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第六章 焚き火の向こうにある、夢に似た記憶

ユリオを追って、アレンとシエナが森に駆け出していった時。

俺、カイル・レオンハルトは胸の奥で何かが軋むのを感じながら、彼らの後ろ姿を見送っていた。


「俺たちも……あいつらを」


「行かせてやろう。あいつらには、あいつらの道がある」

俺がそう、言うとダンが静かに言った。


俺たち二人が支給物の回収を終え、もう一度南を目指して歩み出そうとした頃には、

太陽がすでに沈みかけていた。そして何故か、今日の風は湿っていて、生ぬるい匂いが肌にまとわりついてくる。そのせいか、獣達の気配どこか遠くて、静かだった。

だけど、ランスは俺の足元を静かに歩いている。もしかしたら俺の気持ちがわかるのかもしれない。


俺、ダン・マーフィーは、カイルと歩きながら、胸の内を整理する。仲間が三人、死んだかもしれない。アレン、シエナ、ユリオ。みんな若い奴らだったのに。

だけど俺は、必ず生きて帰らなければならない。愛する妻と二人の娘がいるからな!


「ダン、あそこに洞窟がある」

そう、心の内を整理していた時、カイルが大きな大きな洞窟の入り口を見つけて、指をさした。


「……泊まるには良さそうだな」と

カイルが言うにで、俺はそれにしたがった。

洞窟の中に入ってみると、同じ大船キャッスルに乗っていたC-1からC-4、そしてC-6、C-7チームが夜営していた。


俺、カイルは注意深く周囲を観察する。同じ船のチームがどの程度生き残っているのか、把握しておく必要があるから。


そうやって、俺とダンは軽く会釈しながら洞窟の奥へと進むと、離れたところに焚き火の明かりが揺れていので行ってみると。そこにいたのは、大船キャッスルで見かけなった、やや背の高い陽気そうな青年と、落ち着いた雰囲気を纏った青年が二人は肩を寄せ合い、湯を沸かしていた。


クゥン、クゥン

この新しい人間、二人からは優しい匂いと落ち着いた空気が漂っている。きっとこの二人はいい人間だ。

でも、この洞窟には他にもたくさんの人間がいて、その中には危険な匂いを持つ者もいる。だから僕はカイルのそばを離れないようにしよう。


「大丈夫だよ」という気持ちを伝えたくて、僕はカイルの足元にすり寄って、小さく鳴いた。



「よう、そっちも避難組か?」

その場に行くと、カルド・レーンと名乗る青年が、快活な声をかけてきた。そしてその隣にいたのはヴィス・トゥレインと名乗る青年。二人ともダンと同じヴァインヘイヴンジャン島出身で、農家の息子たちだった。俺はこの時初めて、ダンがヴァインヘイヴン島出身だと聞いた。


「……ヴァインヘイヴン島? 支部のある……あの島か?」

俺は思わず口をついた。ヴァインヘイヴン島は、ギルド支部がある島であり、なぜわざわざ試験が難しいギルド本部の試験を受けに来たのか気になったからだ。


俺が二人に、ギルド本部の試験に来た理由を問うと、カルドが笑って答えた。

「支部じゃ、どうしても回ってこねぇんだよ。命懸けの任務の中でも、とびきり金になるやつがな」


「無謀と思うかもしれんが……夢のある道を選びたくなる年頃だからね。」

ヴィスが穏やかに微笑んだ。その答えを聞いて俺は静かに頷いた。俺自身もまた、生き延びるだけではなく、何かを掴みたくてここいる。まぁ〜その何かってのは深海神への復讐なのだけど。


話題は、彼らが上陸した東側の砂浜へと移った。


「大船バールに乗ってきたのなら……東側の砂浜にいる……あのシェル・クローラーの群れ、どうやって抜けたんだ?」

俺の問いに、カルドが声を張った。


「リオ・アルデンって男がいてな、そいつが、周囲の状況を見てすぐに、他チームに声かけて、的確なを指示飛ばして──。信じられねぇ、速さと連携で群れを捌いて抜けたんだ」


