第一話 メイキングへようこそ
昼休み。
クラスのざわめきを背に、才塚アスカは窓際の席でコンビニパンをかじっていた。
「……あー、みんな楽しそうだなぁ」
輪に入りたい気持ちはある。けど、声をかけるタイミングをいつも逃してしまう。
しかもドジばかりで、空気が微妙になることも多い。
「ま、いっか。ひとりも気楽でいいし!」
そう自分に言い聞かせて笑うのが、才塚アキコの日常だった。
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放課後。
帰り道でつまずき、スマホを派手に落としてしまったアスカは、追いかけるうちに校舎の片隅――ほとんど誰も近づかない「旧コンピュータ室」の前に来てしまう。
「え、まだ鍵開いてたんだ……?」
ドアを押すと、埃っぽい空気と、ひとつだけ異様に新しい“カプセル状の機械”が目に入った。
な、なにこれ!? 未来のカプセルホテル……じゃないよね?
……でも、なんか“実験機材”っぽい雰囲気……」
興味半分、怖さ半分で近づいたアスカ。
その時、ドジっ子属性が炸裂する。
足を滑らせ、思いきり操作パネルに手を突いてしまった。
――警告音。
――眩い光。
「え、えええ!? ちょっと待って!これ絶対ヤバいやつ!!!」
叫ぶ間もなく、アスカの身体は光に呑み込まれていった。
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目を開けると、そこは現実とはまるで違う、鮮やかな電脳世界。
《固有スキル〈メイク〉を付与します》
「……は? え、メイク!? お化粧じゃないよね!?」
慌ててスキルを発動したアスカの手に現れたのは――三角おにぎり。
「いや食べ物かーい!!!」
そんなツッコミも束の間。
赤い警告文字が視界に踊る。
《敵性プログラム、接近中》
黒い獣が迫り来る。
震える手でおにぎりを投げると――獣は立ち止まり、むさぼり食べ始めた。
「……え、効いた!? やった、やればできるじゃん!」
ドジっ子女子高生のアスカが、電脳世界に放り込まれた瞬間だった。
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獣が去り、静寂が戻ったその時。
青い光の粒子が集まり、人影を形づくる。
現れたのは――アスカと同年代に見える、美しい少女。
銀色の髪が淡く発光し、制服に似た衣装の縁には光のラインが走っていた。
「……はじめまして、才塚アスカ」
「ひっ!? だ、誰っ!?」
「私はサポートAIノヴァ。あなたと同年代の外見に設定されているわ。安心できるでしょう?」
「え、同年代!? ……たしかに安心はするけど! ていうか美少女!? ちょっと心の準備が!」
アスカが慌てる一方で、ノヴァは冷静に告げる。
「先ほどのおにぎり戦法……。効率は最低だけど、成功したことは評価するわ」
「最低って言った!? でも勝ったからいーじゃん!」
「……前途多難だな」
こうして、ドジっ子女子高生と美少女AIの物語が幕を開けた。