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第四章 死の始まり

北の砂浜に小舟が次々と着岸する。

ギルドの指示通り、各班は上陸順に島の内部へと向かいはじめた。


俺、カイル・レオンハルトとC-9チームの仲間たちも、重いサバイバルキットを背負い、湿った砂の感触を確かめながら一歩ずつ進んでいった。潮風に混じって、どこか獣の匂いが鼻を突いてくる。


支給されたサバイバルキットには、簡易テント、火打ち石、食料2日分、簡易地図、水筒、救急用品が入っている。3日目以降は自力で食料を調達しなければならない。


「地図だと……この先500メートルで森の縁に出る。そこでいったん設営だな」


快活な声で、アレンが確認を取る。

シエナ、斧を担ぐ大柄なダン、不安そうなユリオもそれぞれ無言で頷いた。


その後ろを、俺は相棒のランスと共に歩く。

森に近づくにつれ、空気はぬめりを帯び、耳の奥が詰まるような沈黙に包まれていく。


「……何もいないのが、一番こええな」

ダンが呟いたその瞬間、木の幹に鋭い爪痕が刻まれているのをアレンが見つける。


「ブレード・ラプターの……しかも、かなりデカい個体だな。足跡の深さが普通じゃない」

そこには、爪の跡と共に、真新しい血の染みが残されていた。



俺の名前はアレン・マクレガー。情報屋の家系で育った俺の目は、普通の人間より地形や痕跡を読むのが得意だ。


でも、この爪痕は異常だ。深さが5センチはある。普通のブレード・ラプターなら2~3センチ程度なのに。

「みんな、気をつけろ。これは大型種、もしかすると変異個体かもしれない」


俺は地図を確認する。ここから森の縁まで残り300メートル。できるだけ音を立てずに進もう。


「シエナ、何か薬草は見つけたか?」


「まだこの辺りには有用なものは少ないわね。でも、あの赤い実は毒があるから触らないで」


シエナが指差した先には、鮮やかな赤い実をつけた低木があった。



俺はダン・マーフィー。農家として長年、土と向き合ってきた。だから分かる。この土地は「何か」に怯えている。


地面に足跡がいくつも残されているが、どれも慌てたような走り方。普通、動物は一定のペースで移動するものだが、ここの足跡は全部逃げるような跡だ。


「カイル、この島の動物たち、何かから逃げてるみたいだぞ」


俺は斧の柄を握り直す。こいつは親父から受け継いだ愛用の斧だ。木を切るためのものだが、いざという時は武器にもなる。


妻と二人の娘の顔が脳裏に浮かぶ。必ず生きて帰る。家族を養うために。



僕の名前はユリオ・ベントン。正直言って、この状況が怖くて仕方ない。

みんなは冷静に見えるから、僕だけが震えている気がする。でも、逃げるわけにはいかない。強くなりたいんだ。


「あの……僕、見張りをします」

震える声で言うと、カイルが優しく頷いてくれた。


「頼む。君の目は鋭いからな」

そう言われると、少し勇気が湧いてくる。みんなの役に立てるかもしれない。



やがて日が傾きはじめ、夕暮れの金色が森を包むころ。

夜の森は危険と判断し、俺たちは沢の近くに野営地を築いた。


「火を絶やすな。あと、夜の見張りは二時間交代で」


命じたのはダンだ。土の上での火の扱いも、チーム中で彼が最も慣れている。

ランスは静かに俺の傍に座り、耳を立てて夜の空気を嗅いでいる。


「……お前も、感じてるんだな」

俺はランスに向けて呟く。



私の名前はシエナ・クロス。薬学を学んできた私には、この島の植物相が異常に見える。


本来なら夜になると花を咲かせるはずの月見草が、まだ蕾のまま固く閉じている。まるで何かを警戒しているように。


「アレン、動物たちの行動がおかしいの」

私は恋人のアレンに小声で話しかける。


「夜行性の虫の鳴き声がほとんど聞こえない。生態系に異常があるわ」

アレンは宥めるように私の手を握る。


「大丈夫、俺たちがいる」

それでも、心の奥には不安が残っていた。この静寂は、自然なものではない。


そんな中、焚き火の光が仲間たちの顔を照らす。それだけで平和がそこにあるかのように思えた。


だが――その幻想は、すぐに破られる。



深夜、突然、森の向こうで閃光が走る。


それは決して雷ではなかった。

何者かが空に向けて放った救難信号。続いて――悲鳴が、帷を裂く。