俺は生まれて初めて名顔も知らないヤツをすごいと思った。そんなヤツに会ってみたいと。


「じゃあ、今リオは……どこに?」


「……あいつとは、森に入ったところで、何かに怯えて逃げてきたブレード・ラプターの群れに出くわしてな」

カルドに続いてヴィスが、低い声で続ける。

「逃げる奴らに押し流される形で、俺らも散り散りになっちまって……それで気がついたら、誰もいなくなってた」


同刻、カイルがいる洞窟から少し離れた場所で。


サバイバル試験の初日、俺は他のチームと連携して東の砂浜を切り抜けたんだっけ。

それにしても東の砂浜は地獄だったなぁ〜。数匹の大型シェル・クローラーと何十匹もの小型と中型がいて、ヤツらは、俺達が上陸した瞬間に襲いかかってきた。

目を瞑ればあの時の光景が鮮明に思い出せる。


「みんな、散らばるな! 固まって移動するぞ!」

あの時、俺は大声で指示を出した。パニックになった他のチームメンバーたちを統率するのは困難だったが、なんとかまとめて形にすることができた。


「B-1チーム、左翼を頼む! そしてB-2チーム、右翼を!」


それと同時に、俺は爆弾を使って群れの注意を引き、他のチームが安全に移動できるよう道も作った。


「よし、今だ! 森に向かって走れ!」

機を見て、なんとかシェル・クローラーの群れを抜けることができた。


でも、森に入ってからまたも状況が変わった。何かに怯えて逃げてきたらしい、ブレード・ラプターの群れに出くわしてしまったからだ。


「逃げろ! 散らばって逃げるんだ!」

それでも、俺は最後まで指示を出し続けたが、みんな散り散りになってしまった。


正直、今、自分がどこにいるのかも分からない。けど、今も無事、生き残れている。



俺とダンのこれまでの話を聞いて、しんとした沈黙が洞窟の一部に落ちる。

だが、カルドはその重さに耐えきれなくり、場をなごませようと、懐から火酒の入った小瓶を取り出した。


「……空気が重ぇな。これでもやるか?」

カルドはそう言いながら、皆の木製のコップに透明な火酒を注ぐ。


だが俺は飲む事を躊躇した。何故なら酔えば危険に対応できないと思ったからだ。

でもやっぱり、今夜は大丈夫だろう。何故なら洞窟の中には他のチームメンバーもいるし、見張りもいる。


「ありがたく頂く」

そう、カルドに俺は礼を言い火酒の入ったコップに口をつけた。


酔いが回り始めた頃、俺はある事を皆に向けて呟いた。

「……俺の嫁、アイシャって言うんだ。金色の髪に、青い目。島一番の美人なんだぜ!」

そう言い、俺は妻の顔を思い浮かべる。優しい笑顔、温かい手。彼女はいつも俺を支えてくれる。


「へぇ……そうか……。」

そう言いながら、カイルが笑って酒を口にすると、カルドが横からかぶせる。


「信じてないようだけど、本当だぞ? 島中の男共皆、アイシャちゃんに惚れてんだ。」

カルドに続いてヴィスも口を開く。

「あとコイツ、嫁さんに似た、生まれて数ヶ月の娘と二歳の娘がいるんだぜ!」


俺はカルドとヴィスの発言を聞いて浮かれたのか、カイルに対して聞いてはマズい事を聞いてしまった。

「なぁ……お前の島には、好きだった人とかいたのか?」

だか、カイルは俺の不謹慎な質問に対して、怒りもせず、むしろ微笑みを浮かべ答えてくれた。


俺はダンの質問を聞いたをと少しだけ目を伏せた。心を奥にある記憶をすくいあげるように。

「……いたよ。幼馴染で……初恋だった子。金髪で、青い目。名前は……リアっていう」


リアは俺の初恋の人だ。だが、そんな彼女も深海神によって島と一緒に海の底へ消えた。


「あの日、俺は彼女を守れなかった」

続けて俺は呟く。

「もしあの時、俺がもっと強かったら、彼女を救えたかもしれない」


焚き火の向こうで、マズいことを聞いてしまったと思い、俺は目がわずかに細めた。

その時、俺の胸の奥にある記憶が蘇る。それは妻のアイシャが俺に語った、記憶を失う前のおぼろげな記憶。


「……あいつが、俺に拾われたのは十歳の時だ。名前も記憶もない状態で浜辺に倒れてた。つまりそれはどこからか流れ着いたってことなんだろうな。」と俺は、カルドとヴィスが、酔っ払って寝てしまったあと、カイルに話た。



俺はダンの話を聞いて眉をひそめた。何故ならダンの話が、妙に気になったからだ。

「つまり……今、彼女は十九ってことになるのか?」

そう、俺は質問するとダンは、はっきり答えてくれた。

「ああ。お前と……同い年だ。」と


金髪で青い目、記憶を失った少女、十歳の時に拾われて、今は十九歳。

まさか……いや、そんなはずはない。確実にリアは海に沈んだ。津波に呑まれる彼女の姿をこの目で見たからな。

だから俺は、それ以上追求しなかった。

それは酔いのせいだったのか

──あるいは、真実を知るのが怖かったのか。



クゥン、クゥン

ダンの会話を聞いて僕は不安になった。何故なら、カイルの匂いが、悲しみと混乱の混ざった匂いに変わっているから。


僕はカイルの足元に寄り添って、小さく鳴いた。

クゥン

「大丈夫だよ、カイル。僕がいるから」

するとカイルが僕の頭を撫でてくれた。よかった少し安心した匂いを感じる。


その夜、焚き火が静かに燃え続ける中、俺は眠りにつく前、もう一度ダンの話を思い返してみる。

リアと同じ特徴を持ち、記憶を失って流れ着いた女性。


もしかすると、彼女は生きているのかもしれない。

だか今は、そんな事を考える時ではない。生き残る時だ。


だがそう言いつつも、俺はランスを抱きしめながら、

「リア……君にもう一度会いたい。」と恥ずかしいことを、言ってしまった。

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