第三十四話 東門の火花
アストラル城の東門前。式典の熱気とは裏腹に、城壁の陰は静まり返っていた。
火野ミライは腕を組み、赤い炎を手のひらにまとわせる。目の前に立つのは、かつて廃坑で遭遇した紅蓮カナメ。赤い羽織が風に揺れ、薙刀の先から微かに炎が立ち上る。
「楽しませてもらうわ」
カナメは笑みを浮かべ、薙刀を軽く振る。炎が螺旋を描き、東門の石畳を赤く染める。
「油断はしない!」ミライが炎の玉を作り、カナメに向かって投げつける。
カナメは薙刀で一閃、炎を受け止めて跳ね返す。火の粉が二人の間に舞い散る。
「ふふ……まだまだ子供ね」
「うっ……!」ミライの額に汗がにじむ。炎の軌道を読みながら、彼女は薙刀をかわすたびに反撃のチャンスを探る。
二人の炎がぶつかるたび、東門前の空気が揺れる。
赤と橙、火花の舞う戦場で、ミライは心の中でつぶやく。
(ここで手を抜いたら、仲間を守れない……!)
カナメは挑発的に薙刀を振り回す。
「もっと熱くなりなさい!」その声に、ミライの炎もさらに勢いを増す。
一瞬の間合いを突いて、ミライは薙刀の先端を狙った炎の連撃を放つ。
「くらえ――!」
カナメは一歩下がり、炎を受け止めながらにやりと笑う。
「ふふ……まだまだこれからね。今日はここまで――」
薙刀を振るうと、炎の渦が一瞬で消え、カナメは後ろに退く。
「退却か……!」ミライは肩で息をしながら炎を消す。
「……ふぅ。やっぱり簡単には勝てない相手だわ」
東門前に静寂が戻る。赤く焦げた石畳に、二人の戦いの痕跡だけが残る。
「これで仲間も安全……!」ミライは息を整え、再び仲間のいる南門や西門へ目を向ける。
背後では、城門の影にシュウスケが立ち、軽く手を振る。
「ふふ、弟子たち、さすがの仕事ぶりだね」
炎の戦いは一旦終わった。だが、紅蓮カナメの挑発は、まだまだ終わりではない――