第十二章 帰還、そして火花
南の砂浜へ向けて、多くの影が森を進んでいた。やがて、緑のトンネルの奥から、低い唸り声と枝葉を揺らす振動が迫る。
俺、カイル・レオンハルトは相棒のランスと共に隊列の先頭近くを歩いていた。
次の瞬間、五匹のブレード・ラプターが飛び出した。鋭い鉤爪と刃のような顎が、陽光を反射して光る。
「来るぞ! 散開して囲め!」
俺の怒号と同時に、剣と槍が交差し、矢が飛ぶ。森の中での乱戦は危険極まりないが、皆の連携は試験を通して磨かれていた。
ワンワン! ウゥゥゥ!
危険だ! 敵が来る!
カイルの足元で僕は警戒態勢を取る。鋭い牙と爪を持った大きなトカゲたちが襲ってきた。
でも、カイルたちは強い。みんなで協力して戦っている。
僕も小さな敵なら噛み付いて倒せる。カイルを守らなきゃ!
俺、カルドは弓を構えて、ブレード・ラプターの群れを狙う。
「ヴィス、左側の個体を頼む!」
俺は右側の個体に矢を放つ。矢は正確に首筋に命中した。
だが、皮膚が硬いせいで、致命傷にはならなかった。こいつらは本当に硬い。
「みんな、連携を崩すな! 一匹ずつ確実に仕留めるぞ!」
私、ヴィスはカルドと息を合わせて弓を引く。
「了解、カルド!」
私は左側の個体に矢を放つと同時に、他のチームメンバーも攻撃を仕掛ける。
最初は、C-1チームのレイナさんが槍で突き、次に、C-2チームのサムさんが剣で斬りかかる。
みんなの連携が素晴らしい。試験を通して、私たちは本当の仲間になったんだ。
俺、リオ・アルデンは爆弾を使って敵の動きを制限する。
「爆弾投下! みんな、距離を取れ!」
俺が特製の爆弾を投げつけると、爆発で一匹のブレード・ラプターがよろめく。
「今だ! 一気に攻めろ!」
狩猟槌を持ったC-3チームのエリックが、よろめいた個体の首骨を砕く。双剣を持つC-7チームのジェイクが、別の個体の喉を裂く。
森を抜けるころ、ラプターの屍は五つ並び、生存者に深い呼吸と汗だけが残っていた。
「みんな、怪我はないか?」
俺、カイルは仲間たちの様子を確認する。幸い、軽傷程度で済んでいるようだ。
だが安堵する暇はなかった。南の砂浜には、甲羅に棘を持つシェル・クローラーの群れが、泡を吐きながら待ち受けていた。
「また敵だ! 今度はシェル・クローラーの群れだ!」
私、レイナ・クロスは妹の仇を討てた今、もう恐れるものはない。
「みんな、砂浜での戦いは足場が悪い。気をつけて!」
私は槍を構えて、シェル・クローラーの群れに向かう。
硬い甲羅だが、関節部分は柔らかい。そこを狙えば倒せるはずだ。
俺、サム・ホーキンスも砂浜での戦闘は経験がある。
「足場が悪いが、それは敵も同じだ! 冷静に戦おう!」
俺は剣を振って、シェル・クローラーの脚を狙う。
砂に足を取られながらも、なんとか敵の動きを封じることができた。
足場の悪い砂浜での戦いは苛烈だった。波打ち際を赤く染めながら、次々と甲羅を割り、脚を断ち、ついに最後の一匹が波間に崩れた時、全員の顔に疲労と勝利の色が浮かんでいた。
「やったぞ! 全部倒した!」
みんなの歓声が砂浜に響く。
俺は仲間たちの顔を見回す。みんな疲れているが、諦めない強い意志を持っている。
こうして戦い抜いた仲間たちを、俺は誇らしく思う。
やがて、沖合に巨大な影が揺れるギルドの大船が見えてくると同時に、艦首に刻まれた紋章が、ようやく、帰還の証として俺たちの目に映った。
「ついに帰れるんだな。」
俺は感慨深く呟く。
乗船後、リオが代表者として、試験の経緯を報告する。それ以外の、全員が甲板中央に集められ、緊張が漂った。
俺、リオは代表として、重い口調で、試験の経緯を報告した。
「今回の試験では、多くの仲間を失いました。しかし、生き残った私たちは最後まで協力し合い、南の谷で、大型ブレード・ラプターを討伐することができました」
ギルド職員たちが真剣な表情で聞いている。
その輪の外に、見慣れた顔があった。短く刈り上げた黒髪、鋭い灰色の瞳——マヘル・ヴァンス。
紅蓮牙隊所属、双剣を腰に吊るした19歳の若き天才ハンター。おそらく、俺と同郷の男。
俺、マヘル・ヴァンスは紅蓮牙隊所属の天才ハンターだ。
カイル・レオンハルト、同郷の男が生き残ったか。
