第十七話 影を断つ刃、クレア・ナイトフォール
月影の廃坑へと足を踏み入れたアスカたち。
じめっとした空気、岩肌にまとわりつく黒い靄――。そこに現れたのは、狼のような姿をした影の魔物だった。
「ひ、ひぃぃぃっ! なんかもう影が犬になって襲ってくるんですけどぉぉ!」
「落ち着きなさい! 影に怯んだら本当に飲み込まれるわ!」ノヴァの冷たい声が飛ぶ。
「こっちも炎で焼き尽くしてやる!」ミライが火球を放つが、影の体はゆらりと揺れて炎をすり抜けた。
「え、効いてない!? ずるいでしょ!」アスカが叫ぶ。
「まずいわね……実体を掴めない相手なんて――」
その瞬間、空気が張り詰めた。
すっと、暗闇の奥から少女の声が響く。
「――下がって」
影の群れを切り裂くように現れたのは、金色の髪を後ろに束ねるフードの少女。
彼女の足元から伸びた“影の鎖”が、シャドウハウンドを絡め取り、一瞬で引き裂いた。
「な、なに今の……影が動いた……?」アスカが目を丸くする。
「っ……影を具現化するスキル?」ノヴァが息をのむ。
少女は静かにフードを下ろし、瞳を見せる。
「クレア・ナイトフォール。依頼でこの廃坑を調査している」
アスカが慌てて頭を下げる。
「す、すごい! 助けてくれてありがとうございます!」
「勘違いしないで。ただのついでよ」クレアの声は冷ややかだ。
「あなたたち、ここで遊ぶつもりなら帰りなさい。
月影の廃坑は……生半可な気持ちで来る場所じゃない」
そう言ってクレアは背を向ける。
だが、その背中は確かにアスカたちを“守るように”歩いていた。