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第五章 残響の森、血の誓い

深い森のざわめきが、早朝から止むことはなかった。南の砂浜を目指し、川に沿って進む俺たちは、いくぶん言葉も少なめだ。

昨夜のC-5チーム全滅の知らせが、まだ胸に重くのしかかっている。


俺、カイル・レオンハルトは先頭を歩きながら、仲間たちの様子をうかがうと、ダンは黙々と斧を担いで歩き、アレンとシエナは手を繋いで歩いている。その三人の表情は共通して暗い。ユリオにいたっては時々立ち止まって振り返り、何かに怯えている。


そんな中、先頭を行くランスが低く唸り、茂みを迂回した瞬間、目に飛び込んできたのは、無残にも川に浮かぶ二つの死体。

その二つの死体からは腐敗臭が漂い、無数のスウォーム・ピラニアが群がっている。それと同時に淡い波に流されながら、体は引き裂かれぷかりと浮いている。


「……人間……だよな?」

アレンが声を漏らす。俺も見覚えがあった。昨日、別の船に乗ってたヤツだ。


僕は吐き気を堪えながら、その光景を見つめる。

人間の死体。それも、魚に食われている。


「……埋めてあげよう。せめて、土の下に……」

僕は震える声で提案した。このまま放っておくなんて、とてもできない。


みんなが僕を見る。幸いなことにカイルが頷いてくれた。

「そうだな。やろう」


俺はカイルと一緒に川に踏み込んで、斧を使いながら水面を裂きピラニアを追い払う。

コイツら小さな魚だが、群れになると恐ろしい。何匹かは斧で潰して、死体を岸に引き上げた。


引き上げた死体は、すでに誰とも判別できぬほどに損傷している。恐らく俺と同世代の若い男性二人。俺は激しく動揺した。


「可哀想に……」

俺は妻と娘たちの顔が浮かべながら呟く。もし俺がここで死んだら、家族はどんな気持ちになるだろうかと考えながら。


(カイル視点で)

小さな墓を掘り、全員で手を合わせた時。俺の胸を、ある疑念がかすめた。


(――この死に方、本当にピラニアか? 傷の形が、まるで……刃物の……)

ピラニアの歯は確かに鋭いが、この二つの死体に残る傷跡は妙に整っている。まるで人為的な切り傷のようだ。


だが次の瞬間、俺はその考えをかき消した。


「……そんな馬鹿な」

と呟き、この事について仲間には何も言わなかった。きっと俺の考えすぎだから。


そして昼が近づいた頃、森の中ほどで、二匹の小型ブレード・ラプターに襲われ、悲鳴を上げる三人の女性を見つけた。


「ランス、行くぞ!」

俺は二匹の小型ブレード・ラプターのうち、片方の注意をランスに引かせ、俺が仕留める。もう一方はアレンが挑発し、ダンがそれを一撃で仕留めていた。


その後救出された少女たちは泣きながら口を開いた。三人とも同じ顔をしている。三つ子だ。


「私たちは西の大船アポクリファで来たA-6班。砂浜に降りたら、シェル・クローラーの群れがいて……半分以上の班が、やられたの……!」


私の名前はマリア。妹たちの名前はアンナとエマ。


西の砂浜は地獄だった。数匹の大型のシェル・クローラーと何十匹の小型と中型がいて、上陸した瞬間に襲いかかってきたの。


「砂浜から命からがら逃げてきたあと、メンバーの男性二人と……川辺で夜営してたとき、ピラニアの群れにやられて……二人は……」


この話は嘘。……本当は私たちが、あの二人を殺したの。

だって仕方ないでしょう? この試験に受かったハンターとして、金持ちになりたかったんだもの!



