第四十七話 九足八鳥シュウスケ VS 梵夜叉
・ルキフェル・ノクティス
ノクティス城の王。アストラル城を敵対視しており、八部鬼衆を雇い進軍中。
【八部鬼衆】
・紅蓮カナメ
忍装束を纏った女。火野ミライと同じ「ブレイズ」のスキルを持ち、クナイを使う。ミライとの戦闘で敗れる。
・梵夜叉
古風な剣士。腕の立つ戦闘員。冷静沈着。
北門を包む炎の渦。その向こうで、空気がひりつくような殺気が交差していた。
焦げた瓦礫の上に、二つの影が向かい合う。
「おやおや♪ これはまた、久しぶりだねぇ梵夜叉クン」
九足八鳥シュウスケは、口元に軽い笑みを浮かべていた。
長い前髪の奥で瞳が揺れる。背に光のような残像をいくつもまといながら、ゆったりと肩を回した。
「貴様は──九足八鳥」
低く響く声。一本の刀が、朝日を反射して鈍く光った。
その一振りは無駄な装飾ひとつなく、ただ“斬る”ためだけにある。
「梵夜叉クン なんだかまた一段と強くなったみたいだね」
「戯れは、戦の外でせよ」
梵夜叉の足が、静かに地を蹴った。
その瞬間、世界が切り替わる。
まるで空気そのものが刃になったような速さだった。
「速いっ──!」
シュウスケは身体を捻り、すれすれで斬撃を避けた。
その背後に、もう一人の自分が残像として立っている。
「へぇ♪ やるじゃん。じゃ、僕も本気で行くね」
「──無駄だ」
梵夜叉の刀が一閃。
「ほぉ〜……やっぱ、ただの侍じゃないねぇ♪」
「おぬしの力、やはり厄介だ。」
ニヤリと笑った瞬間、シュウスケの身体がふっと掻き消えた。
「……面倒な奴だ」
梵夜叉は目を閉じる。
そして、呼吸をひとつ。
「無心──」
静寂が訪れた。
炎の音も、風の唸りも遠のく。
その中でただ一つ、真の気配を見抜いた。
「そこだ」
──斬音。
刃が光を裂き、シュウスケの頬をかすめる。
笑顔のまま、彼は後退しながら掌を合わせた。
「やっぱりキミ、強いねぇ……♪」
血を一滴拭いながら、彼の瞳が一瞬だけ真剣な色を宿す。
「でも──ここからが“本当の僕”だよ」
周囲の空間が歪み始めた。
「“ワープ”ってねぇ、距離を越えるだけの力じゃないんだ♪」
声が四方八方から響く。
「僕の空間は“ねじれる”。つまり、斬撃の軌道も──予測不能ってわけ♪」
刹那。
九人のシュウスケが一斉に飛びかかった。
残像ではない。
次元の歪みが、同時に八つの“存在”を現実に引き出しているのだ。
梵夜叉は後ろへ滑る。
刃と刃が交差するたび、金属の音が風を切り裂く。
「……!」
梵夜叉が目を細めた瞬間、ひとつの気配が真後ろに現れた。
「正解♪」
声と同時に、シュウスケの手が妖刀を抜き放つ。
漆黒の刃。
刀身に、まるで乾いた血のような朱の文様が浮かび上がっていく。
「――これが僕の相棒、“妖刀・村雲”♪」
空気が、ぱきん、と音を立てて乾いた。
焔の熱が引いていく。
まるで、空そのものが水分を失ったかのように。
「斬られた者は、“渇く”」
「渇く……?」
梵夜叉の額に汗が滲む。だが、次の瞬間、その汗が蒸発するように消えた。
「そう、命の水が、ね♪」
光が走る。
八つの残像が一斉に剣を振り下ろした。
「奥義──《八分乾》!」
八本の刃が空を裂く。
斬撃の軌道が交差し、八方向の空間が歪んだ。
その中心で、梵夜叉の姿が一瞬だけ止まる。
「ぐっ──!」
腕を庇った梵夜叉の肌が、ひび割れた土のように乾き始めた。
皮膚が音を立ててひび割れ、剣を握る手から水分が奪われていく。
「……妖刀か。卑劣な……!」
「ううん、芸術だよ♪」
軽やかな声。だが、瞳の奥には冷たい光が宿っていた。
「水を失えば、動きも止まる。だからキミは──ここまでだ」
妖刀の切っ先が喉元へ迫る。
だが、梵夜叉はその瞬間、己の刀を逆手に構えた。
「……ならば、命を削ってでも“渇き”を断つ」
足元から、空気が震えた。
次の瞬間、刃が衝突し、夜空に亀裂が走る。
光が爆ぜ、二人の影が弾き飛ぶ。
静寂のあと、砂のような音が降り注いだ。
梵夜叉の肩が血に染まる。
「ふふっ……やるじゃん。やっぱ本物だね、梵夜叉くん♪」
「おぬしも……やはり只者ではない」
互いに距離を取り、呼吸を整える。
風が吹き抜け、乾いた地面に砂埃を巻き上げた。
決着は──まだ、ついていない。




