分こそ目覚ましのように、何度も同じ事ばかり繰り返す。
「その家の人と話し合ったらどうです」桑田が言う。いくぶん、面倒臭そうな口調から、早々に切り上げたい様子がうかがえた。
「それがダメなのよ」待ってました、と言うように嬉しそうな声で答える。どうやら、期待通りの質問だったらしい。「なぜって、そこの家じゃ、ニワトリのタマゴを売って生計を立ててるでしょ? 飼うな、なんて言えっこないじゃない。ねえ?」
ねえ? と言われても、こちらが困ってしまう。
「窓を閉め切るとか、耳栓をするとか……」わたしが遠慮がちに言うと、さらに顔をほころばせる。
「ダメなのよ、それが。ニワトリの声って甲高いもんだからね、何やったって聞こえてきちゃう、響いてきちゃう。毎朝、毎朝、早い時間から鳴くのよ、コケコッコー、コケコッコーって」
正直、こちらこそもうケッコーだ、と言い返してやりたかった。




