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第四章:兄妹の咆哮


 漆黒の宇宙空間に、不気味なほど整然とした光の列が並んでいる。

 帝国軍第一皇子、レオナールが率いる「白銀艦隊」だ。

 その旗艦「エクス・マキナ」は、幾何学的な美しさを湛えた巨大な槍のように、アルタリスの重力圏を支配していた。

 対するは、傷だらけの巨獣「リベレイター」。

 静寂が支配する空間の中で、二つの意志が火花を散らす。


「……通信を繋げ。相手は、懐かしい『亡霊』だ」


 エクス・マキナのブリッジで、レオナールは冷徹に命じた。

 リベレイターのメインモニターがノイズを吐き出し、一人の男の姿を映し出す。

 整えられた金髪に、一切の感情を排した碧眼。

 カイザルと同じ「王家の血」を引きながら、対極の道を歩む男――。

 

『久しぶりだな、カイザル。……いや、今は海賊王と呼ぶべきか』


 レオナールの声は、氷の破片のように鋭く、ブリッジの空気を凍りつかせた。

 カイザルは不敵な笑みを崩さず、椅子の肘掛けに深く背を預けた。


「レオ。相変わらず、その退屈な制服がよく似合っている。……帝国を掃除しに来たのか、それとも俺に会いたくて震えていたのか?」


『冗談はよせ。……エルシエラを返してもらおう。……彼女は、我が王宮の庭に咲くべき花だ。……お前のような泥棒が触れていいものではない』


 レオナールの視線が、カイザルの後ろに立つエルシエラを捉えた。

 彼女は一瞬、兄の眼光に射すくめられたように肩を震わせたが、すぐにカイザルの肩にそっと手を置き、一歩前へ出た。


「……お兄様。……私はもう、庭に咲く花ではありません。……自分の翼で、この宇宙を飛ぶ鳥になったのです」



 エルシエラの凛とした声に、レオナールの眉が微かに動いた。

 彼にとって、エルシエラは常に守られるべき、あるいは利用されるべき「無垢な妹」でしかなかった。

 その彼女が、海賊の隣で、これほどまでに強い眼差しを自分に向けるなど、想像すらしていなかったのだ。


『……狂ったか、エルシエラ。……その男が、我が故郷を、我らの理想をどれほど汚してきたか、忘れたわけではあるまいに』


「汚したのは帝国よ! ……あなたが守ろうとしているその秩序が、アルタリスの人々からすべてを奪っているの! ……私はそれを、この目で見たわ!」


『秩序なくして平和は語れん。……残念だよ、二人とも。……理解し合えないのなら、せめて慈悲深く沈めてやろう』


 通信が一方的に途絶えた。

 直後、エクス・マキナの主砲が、目も眩むような閃光を放った。

 