「実力のない者が死ぬのは当然だ。ハンターの世界は甘くない。それに、生き残ったヤツはただ、運が良かっただけで、死んだ連中は、身の程知らずの、グズだ。」
俺は冷ややかな笑みを浮かべて言い放った。
マヘル・ヴァンスの言葉を聞いた瞬間、俺の胸が熱く燃え上がる。
気がつけば、足が勝手に前に出て、マヘルの胸ぐらを掴んでいた。
「……今の言葉、取り消せ。」
「はっ、お前は同郷だから、もっと気が合うと思ったんだがな。」
その薄笑いに、怒りはさらに膨れあがり、拳を振りかける——だが、カルドとヴィス、そしてリオが間に割って入った。
「カイル、やめろ、落ち着け!」
俺はカイルの腕を掴んで止めようとする。
だが、気持ちは分かる。マヘルの言葉は許せない。でも、ここで暴力を振るったら、カイルが不利になる。
「頼むから、落ち着け、カイル!」
私もカルドと一緒に、カイルを止めに入る。
「カイル、ここは我慢してくれ!」
私はカイルのもう片方の腕を掴む。
マヘルの言葉は確かにひどい。だからと言って、感情に任せて行動するのも良くない。
俺は、カイルの前に立ちはだかる。
「おいおい、カイル。ここで喧嘩したって何もならないぞ」
俺は軽い調子で言う。でも、内心ではマヘルに対する怒りを抑えている
「それに、死んだ仲間たちを侮辱するような奴の相手をするな!」
三人がカイルを止めた直後、重く響く声が空気を切り裂くと同時に、威圧感を放つ背広姿の巨漢が、マヘルの頭を容赦なく拳で叩いた。
「コラ、馬鹿者が!」
その巨漢は、ギルド本部「ハーバー・クラウン」の総帥、グランドマスター・ロルフ・カーディス。
私、ロルフ・カーディスはギルドの総帥だ。
「お前の性格はまったく変わらんな! 少しは自制しろ!」
マヘルは九年前、俺が引き取った孤児だ。才能はあるが、性格に問題がある。
「いい加減、大人になれ」
マヘルは舌打ちしたが、反論はしなかった。
ロルフは俺に向き直り、深く頭を下げた。
「息子の非礼を詫びよう。」
俺が頷くと、重い空気がようやく和らぐ。
「いえ、こちらこそ感情的になってしまい申し訳ありませんでした。」
俺は頭を冷やし、丁寧に謝罪する。
やがて、ロルフは甲板中央に立ち、生き残った者たちを見渡す。
「今、この場にいるC-1の五人、C-2の五人、C-3の五人、C-4の五人、C-6の五人、C-7の五人、B-1の五人、B-2の五人、B-4の五人、B-5の五人、B-6の五人、B-7の五人、そしてC-9のカイル・レオンハルト、B-10のリオ・アルデン——計六十二名を、今期のハンター試験合格者とする!」
歓声が波のように広がる。
「一週間後、ギルド本部がある『ハーバー・クラウン』で所属隊を発表する。それまで各自休養せよ。そして、この試験で散った仲間の遺族には、ギルドが手厚く保証することを約束する。」
その声には揺るぎない力と、失われた命への鎮魂が宿っていた。
俺たちはついにハンターになれた。
長い試験を乗り越え、多くの仲間を失ったが、ついに夢を掴んだ。
でも、死んでいった仲間たちのことを忘れてはいけない。彼らの分まで、俺たちは頑張らなければならないから。
やがて、大船は熱気と共に「ハーバー・クラウン」の港に着いた。
すると、甲板に立つ俺の背後から、カルドが声をかける。
「なあ、明日の午前十時に出るヴァインヘイヴン島行きの船に乗らないか? ダンの家族に会いに行こう。」
ヴィスも続けた。
「奥さんと娘さん、それにお母さんもいる。ダンのことを直接伝えたいんだ。」
隣でリオ・アルデンが、酒臭い息を吐きながら軽く笑う。
「いいじゃねえか、こういうのは勢いだ。」
俺はカイルにダンの家族に会いに行くことを提案する。
ダンの最期の言葉を、直接家族に伝えなければならない、それが俺たちの責任だ。
「カイル、俺たちと一緒にどうだ」
私もカイルの決断を待つ。
カイルに、とってダンの家族に会うのは辛いだろう。でも、逃げるわけにはいかない。
「私たちがダンさんの最期を伝えなければ。」
ダンのことは短い間だったが、立派な男だと思っているし、彼の家族にもきちんと報告したい。
「俺も一緒に行くぜ。仲間だろ?」
俺は、海風を受け、静かに頷いた。
「分かった。明日、一緒に行こう」
ダンとの約束を果たすために。そして、新たな仲間たちと共に。