第六話 ギルドへようこそ
石畳の大通り。
人やモンスター風のNPCたちでごった返す街。
才塚アスカはきょろきょろと辺りを見渡しながら、完全に観光客モードだった。
「わぁ……ほんとに街だ! 建物もお店も、リアルそのもの!」
「感心してる場合じゃないでしょ。まずは登録を済ませなさい」ノヴァが冷たく言い放つ。
「そーそー! 冒険者はギルドから! 常識だよ!」火野ミライも大きく頷いた。
三人が向かったのは、街の中央広場に建つ白い大きな建物――《冒険者ギルド》。
重厚な扉を押し開けると、中は活気に満ちていた。
受付カウンター、依頼掲示板、談笑する冒険者たち……ゲームや小説で見たまんまの世界がそこに広がっている。
「わぁ……! なんかテンション上がる!」
「あなたはただの初心者。落ち着きなさい」
「ノヴァ、楽しんでないでしょー? もったいないよ!」
わちゃわちゃする二人を横目に、ミライが真っ先に受付へ駆けていく。
「すみませーん! 冒険者登録したいんですけど!」
カウンターの奥から、ふわりと花が咲くような声がした。
「はいっ! ようこそ、冒険者ギルドへ!」
現れたのは、小柄で明るい雰囲気の少女。
栗色の髪をツインサイドに結び、白とピンクの制服に身を包んだその姿は、まるで街のアイドルのよう。
「私、受付担当のリリィですっ! これからよろしくお願いしますね!」
「か、可愛い~~!」アスカが思わず声を上げる。
「ほらアスカ、鼻の下伸びてる」ノヴァがジト目で突っ込む。
「の、伸びてないってば!」
リリィはにこっと笑い、手元のクリスタル端末を操作する。
「では、お名前と職業スキルをお願いします!」
「え、名前……!?」アスカは一瞬固まった。
「ど、どうしよ……かっこいい二つ名とか考えてない……!」
「リアルネームでいいじゃない」
「やだよ恥ずかしい!」
ドタバタの末、結局「才塚アスカ」で登録されることに。
「えぇ~! もっとカッコいいのにしたかったのにー!」
「無理して背伸びするより、ありのままの方が強いですよ?」リリィが微笑む。
「……は、はいっ!」(励まされた……天使か!?)
登録を終え、三人は依頼掲示板を見上げる。
初心者向けの討伐や採取クエストがずらりと並び、目移りするアスカ。
「まずは……キノコ狩りとかどう?」
「いいんじゃない? 体力少なめなアスカ向きだし!」ミライが笑う。
「馬鹿にした!?」
そんなやり取りをしていると、ギルドの奥から低い声が聞こえてきた。
「……また“八部鬼衆”が動いたらしい」
「今度は北の村が襲撃されたとか……」
冒険者たちのひそひそ話。
その単語に、ノヴァの目が鋭く光る。
「八部鬼衆……やはり、この世界に“闇の存在”がいたのね」
「や、八部鬼衆って……なに?」アスカがおそるおそる尋ねる。
「詳細はまだ分からない。ただ、普通のモンスターとは比べ物にならない強さと……悪意を持つ集団よ」
「な、なんか怖いよぉ……」
リリィは不安げなアスカに微笑みかける。
「大丈夫です。ギルドはみなさんを守りますから。……でも、気をつけてくださいね」
その笑顔に救われるように、アスカはこくんと頷いた。
にぎやかな街と、ほんのり漂う不穏な影。
――才塚アスカたちの冒険は、さらに加速していく。