第二話 ドジっ子JKクラフター、爆誕!
アスカは電脳世界に来てすぐ、ノヴァのサポートで自分の固有スキル〈メイク〉を試すことになる。
頭に浮かべたイメージを形にできるその力は、武器にも防具にもアイテムにも変化する――。
だが最初に成功したのは、とんでもなく小さな……?
光に包まれた視界が落ち着いたとき、私は――才塚アスカは、見渡す限りの電脳空間に立っていた。
どこまでも続く光の海。空には無数のデータが星みたいに瞬いている。地面だって普通の大地じゃなくて、青や緑の格子模様がキラキラと輝いている。
「ここは…………!」
思わず息をのむ。
さっきまで私は、ただの高校二年生だった。クラスでも目立たず、ひとりで本を読んだり、スマホをいじったり……。いわゆるぼっち寄りの女子。
そんな私が、いま謎の地に立っている。どういう理屈でそうなったのかはわからないけど――夢みたいに胸が高鳴った。
「ようこそ、アスカ」
振り向くと、そこに美少女が立っていた。
長い髪が銀色に輝き、目は宝石みたいに澄んでいる。現実ではまずお目にかかれない、完璧な造形。
「わ、わぁ……えっと、誰……?」
「私は《ノヴァ》。この世界の案内役よ」
「案内役……?」
「ええ。あなたはまだこの世界の最初期ユーザーのひとり。だから私は、あなたのサポートを任されているの」
ノヴァはにこやかに微笑む。まるで人間の女の子みたいに。
でも、よく聞けばAIらしい。AIって言っても、ここまで可愛かったら、ほぼ人間じゃない?
「……この世界は、現在まだテスト段階。あなたの参加は、想定外のアクセスだけど……」
「まずは、この世界の基本ルールを説明するわね」
「は、はいっ!」
私は思わず背筋を伸ばした。
ノヴァが話すところによると、この世界は「誰もが自分のアバターを使って自由に活動できる電脳都市」。
ログアウトすれば現実に戻れるし、ダメージを受けても死ぬことはない。
ただし――。
「戦闘で倒されれば、所持アイテムは一部を失うわ」
「えっ、それってゲームのドロップみたいな……?」
「そう。ここは遊び場であり、試練の場でもあるの」
ふむふむ。なるほど、そういう感じね。
「そして――あなたには、特別な力が与えられている」
「特別な力?」
「固有スキル《メイク》。あなたの想像を形にできる、唯一無二の力よ」
――想像を、形に?
なんかチートっぽい響き!でも、本当に私にそんなすごい力が……?
「まずは試してみるといいわ」
「は、はい……!」
私はおそるおそる両手を前に出し、ぎゅっと目をつむった。
頭の中でイメージする。強く、かっこいい剣! アニメとかゲームに出てくるような、誰もが憧れるヒーローの武器!
「で、出ろー! 必殺の……剣!」
光が集まり、私の手のひらの上で形を成していく――。
「おおっ……! きたっ!」
そして現れたのは――。
「……スプーン?」
「……木製ね」
そこにあったのは、手のひらサイズの小さな木のスプーンだった。
私は固まる。ノヴァは口元を押さえて、クスクス笑っている。
「ちょ、ちょっと待って! 私、剣をイメージしたんだよ!?」
「ふふ……でも、初めてにしては形になっているだけ上出来じゃない?」
「えぇー……?」
なんか納得いかない……。
「よーし! 次は防具! かっこいい鎧とか!」
私は再び目をつむり、頭の中で騎士のイメージを描く。重厚な鎧! 威風堂々とした防具!
「出でよ、鉄壁のアーマー!」
光がはじけて、私の体に装備がまとわりつく――。
「……エプロン?」
白いフリルのついたエプロンだった。
しかも胸元には『LOVE☆COOK』みたいなロゴがピンクで描かれている。
「な、なにこれぇぇぇ!」
「似合ってるわよ」
「いやいや! 戦場でエプロンって! これじゃ家庭科部で調理実習でしょ!」
私は思わずその場でジタバタした。ノヴァは肩を震わせて笑っている。
「アスカ、あなた本当に面白い子ね」
「笑いごとじゃないから!」
だけど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
むしろノヴァの笑顔を見ていると、自分の失敗すらちょっと楽しく思えてくる。
「……でもね、アスカ」
笑みを引っ込め、ノヴァは急に真剣な瞳を向けてきた。
「あなたのスキルは、鍛えれば本当に何でも作れる。武器も、防具も、都市も、ひょっとするとこの世界そのものさえ」
「えっ……」
「だから、自分を信じて。あなたはきっと、この世界を変える存在になる」
――え、なんかラスボスっぽいこと言ってない!?
私は心臓をバクバクさせながらも、こくりと頷いた。
「……よし、ラストチャレンジ! 今度こそまともなのを作ってみせる!」
私は深呼吸し、集中した。
今度は――食べたら元気が出る、回復アイテム! キャンディみたいに可愛くて、持ってるだけでテンションが上がるやつ!
「いっけぇぇぇ!」
光が集まり、私の手のひらに転がったのは――透明に輝く小さなキャンディだった。
虹色の光を反射して、宝石みたいにキラキラしている。
「わ、できた! キャンディ!」
「……本当に成功したわね」
ノヴァは少し驚いたように目を見開いた。
「これ……食べたら、ちょっとだけ元気になる……気がする!」
「気がする、のね」
「でも、可愛いし! これ、絶対バズるやつだよ!」
「……バズるって、この世界でも言うのね」
ノヴァが呆れ半分に微笑む。
私はキャンディを掲げて、満面の笑顔を浮かべた。
――こうして、ドジっ子クラフターの第一歩が始まったのだった。