マリアとかいう女の話しを聞いた時、俺の胸には墓の前で消したはずの疑念が再び蘇った。

「……下流にあった二つの死体、あんたらがやったのか?」


俺の言葉に、少女たちは激しく泣き崩れる。


「違う! 私たちは何も……」


「嘘だ。」

自分でもびっくりするぐらい俺の声は、鋼のように冷たくなっていた。


カイルの発言に私は愕然とした。彼が何を言っているのか分からない。


「やめて! 被害者に何を……!」

私は怒りを込めて彼を咎める。でも、カイルは一歩も引かなかった。


「カイル、あなた疲れてるのよ。きっと……」

でも、カイルの目は真剣だった。まるで何かを確信しているかのように。


(アレンの視点で)

俺もカイルを批判した。

「おい、カイル! 何を言ってるんだ!」

でも、カイルはまっすぐに三人の目を見据えている。


すると長い沈黙の後、姉妹のひとりがついに崩れ落ちた。


(三つ子の次女、アンナの視点で)

もう、だめ。隠し切れない。


「……あの朝、妹が男の子たちを誘って……油断した瞬間、私たちが刺したの……」

私は泣きながら白状する。


エマが男の子たちを誘惑して油断させ、その隙に私とマリアが隠し持っていたナイフで背中を刺した。それが真実。


「ギルド支給の装備を奪うため」

それが理由。少なくとも私は生き残るためにしたの。



チームメンバー全員に戦慄が走った。


「最低だ……」

ダンが呻く。


「人殺し……」

ユリオが震えている。


三女は何も言わぬまま。俺たちの支給物を少し奪い、三人は走り去った。。だがランスに彼女たちの匂いを追わせて、森の奥にある洞窟で発見したのは……おそらく大型ブレード・ラプターに食い千切られた無惨な死体だった。


まるで、それは自然の掟が彼女らの罪を罰したようだった。


カイル達が彼女達の無惨死体を発見するかなり前


(マリアの視点で)

「走って! 走るのよ!」

私は妹たちの手を引いて森を駆ける。奪った支給品を入れたリュックが背中で重く跳ねる中。


「お姉ちゃん、息が……」

アンナが息を切らしている。エマも顔を真っ赤にして必死についてくる。でも止まるわけにはいかない。あの男たちが追ってくる。


「私たちが悪いって言うの? 生き残て金持ちになる為に!」

私は振り返りながら叫んだ。カイルたちの姿はもう見えないが、きっと追ってくる。


「お姉ちゃん、でも私たち人を殺したのよ……」

あの場で黙っていたエマが泣きながら言う。


「黙って! 後悔なんてしてる場合じゃない!」

私は無理やり妹たちを引っ張り続ける。森の奥へ、奥へと。


「あそこに洞窟があるわ。隠れましょう」

岩陰に小さな洞窟を見つけた。私たちは中に滑り込む。


「しばらく、ここで様子を見るのよ」


私は息を整えながら言った。支給品を確認する。食料、水、医療用品。これでまた数日は持つ。


「お姉ちゃん……私たち、本当に間違ってないのかな?」

エマが小さく呟く。


「間違ってない! 生きるためよ!」

でも、私の声は震えていた。



しばらくすると洞窟の外から、重い足音が響いてきた。


「何の音?」

エマが震える声で私に聞いてくる。


足音は次第に近づいてくる。やがて、洞窟の入り口に巨大な影が差しむ。


大型のブレード・ラプター。体長、五メートルはある巨体が、洞窟の入り口を塞いでいる。


「きゃああああ!」

三人同時に悲鳴を上げた。


(アンナの視点で)

もうだめ。私たちは袋の鼠ね。


ブレード・ラプターの黄色い目が、私たちを見据えている。鋭い爪が岩を削りながら洞窟に入ってくる。


「逃げて!」

そう、お姉ちゃんは叫ぶが、どこに逃げろというの。


鋭い爪が私の肩を掴んだ。


「痛い! 痛いよ!」

私は必死に爪を振り払おうとするが、力が違いすぎる。


(エマの視点で)

