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第八章:帝都燃ゆ


 帝国の母星を包む漆黒の空が、無数のプラズマ砲の閃光によって昼間のように白

く染まった。

 超弩級戦艦「アポカリプス」の重厚な装甲を揺らすのは、外部からの猛烈な衝撃波。

 皇帝の玉座の間、その高い窓から見える宇宙の深淵に、一隻の「傷だらけの龍」

が舞っていた。

 リベレイター。

 かつて帝国軍の誇りだった最速のエンジンを限界まで唸らせ、弾幕の雨を嘲笑う

ように回避し、その巨躯を皇帝の眼前にまで突きつけている。


「――聞こえるか、老いぼれ皇帝! 俺の『宝』を返してもらおうか!」


 全回線を強制ジャックしたカイザルの声が、豪華絢爛な広間に鳴り響く。

 玉座に鎮座する皇帝は、眉一つ動かさずに、その傲岸不遜な呼びかけを無視した。

 彼の視線は、ただ目の前で跪くこともなく立ち尽くす、娘のエルシエラだけに

向けられている。


「……愚かな。一隻の海賊船で、この神の都に抗えると本気で思っているのか」


「お父様。カイ……船長は一人ではありません。彼は、あなたが奪ったすべての人

々の『怒り』を背負っているのです」


 エルシエラの声は、震えてはいなかった。

 彼女は背後で拘束されているレオナールと、一瞬だけ視線を交わした。

 計画の第一段階は完了している。

 カイザルが「表」で派手に暴れ、帝国の防衛艦隊の注意を一点に引きつけている

隙に、レオナールが「裏」で帝国の基幹システムに干渉する。


「レオナール。お前も、その男と同じ夢を見ているのか」


「夢ではありません、父上。……これは、清算です」


 レオナールが不敵に口角を上げた瞬間、玉座の間を取り囲んでいた最新鋭の自動

警備ロボットたちが、一斉に機能を停止した。

 レオナールが隠し持っていた端末によって、アポカリプスの制御中枢にウィルス

が流し込まれたのだ。


「今よ、カイ!」


 エルシエラが叫ぶと同時に、リベレイターが玉座の間の強化ガラスへ向けて、

至近距離から一斉射撃を放った。



 凄まじい轟音と共に、絶対の安全を保証していたはずの窓が砕け散った。

 瞬時に非常用シャッターが降りようとするが、それよりも速く、リベレイターの

接舷用アームが広場へと突き刺さる。

 大気が激しく吸い出される中、エルシエラは吹き飛ばされそうになったが、

自由になったレオナールがその腕を強く掴んだ。


「行くぞ、エルシエラ! ここはもう長くは持たん!」


「待ちなさい、裏切り者たちよ」


 皇帝の冷徹な声が、風の咆哮を切り裂いて届く。

 彼は玉座の肘掛けにあるスイッチを押した。

 床が割れ、そこからせり出してきたのは、禍々しい紫色の光を放つ円柱状の

装置――帝国が密かに開発していた究極兵器「星冠ステラ・クラウン」の

起動キーだった。


「この星域の全エネルギーを強制徴収し、リベレイターもろともこの都を浄化しよ

う。私がいなければ、帝国など不要。……愛する者と共に、灰になるがいい」


「……正気なの? ここにいる数百万の人々を、巻き添えにするつもり!?」


 エルシエラは驚愕に目を見開いた。

 彼女の父は、秩序の守護者ではなく、ただの巨大な虚無の支配者だったのだ。

 自分の地位を脅かすものがあれば、銀河のすべてを焼き尽くすことも厭わない。


 その時、接舷アームのハッチが開き、一人の男が飛び込んできた。

 黒い革のロングコートを翻し、両手に重力銃を構えたカイザルだ。

 彼は立ちふさがる近衛兵たちを容赦なく吹き飛ばし、一直線にエルシエラの元へ

駆け寄る。


「カイ!」


「悪いな、お嬢さん。迎えが少し遅れたぜ」


 カイザルは彼女の腰を片腕で抱き寄せると、そのまま彼女の唇を奪った。

 火花が散り、警告音が鳴り響く戦場の中で、その一瞬だけは永遠のように静謐

だった。

 彼は彼女を離すと、不敵に笑って皇帝へと銃口を向けた。


「あんたの『玩具』を起動させる前に、俺がその薄汚い心臓に風穴を開けてやるよ」


 だが、皇帝は動じなかった。

 彼の周りには強力な重力シールドが展開されており、カイザルの弾丸は歪んだ

空間に飲み込まれて消えた。

 「星冠」のカウントダウンが始まる。

 床を通じて伝わってくる震動は、星そのものが悲鳴を上げているようだった。


「……無駄だ。これは私の生体波と連動している。私が死ぬか、時間が来るか……

いずれにせよ、都は燃える」


「カイ、あそこを見て!」


 エルシエラが指差したのは、星冠の制御パネルだった。

 そこには、レオナールが必死にハッキングを試みているが、幾重にも及ぶプロテ

クトに阻まれている。


「レオナール兄様! その暗号、私が解けるかもしれないわ!」


「何を言っている、エルシエラ! これは軍の機密中の機密だぞ!」


「いいえ。……覚えている? お父様が昔、私だけに読み聞かせてくれた、あの古

い民話の旋律を。……この装置の拍動、あの音楽と同じなの!」


 エルシエラは、躊躇うことなく制御パネルへと飛び込んだ。

 彼女の脳裏に蘇るのは、冷酷になる前の父が、唯一見せた優しさの記憶。

 それは皮肉にも、究極の破壊兵器のパスワードとして組み込まれていたのだ。

 彼女の指先が、光り輝くキーボードの上を踊る。

 