俺は飛び起きた。ランスも警戒態勢に入っている。


「……これは、C-5チームの夜営地の方角だ」

アレンが、声を震わせた。次の瞬間、森の奥から血の臭いが風に乗って届く。


遡ること数分前。


俺の名前はリック・ハミルトン。C-5チームのリーダーだった。


夜中の見張りをしていた時、それは現れる。

巨大な影が月明かりを遮り、鋭い爪が仲間のテントを一瞬で切り裂く。


「みんな起きろ! モンスターだ!」

俺は叫んだが、もう遅かった。


ブレード・ラプター、それも5メートル以上はある大型種だ。その爪は鋼鉄のように光り、一振りで木を両断する。


「うわああああ!!」


仲間のトムが爪に引っ掛けられ、宙に舞った。皮肉なことに、血飛沫が月光に照らされて美しく見えたのが、最後の記憶だった。


俺は必死に救難信号を打ち上げる。せめて他のチームに警告を──

意識が遠のく中、俺は祈った。どうか、他の奴らは生き延びてくれ。



仲間たちは言葉を失い、焚き火の音だけが耳に残った。


「僕たちも逃げるべきじゃない?」

ユリオが震え声で提案する。


「逃げてどこに行く?」

ダンが重い声で答える。


「島から出る手段はない。戦うか、隠れるかしかないんだ」

チーム中で年長者のダンが、そう言うと、皆それぞれの持ち場につき、あたりを警戒する。


皆あれから一睡もできずに、翌朝を迎えた。


そんな時、空を旋回するギルドの観測艇から、音声拡声器を通して通達が島中に響き渡る。


「C-5チーム、全員の生命反応消失。試験継続不能と判断し、死亡認定とする。残存班は試験を続行せよ。終了まで、あと4日」

まるで、事故処理の報告のような冷淡さだった。


死亡認定。

その言葉が頭の中で響いている。僕たちと同じ年頃くらいの人たちが、昨夜死んだんだ。


「これって……本当に試験なの?」

僕は震える声で呟く。


「人が死ぬような試験って、普通じゃないよ……」

でも、誰も答えてくれない。みんな、同じことを考えているんだろうか。


(ダンの視点で)


俺は地面に拳を叩きつけた。


「……これが、現実かよ」


C-5チームの連中とは昨日まで一緒の船にいた。リックという青年がリーダーで、明るい奴だった。それが、もういない。


妻の顔が浮かぶ。娘たちの笑顔が浮かぶ。


俺は絶対に生きて帰る。家族のために。でも、他のチームの誰かの父親や息子が、昨夜死んだんだ。


拳を地面に打ちつけている中

私は静かに祈るように目を閉じる。


薬学を学ぶ私は、「死」というものを理論的に理解していたつもり。でも、こんなに突然、理不尽に訪れるものだとは思わなかった。


「アレン……」

私は恋人の手を握る。


「私たち、本当に生きて帰れるの?」

アレンが私を抱きしめてくれる。アレンも、私と同じように震えていた。



俺は唇を噛んだ。

情報屋として、俺は常に冷静でいることを心がけてきた。でも、こんな状況は想定外だ。


その時、シエナが俺の手を握ってくる。だから彼女だけでも安心させたくて、俺は彼女を抱きしめた。

「大丈夫だ」


そう、シエナに言ったが、自分でも本心か分からなかった。


抱きしめた後、もう一度地図を見直す。この島から脱出する方法以外に生き残れる道はないか探すために。なぜなら、ギルドの船が南側の沖に迎えに来るまで、俺たちは生き延びなければならないから。


アレンが地図を見直している時、カイルだけが立ち上がる。

目を伏せるでもなく、空を睨むでもなく、その場に「在る」ことだけに集中する。


そんな俺の足元にランスがすり寄る。そして低く一度だけ、吠える。

「行こう。これが、"試験"なら、俺たちは生きてこの試験を終える」


俺は仲間たちを見回す。みんな不安そうだが、諦めてはいない。

「昨日、ダンが言った通りだ。逃げ場はない。なら、最後まで戦うだけだ!」


「そうだな」

ダンが立ち上がる。


「俺たちには、守るべきものがある」


シエナとアレンも頷く。ユリオも震えながらも決意を固める。


「僕も……僕も頑張る」


森は、なおも静かだった。

だがそれは、嵐の前の静けさでしかなかった。


俺たちの本当の試練は、ここからだ。

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