第四十四話 暁の兆し
夜明け前のアストラル城。
薄明の光が石壁を淡く照らし、風が静かに帷を揺らしていた。
だがその静けさの奥に、確かに“異音”があった。
「……鳴ってるな。」
低く呟いたのは、九足八鳥シュウスケ。
半分能面、半分般若の仮面の奥から、瞳だけが鋭く夜を射抜く。
「何が?」とクレアが問う。
「この世界の“鼓動”だよ。ズレてる。
昼と夜、光と闇――均衡が、ちょっとずつ壊れてる。」
重く沈むその声に、場が凍りついた。
ノヴァが即座に通信端末を操作する。
「北方監視塔、再スキャン……魔力濃度、上昇中。これは……!」
「ノクティス軍だな」
レオナルドが静かに剣を抜いた。
「奴らが動く前触れだ。」
だが、その言葉にシュウスケは首を横に振る。
「違う。“奴ら”じゃない。
この世界そのものが、戦いを望んでるんだ。
……誰かが、そう“書き換えた”みたいに。」
王ルシアン・アストラルが立ち上がる。
深い紫のマントが音もなく翻った。
「光と闇の均衡……システムの意思、か。」
アスカの胸に、キョウシロウの声が蘇る。
『アストラルとノクティス――二つに割って、衝突させるようプログラムされてる』
「この世界が、もし誰かの手で創られたのなら……
私たちは“物語”の登場人物かもしれないね」
ミライの言葉に、誰も答えられなかった。
一瞬、風が止む。
次の瞬間――空の果てに黒雲が走った。
その奥で、雷光が城影を照らす。
「ノクティス軍の魔力反応を確認!」
兵の声が響く。
ルシアンは短く息を吐いた。
「まだ動くな。彼らの出方を見よう。
光は焦って燃えるが、夜は待ち続ける。……だが、アストラルは違う。」
彼は剣を掲げた。
「我らは、“暁”だ。
夜を恐れず、光に呑まれぬよう立ち続ける。」
シュウスケがゆっくりと仮面の奥で笑う。
「いいねぇ王さん。
じゃあ、俺は夜を斬る準備をしておくよ♪」
淡い月の光が差し込む。
しかしその光は、どこか不吉な赤を帯びていた。
――アストラルとノクティス、光と闇の均衡が崩れ始める。
それは、“世界”が物語を動かす最初の音だった。




