第四十三話 闇の城、目覚める刻
ノクティス城・玉座の間では、冷たい蝋燭の灯が揺らめき、鉄の鎧が並ぶ。
「──アストラル城の防衛線、突破は不可能との報告です。」
重苦しい声を上げたのは、黒衣の将軍アガレス。
彼の報告に、玉座の前に並ぶ兵たちの間から低いざわめきが起こる。
「光の王国め……あの防壁、いったいどれほどの魔力を注いでいるのだ」
「側面から攻め込むべきだ。いまなら北の砦が手薄だという情報もある」
「いや、そんな小競り合いに時間をかけてどうする。奴らを叩き潰すには正面突破しか──」
議論が熱を帯びる中、玉座の奥、漆黒の帳が静かに揺れた。
その瞬間、全員の声が止まる。
空気が凍る。光が沈む。
「……焦るな。」
静かに響いた声は、氷より冷たく、夜より深かった。
暗がりから、一歩、二歩と足音が響く。
その姿が現れたとき、誰もが息を呑んだ。
銀白の髪が月光のように光を返し、ゆるやかに揺れる。
その眼は、空の星をそのまま閉じ込めたかのような、異様な光を宿していた。
「光は、いつも自ら燃え尽きる。」
その一言に、将軍たちは誰一人反論できなかった。
玉座に腰を下ろすルキフェル・ノクティスの前では、
全ての声が、祈りにも似た沈黙へと変わる。
「アストラルの王は、まだ動かぬ。だが……息子と娘がいる」
低く囁くように、ルキフェルは唇を歪めた。
「光の血脈を断てば、王国は崩れる。戦はまだ早い。
──彼らが最も輝く瞬間を、私は見届けたい。」
その言葉と同時に、背後の黒い壁が脈動した。
まるで夜空そのものが息をしているように、
闇の星々がうねり、王の瞳と呼応する。
「準備を進めろ。
この世界に、再び“闇”を取り戻すために。」
ルキフェルの命に、将軍たちは一斉に跪いた。
そして、重々しい扉が閉ざされる音とともに、
ノクティス城は再び、闇の静寂に沈んだ。