 カイザルは彼女の背中を守るように立ち、次々と押し寄せる帝国の増援部隊を

迎え撃つ。

 

「急げ、エル! あと三十秒で星が爆発するぜ!」


「……わかっているわ。……お願い、開いて……!」


 彼女の指が、最後の一鍵を叩いた瞬間。

 星冠の紫色の光が、一瞬だけ黄金色に輝き、そして静かに消失した。

 システム・ダウン。

 

 広間に静寂が戻る。

 皇帝は、信じられないという表情で自分の娘を見つめていた。


「……私の最高傑作を、お前が……」



「お父様。あなたの傑作は、兵器ではなく、私だったはずよ」


 エルシエラは、涙を溜めた瞳で父を見つめた。

 皇帝は力なく崩れ落ち、その場に膝をついた。

 絶対的な支配者が、一人の少女の「愛」と「記憶」に屈した瞬間だった。

 

 だが、勝利に浸る時間はなかった。

 アポカリプスそのものが、外部からの集中砲火を受け始めたのだ。

 

「……何だ!? 味方の艦隊が、こちらを撃っているのか?」


 レオナールがモニターを確認し、愕然とした声を上げた。

 画面に映し出されたのは、第三継承権を持つ義理の兄妹たちの艦隊だった。

 彼らは、皇帝とレオナール、エルシエラが共倒れになるのを待っていたのだ。

 

「あいつら……! この混乱に乗じて、一気に権力を握るつもりか!」


「カイザル、脱出するぞ! ここが奴らの墓場になる!」


 レオナールの叫びに応え、カイザルはエルシエラを担ぎ上げ、リベレイターの

アームへと飛び込んだ。

 レオナールもそれに続く。

 

 リベレイターがアポカリプスから離脱した直後、巨大な爆発が玉座の間を呑み

込んだ。

 炎上し、ゆっくりと高度を下げ始める帝国の象徴。

 エルシエラは、窓越しに遠ざかる父の城を、いつまでも見つめていた。

 

「……さよなら、お父様。……さよなら、私の故郷」


 彼女の呟きは、激しい機体の揺れにかき消された。

 リベレイターは、燃え盛る帝都を脱出し、再び星の海へと逃れた。

 しかし、その背後には、新たな野心に燃える追撃艦隊が迫っていた。


 安全圏まで脱出したリベレイターの船内。

 クルーたちは、奇跡的な救出劇の成功に沸き立っていた。

 だが、ブリッジにいるカイザルとレオナール、そしてエルシエラの三人に、

笑顔はなかった。

 

「……帝国は終わったな。少なくとも、私たちが知っていた形では」


 レオナールが、モニターに映る各地の反乱と内乱のニュースを見ながら言った。

 皇帝の不在。それは、銀河全域に広がる無秩序の始まりを意味していた。

 

「……ごめんなさい。私が、あそこで装置を止めたせいで、もっと混乱が広がって

しまったのかしら」


 エルシエラは、自分の決断が正しかったのか、自問自答していた。

 もし星冠が起動していれば、すべてが一瞬で終わり、新たな平和が訪れたのかも

しれない。

 

 そんな彼女の肩を、カイザルが力強く抱き寄せた。


「馬鹿言うな。あんたが救ったのは、数百万の命だけじゃない。……俺たちの『未

来』だ。……地獄のような平和より、泥臭い自由の方が、俺は好きだぜ」


「カイ……」


「それに、まだ終わっちゃいない。……あの義理の兄妹ども、やりたい放題やって

くれやがって。……あいつらを叩き潰して、本当の銀河の夜明けを見せてやろう

じゃねえか」


 カイザルの瞳には、戦いの火が再び灯っていた。

 彼はエルシエラの額に軽く口づけをし、レオナールに向き直った。


「どうする、指揮官殿。……ここから先は、正規軍のやり方じゃ通用しないぜ。

……俺たちの『海賊の流儀』に、ついて来られるか?」



 レオナールは、乱れた金髪をかき上げ、不敵に笑った。

 

「……海賊の流儀、か。……悪くない。……私も、型通りの正義には飽き飽きし

ていたところだ」


 二人の王が、再び手を取り合う。

 エルシエラは、二人の間に立ち、自分の進むべき道をはっきりと見定めていた。

 

 彼女は、カイザルから贈られた木彫りのペンダントを、服の上からそっと撫でた。

 それは、どんな宝石よりも重く、温かい。

 

 窓の外、帝都の灯火は遠ざかり、代わりに無数の名もなき星々が輝き始めた。

 

「さあ、行きましょう。……私たちの、新しい旅へ」


 リベレイターは、進路を銀河の最果てへと向けた。

 そこには、帝国の支配から解き放たれた人々が、自分たちの光を求めて喘いで

いる。

 エルシエラとカイザル、そしてレオナール。

 三人の物語は、ここから本当の意味での「伝説」へと変わっていく。

 

 銀河の荒野を駆ける、一隻の船。

 その行く先には、まだ誰も見たことのない、自由という名の夜明けが待って

いた。

 



この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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