第三話 初めてのバトル!? キャンディとスプーンで挑め!
電脳世界〈アクトレコード〉を探索するアスカとノヴァの前に、最初の“敵”が出現する。
アキコの固有スキル〈メイク〉で作れたのは回復用のキャンディと、小さな木のスプーン。
「こんなので戦えるの!?」と不安になりつつも、ポジティブ精神で挑むアスカ。
果たして彼女は初めてのバトルを乗り越えられるのか――!?
広がる草原を歩いていたときのことだった。
どこかで「ピコン」と電子音が鳴った気がする。
「……ねえノヴァ。なんか今、ゲームのエンカウント音っぽいの聞こえなかった?」
「うん、聞こえたね。アスカ、前を見て」
ノヴァが指差した先。そこには――光の粒子がもやもやと集まり、小さな生き物の形を取っていく。
「わ、うさぎ……?」
「正確にはテストモンスター。正式サービス前だから、こういう低レベルの敵が散歩してるの」
「えっ……敵!?」
アスカの声がひっくり返る。
出てきたのは、うさぎに似ているけれど目がバグったように点滅していて、動きが妙にカクカクしている存在。
「かわいい」というよりは「ちょっと怖い」。
「き、聞いてないよ! 私まだ武器スプーンしかないんですけど!?」
「だったら、そのスキルを使ってごらん。〈メイク〉を」
「えええ~!? 無理無理無理、戦闘とかまだ心の準備できてないから!」
パニックになりつつも、アスカは両手を合わせる。
「……お願い、出てこい! 〈メイク〉!」
光が走り、手のひらに現れたのは――
「……キャンディ?」
七色に輝く大玉キャンディがころんと乗っていた。
「ふふ。甘そう」
「いやいや! 武器じゃないでしょこれ!」
困惑するアキコにノヴァが冷静に告げる。
「それ、回復アイテムだよ。舐めれば少し元気が出る」
「え、マジ!? ……え、なんか意外と便利じゃん!」
アスカが感心している間に、モンスターがぴょんと飛びかかってきた。
「ひぃぃ! わ、私まだキャンディ舐めてない!」
慌てて左手のスプーンを構える。
「ええいっ! 必殺――スプーンスマッシュ!」
カコーン、と乾いた音。
当たった。モンスターは小さくよろけて後退した。
「……あ、効いてる?」
「威力は雀の涙だけどね」
「涙!? いやでも、攻撃通るならなんとかなる!」
アスカは必死にスプーンを振るう。
バシッ、カコン、カチン。地味な打撃音が草原に響き渡った。
「ぜぇ……ぜぇ……。こ、これ、意外と体力使う……!」
「だったら、そのキャンディを舐めなさい」
「そ、そうか!」
慌ててキャンディを口に放り込む。
じんわりと体が軽くなる感覚。
「おおっ!? 元気出た! これめっちゃすごい!」
「回復量は少ないけど、持久戦向きかもね」
結局、アスカはひたすらスプーンを振り回し続け――
ようやく、モンスターは光の粒子となって消えた。
「や、やったああああ!」
両手を上げてガッツポーズを決めるアスカ。
「ふふ。時間はかかったけど、ちゃんと勝てたね」
消えた場所には、宝石のような小さなアイテムが転がっていた。
「……これ、戦利品?」
「うん。ドロップアイテム。合成素材に使えるわ」
「わー! 本当にゲームみたい!」
目を輝かせるアスカを、ノヴァはじっと見つめる。
「……やっぱり、あなたの〈メイク〉は特別だね」
「えっ?」
「普通なら初期スキルで“回復アイテム”を作るなんてありえないの。あなたは、ただのプレイヤーじゃない」
ノヴァの真剣な瞳に、アスカは思わず背筋を伸ばした。
だが次の瞬間、彼女はにやりと笑う。
「……じゃあつまり、私、すっごく期待されてるってことだよね!」
「……そのポジティブさは認めるわ」
こうしてアスカの“初バトル”は、キャンディとスプーンで幕を閉じたのだった。