第四十一話 迫り来る影
アストラル城・謁見の間。
高い天井に反響する重い足音が、今は妙に心をざわつかせる。
王ルシアン・アストラルは深く椅子にもたれ、沈痛な表情を浮かべていた。
その傍らに、息子レオナルド。娘ヴィオラ。
そして、才塚アスカ、火野ミライ、クレア・ナイトフォール、ノヴァ、九足八鳥シュウスケが並ぶ。
「まさか……この世界そのものが、君たちを閉じ込めたとはな」
王の声は重く、玉座の光を曇らせた。
アスカが拳を握る。
「私たちはまだ……何もわかってません。帰る方法も、敵の正体も」
「だからこそ、ここに集まってもらったのだ」
王はゆっくり立ち上がる。
背後のステンドグラスから、柔らかな光が差し込み、まるで“最後の平穏”のように感じられた。
「異常はアストラル城だけにとどまらぬ。
北方の通信塔が沈黙した。周辺の村々とも連絡が取れない。
これは単なるシステム障害ではない――“意思ある誰か”の干渉だ」
「……まさか、他のプレイヤー?」ミライが眉をひそめる。
「かもしれない」ノヴァが答える。「もしくは、アクトレコードの管理層が……」
沈黙。
空気が一瞬、凍った。
王は剣を手にし、アスカたちへと視線を向ける。
「才塚アスカ。君たちはこの城を救った英雄だ。
願わくば――もう少し、このアストラルの民を見守ってくれぬか」
「……もちろんです」
アスカは迷いなく頷いた。
彼女の横で、ミライがにっと笑う。
「王様、任せてくださいっ! こう見えて結構頼りになるんで!」
「こう見えて ね」クレアが突っ込む。
一瞬だけ、場の空気が和らいだ。
だが――その時。
耳の奥で、電子音が鳴る。
「……キョウシロウさん?」
アスカが驚いたように辺りを見回す。
《──聞こえるか、アスカ》
通信越しに、低く落ち着いた声。
《こちらも確認した。アクトレコードの制御層が動いている。
何者かが“データごと”城を操作しているようだ。》
「操作……? まるで、ゲームのマップを動かすみたいに?」
《そう。だが、これはもう遊びじゃない。……生きてるんだよ、ここは。》
ノヴァがその言葉に息を呑む。
「……清代。あなた、どこにいるの?」
《安全圏だ。だが、長くは持たない。……お前たちは“中核”に近い。気をつけろ》
通信がブツリと途切れる。
誰もすぐには言葉を発せなかった。
「……キョウシロウさん、無事だといいけど」アスカが呟く。
「無事ならまた通信がくるさ」ミライが肩を叩く。
だが、ノヴァの目が鋭く細められる。
「……今の通信、誰かに“盗聴”されていた可能性がある」
その瞬間、玉座の奥でシステムノイズが一瞬走った。
「……今のは?」レオナルドが剣に手をかける。
「いや、ただの気のせいさ」シュウスケが呟く。
だがその仮面の奥、赤いコードの光がわずかに脈打っていた。
──次なる嵐の足音が、確かに近づいていた。