第四十話 メイキング
「やっと一息つけるね〜!」
ミライが笑顔でソーダを飲み干す。
城下町の広場には人の波。アスカたちは束の間の休日を楽しんでいた。
「このドーナツ、ふわふわだよ!」
「おいし〜! ノヴァも食べて!」
「……私は味覚データがないの」
「いいの! 雰囲気だから!」
クレアが笑い、ノヴァがわずかに口角を上げる。
そんな何気ないやり取りが、当たり前の日常に思えた。
だが——空のノイズが、それを壊す。
ザザ……ザザザッ……
まるで空そのものが映像の“画面”だったかのように、グリッチが走る。
ノヴァが即座に反応した。
「……おかしい。システム層に異常が」
「バグ? イベント?」アスカが不安げに呟く。
「違う……誰かが、外から“触ってる”」
その言葉の意味を、誰も理解できなかった。
──アストラル城の警鐘が鳴る。
アスカたちは駆け出した。
門の前、シュウスケが立っていた。
夕陽に照らされ、半分の能面と般若の仮面が淡く輝いている。
「シュウスケ……! なにが起きてるの!?」
彼は静かに仮面を外しかけた。
その片目には“流れる赤いコード”が宿っていた。
「……今これを話すのもなんだけどね」
「え?」
「僕は、“人間”じゃない」
その声に、風が止まる。
「NPCってやつだよ。正確には、AI搭載型NPC」
「なに、言ってるの……?」
「僕はここで“生まれた”んだ。赤子として。食って、寝て、成長して。一体、君たち人間と何が違うんだろうね?」
アスカは言葉を失った。
ミライが小声で呟く。「……NPCが、赤ちゃんから?」
「プログラムに“成長過程”なんて、存在しない……」ノヴァが震える。
「あるんだよ。誰かが——この世界を生かそうとしたから」
その瞬間、空が真紅に染まる。
画面上に、文字が浮かぶ。
《MAKING SYSTEM 起動》
《帰りたければ、生き残れ》
《HP=LIFE 0で永遠にログアウト不可》
「え……え? なにこれ……冗談だよね?」
「ノヴァ、ログアウトして!」
「……できない。コマンドが、消去されてる」
空から音が消える。
遠くで誰かの悲鳴が上がる。
プレイヤーの一人が、光に包まれて——消えた。
「データが……削除……?」クレアの声が震える。
アスカが息を呑む。
ミライの拳が震える。
ノヴァの瞳に、微かな光が宿る。
ノイズの雨が降る中、物語は新しいフェーズへ突入した。