第八章 月下の同盟
夜の帳が静かに降りる頃、俺とダン、カルド、ヴィスの四人は再び洞窟へ戻ってきた。
草木の香りと海潮の気配が交じる一日が終わり、次の戦いが近づいている予感がした。
洞窟にはすでに全てのチームが揃っており、大きな円を作って一つの焚き火を囲っていた。だが、その赤い光の中に、昨日まではいなかった、ひときわ異質な人物が混ざっていた。
丸眼鏡をかけ、深緑の外套に身を包み、胸元には複数の道具を収めた革のホルダー。
その姿は、理知と観察を備えた技術者のそれだった。
青年だ。恐らく、これがリオ・アルデンだろう。
彼が俺たちを見つけると、C-7チームの隊長、ジェイク・ウィルソンと共に、静かに歩み寄ってきた。
「やっと会えたな。君たちの噂は聞いているよ」
俺、ジェイク・ウィルソンは、浅黒い肌に浅く刈られた金髪を触りながら、リオ・アルデンを、カイル達に紹介した。
「紹介しよう。彼が、君たちが探していたリオ・アルデンだ。俺の犬型従獣を使って痕跡を追っていた時、森の奥で一人歩いているのを見つけたんだ。」
俺達のチームは、最初は警戒したが、話を聞いてみると、コイツが、カイルが探していたリオ・アルデンだと分かった。
俺、カルドはヴィスと一緒に進み出て、リオに頭を下げた。
「東の砂浜で、助けてくれてありがとう。あのままだったら、シェル・クローラーの群れに囲まれて、マジでやばかった。でも、あんたの的確な指示で俺達、二人は生き残ることができた。本当にありがとう。」
コイツがいなかったら、俺たちは間違いなく死んでいた。
私、ヴィスもカルドと一緒にリオに感謝を伝える。
「……僕たちは、あのときの借りを、返したいと思っています。どうか、協力させてください」
リオの冷静な判断力と指揮能力は素晴らしかった。そのおかげで多くの人が救われた。
だから、今度は私たちが彼を助ける番だ。
俺、リオ・アルデンは、二人の思わぬ言葉に、ふっと眼鏡を指で持ち上げ、微笑を浮かべた。
「礼には及ばないよ。でも、君たちの誠意、受け取ったよ。だから、頼りにさせてもらうね。」
カルドとヴィスの真摯な気持ちが伝わってきた。こういう仲間がいれば、きっと大丈夫だろう。
それに、カイル・レオンハルトと名乗った青年も深くうなずき、手を差し出してくれた。
「俺は……カイル。君の知識と経験が、今どうしても必要なんだ。あの大型のブレード・ラプターを討つために。力を貸してほしい」
どうやら彼の目には強い意志が宿っているようだ。これなら信頼できそうだ。
「わかった。それなら、こちらの状況も共有しよう」
俺は疲れていたが、それ以上に確かな強さを、声に宿して、彼らに作戦を話した。
「東の砂浜を抜けた後、俺はブレード・ラプターの群れに遭遇した。……それは、まるで“狩り”ではなかった。“戦争”だった。そのせいで、多くの仲間が散り散りになった。だがその中で、俺はなんとか大船バールに乗っていたチームの一部と合流した」
俺、ダン・マーフィーは、リオの話を真剣に聞いた。
東の砂浜での戦闘がどれほど過酷だったか、想像に難くない。もしかしたら、俺たちが体験した以上の地獄だったかもしれん。
でも、リオは生き残った。そして、その上で仲間を救った。コイツは、立派な男だ。
焚き火がパチリと音を立てる中、リオの話は続いた。
「南側にある"大きな谷"……そこは、地形的に大型のブレード・ラプターを追い込める唯一の場所だ。だから、そこにアイツを誘導し、一斉に叩く。
そのために、大船バールに乗っていたチームの一部と協力して大型の罠を作っている。けど、人手も物資も足りないんだ。だから……協力して欲しい。」
私、レイナ・クロスは、リオの作戦を聞いて、希望が湧いてきた。妹の仇を討つチャンスかもしれない。
「それなら、私たちも乗るわ。この際、チームも、生き残りも関係ないわ。」
私は立ち上がって宣言した。
俺、サム・ホーキンスも、レイナの言葉に続いて声を上げる。
「その谷で決着をつけよう。俺たち全員で」
個別行動じゃもう限界だ。全員で協力すれば、大型のブレード・ラプターにも勝てるかもしれない。
軍人の家系で育った俺、エリックには、この作戦の価値がよく分かる。
「団結こそが勝利への道だ。全面的に協力しよう」
個々の戦力では限界がある。だが、連携すればどんなに小さな力だろうと、大きな力になる。
俺、マルコ・ベルナルドも、みんなの決意を見て、決心がついた。
「俺たちも参加する。これ以上仲間を失うわけにはいかない」
もう個人の生存なんてどうでもいい。みんなで生き残るんだ。
私は、アンナ・スミス。医療技術者として、みんなの怪我の手当てを担当する決めたからには、私達のチームも、最大限の努力をする。。
「医療面での支援は任せてください。必ず全員を生かして帰します」
私にできることは限られているが、
そのとき、俺、カイルは背後から声が上がったのを感じた。
それは、ギルドの試験という枠を越えた、"仲間"としての決意が、波紋のように広がり、全チームが自然と頷いたようだった。
その夜、洞窟には遅くまで灯りが消えることはなく、皆、地図を広げ、素材の在処を確認し、罠の構造をスケッチし、役割を分担してくれていた。
俺、リオ・アルデンは地図を広げて、皆に谷の地形を説明する。
「この谷は三方が崖に囲まれている。ブレード・ラプターが入ってきたら、出口は一つしかない。だから、ここに大型の落とし穴を作る。そして崖の上から落とし穴に向けて、巨大な岩を落とし、同時に爆弾で谷の入り口を塞ぐ。」
「そこで、役割分担だが、カイル、ダン、ヴィス、カルドの四人には囮になってもらう。大型ブレード・ラプターを谷に誘導してくれ。そして、他のチームは罠の設置と、崖上での待機を頼む」
俺、カイルは役割を聞いて頷いた。
「分かった。囮は俺たちに任せろ」
危険な役割だが、俺たち四人が最も機動力がある。おまけに、ランスもいるし、きっと大丈夫だ。
「だが、一つ条件がある。俺は必ずあの大型のブレード・ラプターと戦う。それが俺の目的だからな。」
復讐のためじゃない。この島で死んでいった仲間たちのために。
そして、静かに夜は更けていった。
リオは、焚き火のそばで一度だけ、俺に囁いた。
「……ありがとう。君たちがいてくれて、本当に、良かった」
俺も答える。
「こちらこそ。君がいなかったら、俺たちに勝機はなかった」
そして翌朝──
「――観測艇より通達。試験終了まで、残り二日──」
冷たい空気と共に響くその声で、洞窟の者たちは一斉に目を覚まし、誰もが無言で荷物をまとめ、背を伸ばし、仲間と目を合わせる。
俺、カイルは決意を新たにした。
もうギルドの試験なんてどうでもいい。この島で死んでいった仲間たちの仇を討ち、みんなで生き残ることだ。
だから、俺は一歩前に出て言った。
「行こう。決着の地、"南の谷"へ。そこで必ず勝利を掴む。」
その声とともに、俺たちの最後の戦いが始まる。
仲間たちの思いを背負って、俺たちは歩き続ける。