第四十五話 作戦会議
夜が完全に明けきる前、アストラル城の戦略会議室。
窓の外はまだ群青の気配を残し、ランプの火が静かにゆらめいている。
長い円卓には、王国の要人と英雄たちが一堂に会していた。
「よし、作戦会議といこうじゃないか。」
レオナルド・アストラルが立ち上がり、淡く笑みを浮かべた。
その声が、張り詰めた空気を少しだけ和らげる。
「攻撃こそ、最大の防御!」
火野ミライが拳を高く突き上げる。
「ミライ、元気なのは良いことだけど、単純なのが玉に瑕ね。」
ノヴァが肩をすくめた。
「また東西南北で分かれる?」アスカが提案する。
「いや、勢力を分散させると今回はまずいかもな。」
シュウスケが顎の下を軽く触りながら言った。
「私も同意見です。魔力が強い方向……つまり北方から進軍してきているのだから、北門から迎え撃つのが妥当かと。」
クレアが冷静に続ける。
「うぬ、ノヴァ殿。いま一度きくが、魔力反応があるのは北方向でよろしいか?」
ルシアン王が問う。
「はい、陛下。スキャンした結果、間違いありません。北方に複数の魔力源――しかも異質です。おそらくノクティス軍本体でしょう。」
「……左様か。決まりだな。」
王が重々しく頷いた。
その声は静かだが、誰の心にも熱を灯した。
沈黙を破ったのは、ヴィオラ・アストラルだった。
「お父さま。もし北方が陽動なら? 南や西から奇襲を受ける可能性は?」
彼女の言葉に、場の空気が引き締まる。
「その可能性も考えている。」
レオナルドが地図を指差した。
「ノヴァ、幻影障壁を展開してくれ。外周部に“偽の魔力波”を発生させて、敵の索敵を混乱させる。」
「了解。出力を上げるには、アスカの支援が必要ね。」
「任せて。」アスカが即答する。
「僕とミライは、先行して北門に出る。」
シュウスケが立ち上がった。
「ただの斥候じゃない。相手の“性質”を確かめてくる。」
「性質?」クレアが目を細める。
「人か、化け物か。それとも……プログラムの産物か、だよ。」
その言葉に誰も返せなかった。
「……頼んだぞ。」ルシアン王の声は低く、重い。
「我らは、“暁”だ。夜を恐れず、光に呑まれぬよう立ち続ける。」
「ふっ、いいねぇ王さん。じゃ、夜明けの始末をつけてくるよ。」
シュウスケが軽く仮面を傾け、笑う。
その笑みの奥には、確かな決意があった。
やがて扉が開かれ、冷たい朝の風が吹き込む。
ミライとシュウスケが出ていく背に、ヴィオラが小さく呟いた。
「……“世界”が、また動き出すのね。」
その時、北方の空で雷が轟いた。
向こうに、一瞬だけ黒い影が浮かぶ。
――ノクティスの旗印。
そして、“八部鬼衆”と呼ばれる影が、静かに進軍を始めていた。




