第三十五話 西門の影騎士
アストラル城の西門。
薄曇りの空の下、石造りの城壁に影が落ちる。西門を守るのは、気高い女騎士――クレア・ナイトフォール。鎧の光を抑え、静かに手綱を握るその姿は、まるで戦場に立つ影そのものだ。
「この門は譲れない」
クレアは低く呟き、城門の向こうから忍び寄る気配に目を光らせる。
「――来たな」
敵は小柄だが鋭い剣を持つ盗賊一団。赤いバンダナを身に着け、ひそひそと動く。誰もが同じ方向を警戒し、クレアを取り囲もうとする。
クレアは一歩前に出る。
「さあ、相手をしてもらおうか」
口元にかすかな微笑みを浮かべる――戦場の華やぎと緊張が混ざった、彼女らしいギャップだ。
最初の一撃が飛ぶ。盗賊の一人が斬りかかるも、クレアは静かに剣を交わす。
その動きは無駄がなく、滑るようにステップし、すぐさま反撃。敵の剣を受け止め、軽く跳ね返す。
「なっ……速い!」
盗賊たちは一瞬たじろぐ。だが、数で押す作戦に切り替え、次々に攻めてくる。
クレアは笑みを崩さず、しかし真剣な眼差しで応戦する。
斬撃は正確無比、守りは鉄壁。華麗さと冷静さを兼ね備えたその立ち回りは、まるで舞う影そのものだ。
一瞬の隙を突き、クレアは剣の柄で敵の刀を弾き、続けて回転斬り。
「――これで終わりよ」
蹴りと斬撃で盗賊たちは城門の外へと吹き飛ばされる。
戦いが終わると、クレアは深呼吸し、微かに笑みを浮かべる。
(……まだ油断はできない。式典を無事に終わらせるまでは)
城門の石畳に、影の騎士の戦いの跡だけが残る。
その美しさと静けさの中に、クレアの強さと冷静さが際立った瞬間だった。