お姉ちゃんが爪に引っ掛けられて宙に舞う。そしてその血が飛び散って、私の顔にかかる。


「お姉ちゃん!」

私は大きな声で叫んだ。でももう遅い、次は私の番なのね。


鋭い牙が私の胸を貫いて、温かい血が口から溢れる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」

もう意味ないのに私は殺した男の子たちに謝りながら、意識を失う。


(マリアの視点で)


妹たちの悲鳴が止んで、私だけが最後に残された。


「あなたたちがあの二人を殺したのは間違いだったの……?」

私はブレード・ラプターに問いかけた。答えなんて返ってこないのに。


鋭い爪が私の首筋を掴み、痛みが走る。やがて視界が暗くなっていく。

最後に見えたのは、奪った支給品が血に染まって散らばる光景だった。


「……エマ……アンナ……ごめんね」

私がそう呟くと、闇が全てを飲み込んでいった。


やがて森には静寂が戻る。三つ子の姉妹は、もういない。残されたのは血痕と彼女らに奪われた支給品だけだった。


まるで自然が彼女たちの罪を裁いたかのように。


(ユリオ視点で)

もう限界だった。

人が人を殺すし、モンスターが人を食う。おまけに死体が川に浮かんでる。


怖い。全部怖い。なんで僕がこんな目に……

「もうやだ……いやだ……!」


僕は叫んで、森の奥へと駆け出した。

洞窟の近くにいた、大型のブレード・ラプターがその動きに反応して、僕のことを一直線に追いかけている事に気づかず。



「ユリオを助けなきゃ!」

洞窟から走って出でていくユリオを見てアレンが叫び洞窟から出る。そのアレンをシエナが追いかける。


「待て、行くな!」

俺が制止するも、二人は聞かずに走り去った。


「危険すぎる! 戻って来い!」

ダンも一緒に叫ぶが、もう遅かった。



(アレンの視点で)

俺たちはユリオを探して森を駆け回った。

「ユリオ! どこにいるんだ!」


シエナも必死に呼びかける。

「ユリオ! 返事して!」


気がつけば、俺らは道に迷い、島の西側へたどり着いてしまっていた。

そこには、さっきの三人の少女たちが語った"屍の海"が広がっていた。



死臭が私の鼻を突く。砂浜には無数の死体が転がっている。

「ひどい……」

私は手で口を覆った。


そのせいか、背後から迫るシェル・クローラーの大群に気づくのが、あまりに遅くなった。


「アレン! 後ろを見て!」

もう囲まれてしまったから、言っても意味ないけど。



シエナがシェル・クローラーの大群に囲まれていても、俺は必死に抵抗した。けど相手は大型のシェル・クローラー数匹と何十匹もの小型と中型の。


「シエナ! 逃げろ!」

俺は愛するシエナに向かって、叫ぶ。

だが、シエナも俺と同じようにヤツらに囲まれている。


そんな時、ヤツらの鋭い爪が俺の胸とシエナの脇腹を貫く。そしてその傷口から血が溢れる。


俺はこれが最後だと思い、改めて思いを伝えた。

「シエナ……愛してる……」


「私も……愛してるよ……アレン」

それが俺達二人の最後の会話だった。


シエナとアレンが森の中を彷徨っていた頃。

僕があのブレード・ラプターに追いかけられていることを、知ったのは背中を切り裂かれた後だ。“カイルが僕に君の目は鋭い”と言ってくれたのは、やっぱりお世辞だっんだな。

結構、僕は何も出来なかった。


「助けて……誰か……」

誰も来ないのに、助けを呼んでしまった。


ヤツはさらに僕の背中を鋭い爪で裂いてくる。痛い。痛い。


「あ〜あ……僕は死ぬんだな。母さん……父さん……僕は強くなれなった。」


僕をハンター試験に送り出してくれた母さんと父さんに対しての申し訳なさと、自分の不甲斐なさを感じながら意識を失った。


無惨にも、やがて日は沈み、深い夜がやってきた。


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