「衝撃に備えろ――っ!」


 カイザルの叫びと同時に、リベレイターの船体が悲鳴を上げた。

 最新鋭の収束レーザーがシールドを削り、船内に火花が散る。

 海賊たちの怒号と警報音が交錯し、平和だった共同生活の残影は一瞬で戦場の狂気へと塗り替えられた。


「ミナ、回避パターン・デルタ! 全砲門開け! ……エル、あいつの『癖』は変わっていないか?」


 カイザルは操縦桿を握り、極限の集中状態で尋ねた。

 エルシエラは、揺れる船内で歯を食いしばりながら、必死に過去の記憶を呼び起こす。

 幼い頃、レオナールが好んで遊んでいたチェスの戦術。

 彼が軍事演習で見せていた、完璧主義ゆえの「隙」。


「……レオナール兄様は、常に最短ルートでの勝利を望むわ。……だから、囮を使った包囲には乗らない。……けれど、自分の『美学』に反する無秩序な動きには弱いはずよ!」



「無秩序、か。……そいつは海賊の得意分野だぜ!」


 カイザルは不敵に笑い、リベレイターの推進装置を異常なサイクルで点火させた。

 船体は予測不能なスピンを描きながら、敵艦隊の弾幕の中へと突っ込んでいく。

 それは、帝国の正規軍であれば到底選ばない、自殺行為に等しい機動。

 だが、その型破りな動きが、レオナールの計算を狂わせ始めた。


 一方、エルシエラはブリッジの片隅で、別の戦いを開始していた。

 彼女は帝国の通信回線へ、ある「メッセージ」を送り続けていたのだ。

 それは、先ほど助けたアルタリスの避難民たちの悲鳴。

 そして、彼女自身の、切実な訴え。


『……帝国の兵士の皆さん。……あなたたちが狙っているのは、海賊だけではありません。……昨日まで同じ空の下で笑っていた、罪のない人々です』


 彼女の声は、広域通信によって帝国艦隊の全艦へと届けられた。

 レオナールの厳格な統制下にある兵士たちであっても、一国の皇女の、それも「銀河の宝珠」と称えられる彼女の震える声は、無視できるものではなかった。

 各艦の照準が、微かに、けれど確実に鈍り始める。


「……何をしている! 通信を遮断しろ! 彼女は洗脳されているのだ!」


 レオナールの苛立った声が、帝国軍のネットワークに響く。

 しかし、一度芽生えた迷いは、簡単には消えない。

 リベレイターは、その僅かな隙を突いて、エクス・マキナの懐へと深く潜り込んだ。


「取ったぜ、レオ。……俺たちの『自由』を、甘く見るなよ」


 カイザルの手が、主砲の引き金にかけられた。

 二人の兄弟の想いが、そしてエルシエラの覚悟が、光の奔流となって激突する。

 宇宙の静寂を切り裂く、一進一退の攻防。

 その最中、エルシエラはモニター越しに、エクス・マキナの装甲板の一部が不自然に歪んでいるのを発見した。


-

「カイ、あそこを見て! 第三放熱板の横……あれは、内部爆発の痕?」


 エルシエラの鋭い指摘に、カイザルは目を凝らした。

 確かに、最新鋭艦であるはずのエクス・マキナに、致命的な欠陥らしき損傷が見受けられる。

 レオナールが気づいていないはずがない。

 ……いや、彼は気づいていながら、それを「隠して」戦っているのだ。


「……なるほどな。レオの野郎、無理な連戦で船がガタガタなんだ。……本国からの補給も絶たれているのかもしれない」


 帝国中央でも、権力争いは激化している。

 第一皇子であるレオナールを疎む勢力が、わざと彼を窮地に追い込んでいる可能性があった。

 エルシエラは胸が締め付けられる思いだった。

 冷酷に見える兄もまた、帝国の闇に飲み込まれようとしている犠牲者の一人なのだ。


「……お兄様を、助けられないかしら」


「あいつをか? ……あいつは、自分から助けを求めるような男じゃないぜ」


「わかっているわ。……でも、このままじゃ二人とも死んでしまう。……カイ、私に考えがあるの。……とても大胆で、型破りな作戦が」


 エルシエラは、カイザルの耳元で密かに計画を伝えた。

 それを聞いたカイザルの瞳が、驚愕に大きく見開かれる。

 

「……正気か? そんなことをすれば、あんたの身が危ない」


「私を信じてと言ったでしょう? ……私はもう、守られるだけの姫じゃない。……二人の王を、正気に戻してみせるわ」


 彼女の鳶色の瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。

 カイザルはしばし沈黙した後、観念したように短く息を吐いた。

 

「……わかった。……ただし、合図が遅れたら、俺が無理矢理にでも引きずり出すからな」



 リベレイターが突然、すべての武器を沈黙させ、エンジンを停止した。

 漂流するかのような無防備な姿。

 帝国艦隊に動揺が走る。


『……どういうつもりだ、カイザル。降伏か?』


 レオナールの不審げな声。

 その時、リベレイターのハッチが開き、一基の連絡用小型艇が射出された。

 そこに乗っているのは、武装もしていない、一人の少女。

 銀髪を翻したエルシエラだ。

 彼女は、レオナールの旗艦に向かって、真っ直ぐに飛んでいく。


『お兄様! 私を撃ちなさい! ……もし、あなたの掲げる秩序が、実の妹の命よりも重いのなら、ここで終わらせて!』


 彼女の声は、全宙域に響き渡った。

 帝国軍の兵士たちは、息を呑んでその光景を見守る。

 小型艇は、エクス・マキナの巨大な主砲の真正面で静止した。

 

 レオナールの手が、発射ボタンの上で震えていた。

 冷徹な計算、完璧な美学、次期皇帝としての責任。

 それらが、目の前の少女の無垢な勇気によって、音を立てて崩れていく。

 

(……私は、何を求めていた? ……この妹を殺してまで守るべき秩序とは、一体何だ……?)


 彼の脳裏に、幼い頃、宮廷の庭でエルシエラと笑い合った記憶が蘇る。

 彼女にせがまれて星の名前を教え、いつか共に宇宙を旅しようと約束した、

汚れを知らぬ日々の情景。

 

「……砲撃……中止……」


 絞り出すようなレオナールの命令が、艦内に響いた。

 その瞬間、張り詰めていた糸が切れ、両軍の間に奇妙な静寂が訪れた。



 エルシエラの小型艇が、エクス・マキナの格納庫へと着艦した。

 銃を手にした兵士たちが取り囲む中、彼女は毅然とした足取りで通路を歩き、

ブリッジへと向かう。

 自動ドアが開くと、そこには椅子に深く腰掛け、項垂れるレオナールの姿が

あった。


「……負けだよ、エルシエラ。……私の、負けだ」


「いいえ、お兄様。……あなたは、ようやく自分を取り戻したのよ」


 エルシエラは兄の元へ駆け寄り、その凍てついた手を優しく包み込んだ。

 レオナールは驚いたように妹を見上げ、やがてその瞳に微かな涙を浮かべた。

 王族としての重圧、孤独な戦い。

 彼は初めて、それらを吐き出すことができたのだ。


 一方、リベレイターのブリッジでは、カイザルが安堵の溜息をついていた。

 

「……まったく、とんでもないお姫様だぜ」


 彼はモニター越しに、エクス・マキナの中で抱き合う兄妹の姿を見つめた。

 これで、すべてが終わったわけではない。

 本国からの追手、そして帝国の闇は、依然として彼らを狙っている。

 けれど、今この瞬間、銀河を揺るがした兄弟の咆哮は、静かな和解へと変わった。


「船長、どうしますか?」


「決まっているだろ。……二人とも、俺の船に収容する。……帝国が追ってくるなら、まとめて相手をしてやるさ」


 カイザルは不敵に笑い、リベレイターをゆっくりと発進させた。

 アルタリスの残光に照らされながら、二つの船は一つの進路を取る。

 それは、帝国の支配も、過去の因縁も届かない、本当の「自由」へと続く道。

 

 禁断の愛は、今や家族の絆をも巻き込み、銀河に新たな奇跡を起こそうとしていた。







この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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