第三十七話 北門の兄貴
アストラル城の北門。
静かな警戒線の中、九足八鳥シュウスケが影のように立っている。
手にはタコ包丁。小さく光を反射させ、まるで悪戯な微笑みを浮かべているかのようだ。
「ふふ……今日も退屈はしなさそうだね」
シュウスケは小声でつぶやき、門の奥に潜む気配を探る。
――敵が姿を現した。
軽装の盗賊数名。しかし、リーダー格は特別だ。
鋭い目つきで、王を狙う姿勢を見せている。
「……ここで待ち構えるか」
シュウスケは体を沈め、敵が踏み込むのを待つ。
戦闘開始。
タコ包丁の刃先がひらりと舞い、敵の攻撃をかわす。
雑魚たちはあっという間に片付け、リーダー格との一騎打ち。だがしかし、一瞬にしてシュウスケの刃の餌食となった。
リーダー格が倒れ際、低く呻くように言う。
「敵を倒すには……まずは内部から……」
シュウスケは一瞬眉をひそめる。
「まさか……」
──静寂を破る、微かな足音。
王の背後で、黒い影が滑るように動く。
一歩、また一歩……刃先を握る手がわずかに光を反射する。
レオナルド・アストラルが気づき、慌てて王に目を向ける。
「陛下、後ろ──!」
しかし間に合わない。影は王のすぐ背後、あと一歩で距離を詰めている。
王は息を止め、肩越しに敵の気配を感じる。
「……っ、なに……?」
その手には冷や汗がにじむ。
──次の瞬間、シュウスケの黒い渦が体の周囲に現れた。
次元移動
体の一部を瞬時に移動させ、全身ごと王の背後へ。
王の背後、敵の刃が肩に届く寸前で、シュウスケのタコ包丁が鋭く振り下ろされる。
「……これで終わりだ」
敵の刃は空を切り、王は肩越しに危機から解放されたことを感じる。
「……はっ……!」息を吐く王。
視線の先には、影のように現れ、影のように去るシュウスケの姿があった。
レオナルドは呆然と立ち尽くす。
「なっ……まさか……!」
王の命は九足八鳥シュウスケによって守られた。