「あなたの職業は何ですか?」「盗賊です」「逮捕します」
「え?」
「え?じゃなくて逮捕します」
「ちょっと待てよ、俺が何かした?」
「いや、だってあなた盗賊でしょ?盗むのよね?だからよ」
「いやいやいやいや、盗賊っていうのは、冒険者の職業だから、決して盗みを働くわけじゃ……」
「でも盗賊よね?」
「そうだけど」
「いい? どこの辞書を見ても『盗賊』っていえば盗みを働く人、泥棒って書いてあるのよ。泥棒が職業ってどういうことよ。正気?」
「いや、俺が言ってるのは、そういう泥棒をする盗賊じゃなくて、職業としての盗賊で……」
「じゃあ盗まないの?」
「そういうわけじゃないけど」
「ほら、やっぱりそうじゃないの、この犯罪者」
「盗むって言っても町の人たちからじゃなくて、モンスターからなんだけど」
「まあ、それならいいわ。他にはどんなことするの?」
「他にはダンジョンに潜って敵を倒したり、宝箱を開けたり……」
「ちょっとまって」
「何?」
「そのダンジョンってあなたのものじゃないわよね?」
「そりゃそうだよ。あれはダンジョンの主が一番奥にいて……」
「つまりあなたのしていることって、住居不法侵入に暴行殺人、おまけに略奪ってことじゃない。泥棒どころじゃないわね。さあ、牢屋はこっちだから……」
「待て、ちょっと待て。ダンジョンにいるのはモンスターだけ。だから殺”人”じゃないし、むしろみんなに喜ばれることだよ」
「まあ、一応納得したわ。でも、それじゃ何でそんな誤解を招く名前にしているのかしら?」
「誤解を招くって言い方はひどいな。これでも昔から伝統的にそういう名前なんだから」
「だって一般的に言えば、盗賊って職業と言うよりは犯罪者の類型の1つじゃない」
「まあ、言葉の意味からすればそうだね」
「ということは、冒険者がパーティ組むときの字面がへんなことになるわよ」
「どういうこと?」
「戦士・盗賊・僧侶・魔法使いって、職業・犯罪者・職業・職業って見た目になるわよ。これがOKだったら戦士・強姦魔・僧侶・魔法使いってのもOKになっちゃうわよ」
「それはさすがにひどくない?」
「もっと言えば、殺人鬼・盗賊・ヤク中・ストーカーでパーティが組めることになるじゃない。やっぱり変よ」
「じゃあ逆に聞くけど、どういう名前だったらいいの?」
「そうねえ、もう一度やってることを教えてもらえる?」
「えっと、ダンジョンや屋外で敵をいち早く察知したり、罠を見つけて解除したり、あとは飛び道具やナイフなんかで敵をかく乱して戦闘を有利にするとか、そういう仕事」
「うーん、それじゃあいい言葉が無いわね。斥候って言うのがあるけどあれは軍隊用語で硬い感じがするし、やっぱり職業じゃないし……」
「それに近い言葉としてスカウトって呼び方もあるよ」
「でもそれって英語だから、世界観的に通らないこともあるんじゃない?」
「そんなメタなこと言われても困るよ。まあ忍びとか隠密とかってのもちょっとずれるし、そもそも忍者と盗賊って分けられてることが多いしね。伝統的に」
「そっちのほうがメタじゃない。まあ、なかなか難しいのはわかったわ」
「じゃあ、無罪ってことだね。やった」
「それとこれとは話が別よ。さあ、牢屋へ急ぐわよ」
「え? 何で?」
「あたしの貴重な時間を無駄話で盗んだ罪、あと、こんな駄文に読者様の貴重な時間を使わせた罪、2つの罪で有罪よ」
「そんなメタメタなあ~」
完
別に書いている長編の方で、冒険者が登場する段になって、「盗賊ってそのままの表現でいいのかな」と考えたことが元になっています。登場人物に英語を使わせたくないという事情があるので、そっちは結局「斥候」になる可能性が高いですが、なんかいい日本語があれば教えてください。